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年収1,200万円の71歳夫と別居18年…「離婚」より「死別」を待つ“69歳・熟年妻”の恐ろしくも賢い決断【行政書士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月7日 11時30分

年収1,200万円の71歳夫と別居18年…「離婚」より「死別」を待つ“69歳・熟年妻”の恐ろしくも賢い決断【行政書士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

夫婦が別れるシチュエーションは離婚、もしくは死別の2つでしょう。もし熟年夫婦が離婚を検討する際、恐ろしいことですが、現実的な問題として「死別」のケースを考えてみると、意外な事実がわかるかもしれません。本記事では丸山さん(仮名)の事例とともに、行政書士の露木幸彦氏が熟年夫婦の離婚と死別を比較、検討していきます。

恐ろしい…妻にとって「離婚」より「死別」が有利なワケ

誰しも結婚するのは好き好んだ相手です。しかし、最初の印象をずっと持ち続けることは難しいのが現実です。もし、声も聞きたくない、顔も見たくない、同じ空気も吸いたくないほど嫌いで嫌いで仕方なくなってしまったら……。残念ながら、離婚を視野に入れざるを得ないでしょう。

ところで年齢を重ねれば重ねるほど、結婚が長くなればなるほど、そして財産が増えれば増えるほど離婚するのは難しくなります。以下は同居期間別の離婚件数です(令和2年、厚生労働省の人口動態統計特殊報告。全体の件数は19万3,251件)。

0~5年未満:5万8,839件 5~10年未満:3万6,570件 10~15年未満:2万5,556件 15~20年未満:2万1,008件 20~25年未満:1万7,320件 25~30年未満:1万517件 30~35年未満:5,035件 35年以上:6,108件

このように同居期間が30年を超える夫婦が離婚するのは離婚全体の0.5%程度。離婚の件数は一気に激減することがわかります。なぜでしょうか? 答えは、人生の終わりが見えるからです。

たとえば、妻の立場では離婚(離婚届を提出して他人になる)より死別(夫が亡くなって未亡人になる)のほうが圧倒的に有利です。実際のところ、男性の平均余命は80歳で、女性は87歳と、男性のほうが短いです。(令和4年、厚生労働省の簡易生命表)。こうして離婚せず、夫が亡くなるまで待てばいいと考えるのです。

筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、今回の相談者・丸山孝さん(仮名/71歳)はそのことを知らず、離婚の話を進めようとした1人です。いったいなにがあったのでしょうか?

なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また年収や財産の内容、離婚の経緯などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。

子の独立とともに、家を出て行った妻

<家族構成と登場人物の属性(すべて仮名、年齢は現在)>

夫:丸山孝(仮名/71歳)、会社経営者(年収1,200万円) ※今回の相談者

預貯金 1,260万円

退職金(小規模企業共済) 1,450万円 実家の相続財産 5,000万円

妻:丸山和子(仮名/69歳)、専業主婦 

財産不明

子:丸山拓弥(仮名/37歳)、会社員

「当時はまだ若くてなにもわかっていませんでした」と孝さんが振り返りますが、妻とお見合い結婚したのは26歳のときでした。

初めて会ったとき、「はい」「うん」「そうですね」と上手に合槌を打ってくれる妻に惚れたそう。妻はいわゆる三歩下がって歩くタイプ。亭主を立てる謙虚で健気な性格でした。

しかし、いざ結婚すると長所が短所に思えてきたそう。妻は自分から話しかけてくることがほとんどないのです。孝さんが話しかけても、ありふれた返事しかせず、孝さんが仕切らないと会話が続かないのです。「つまらない女ですよ」と嘆きます。

それでも子ども(長男)が産まれたら変わると期待していたのですが、実際にはなにも変わりませんでした。結局、長男のこと以外でコミュニケーションはなく、長男を寝かしつけると、お互いに別々の部屋で過ごす日々。長男のために父、母としての役割はまっとうするけれど、すでに夫と妻としての役割はなくなっており、長男が産まれてから夫婦の営みはありませんでした。

そんなふうに仮面夫婦を続けていたのですが、長男が結婚し、部屋を借り、自宅を出ることに。ほどなくして妻も部屋を借り、荷物を持ち、1人で出て行ってしまったのです。孝さんが53歳のときのことでした。

別居から18年、ついに離婚を決意した夫

そして別居が18年経過。籍だけは入っていますが、ほとんど連絡せず、妻のことを思い出すのは妻の口座に生活費として15万円を振り込むだけ。およそ夫婦とは言えない生活に孝さんも愛想が尽き、我慢の限界に達し、いよいよ離婚を決めたのです。

孝さんが筆者の事務所へ相談しに来たのはお金の条件を決めるためでした。そして孝さんと打ち合わせの末、3つの条件を決めました。

離婚の3つの条件

1.妻の生活費総額1,980万円

そして孝さんは「いまの生活を保証するからいいだろ?」と妻に離婚を迫ったのですが、第一に生活費として毎月15万円。現在、妻は69歳ですが、80歳まで支払うと1,980万円に達します。

2.年金分割

第二に年金です。婚姻期間中、納めた厚生年金を夫婦で按分することを年金分割といいます。年金事務所に試算を申請したところ、妻の年金は毎月3万円、増えるという試算でした。80歳までのあいだ、妻の年金は合計で396万円も増えます。そのため、年金分割の手続に協力することを合わせて提案しました。

3.家の売却費用

第三に自宅ですが、別居10年目に夫婦が住んでいた戸建て住宅を1,260万円で売却。売却金を渡すことを提案しました。

亡き父から受け取った夫の相続財産

孝さんの財産のなかには、丸山家が代々守ってきた財産(実家の土地建物、墓や駐車場など5,000万円相当)があります。孝さんは父が亡くなったとき、この財産を相続しました。しかし、これらの財産は孝さんが長男だから得たものであり、妻のおかげではありません。内助の功とは関係がないので離婚の条件には含めませんでした。

もし、離婚しない場合、妻には孝さんの財産を相続する権利が残りますが、実家の財産もそのなかに含まれます。どんな遺言を残しても妻には遺留分があるので一切、相続させないことは不可能です。一方、離婚すれば元妻の相続分はゼロになります。つまり、離婚することで妻に渡る財産を大幅に減らすことができます。

離婚と死別の比較

しかし、妻は孝さんの提案を受け、そのことを息子に相談。そうすると息子が妻に弁護士を紹介したようです。弁護士は「旦那さんの条件で離婚する場合と、離婚せずに死別した場合と比べてみては」と入れ知恵をした模様。もし孝さんが3年後に亡くなったと仮定した比較を行ったのです。

まず第一に生活費は孝さんが生きている3年間で540万円。これは離婚する、しないに関わらず、受け取ることができます。

第二に年金ですが、孝さんの年収から計算すると遺族年金は毎月13万円です。ただ、妻は自分の年金を受け取っているので、その分だけ遺族年金から差し引かれます。そのため、遺族年金(月7万円)+国民年金(月6万円)となります。

第三に自宅ですが、これは孝さんが亡くなる3年後に相続します。特に遺言を残さない場合、相続割合は妻、息子どちらも2分の1ずつです。そして相続財産は結婚期間中に築いた財産だけでなく、親からの相続財産も対象になります。そのため、丸山家の財産(5,000万円)、夫個人の貯金(800万円)が加算されます。合計で7,060円となり、妻は3,530万円を相続することができます。

なお、孝さんは退職金代わりに小規模企業共済(1,450万円)へ加入しており、第一受取人は「戸籍上の妻」です。そのため、妻が1,450万円をすべて受け取ります。

つまり、離婚(3,636万円)より死別(6,444万円)の方が2,808万円も有利なので妻は首を縦に振らず、今も膠着状態が続いています。孝さんはすでに齢70を超えており、老い先は長くはないでしょう。そのため、妻としては無理に不利な条件で離婚する必要はなく、このまま待機する姿勢を崩しそうもありません。

A.離婚の場合 計3,636万円 生活費(月15万円×80歳まで)1,980万円 年金分割(月3万円×80歳まで)396万円 自宅の売却益 1,260万円

B.死別の場合 計6,444万円 生活費 月15万円×3年間=540万円 遺族年金 7万円×11年(80歳まで)=924万円 実家の財産 5,000万円×2分の1=2,500万円 夫の預貯金 800万円×2分の1=400万円 自宅の売却益 1,260万円×2分の1=630万円 小規模企業共済 1,450万円

このように夫が寿命に近付けば近付くほど、妻は離婚と死別を比較するようになります。大半の場合、離婚より死別の方が妻にとって金銭的に有利ですが、それだけではありません。離婚の場合、嫌いな相手と何回、何十回もやり取りを重ねなければなりません。示談で終わればいいですが、裁判所に持ち込んだ場合、数年間もかかります。

離婚を切り出すのは早いほうがいい

さらに60歳以上の年代はまだ離婚に対して偏見が残っています。親戚、近所、友人から「ご主人と別れたの?」と冷たい目線を一身に浴び続けます。このように精神的、肉体的、そして時間的な負担が伴います。

一方、死別の場合はどうでしょうか? 夫はすでに亡くなっているので、やり取りをする必要はありません。夫が亡くなり、未亡人になることで世間体を損ねることはありません。つまり、死別は離婚と比べて、あらゆる面で圧倒的に楽なのです。

妻がそのことに気付いた場合、離婚に応じなくなります。傷つき、悩み、苦しんで……。無理をして離婚するより、「夫が死ぬまで待てばいい」と。

このように考えると離婚の覚悟が決まっているのなら、離婚を切り出すのは早ければ早いほうがいいのは言うまでもありません。妻が死別という選択肢を見つける前に。

残念ながら、孝さんは完全に出遅れたといえるでしょう。  

露木 幸彦 露木行政書士事務所 

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