俺が面倒みるから…実家暮らしの50代次男、認知症の80代母の口座から計6,000万円を出金→隠蔽成功!2年後「多額の追徴税」を課されたワケ【税理士が警告】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月2日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
親が認知症になったのをいいことに、「悪知恵」がはたらいた50代のジロウさん。しかし2年後、税務調査により多額の追徴課税を受ける羽目に……税務署はこうした「預金の使い込み」をなぜ見破ることができるのでしょうか。事例をもとに、多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が詳しく解説します。
そもそも「税務調査」ってなに?
日本は「申告納税制度」をとっていることから、納税者自ら申告書を作成し、税額を確定させるのが原則です。このため税務調査とは、この納税者が提出した申告書について、その申告内容に誤りがないか税務署が確認する調査手続きのことをいいます。
税務調査には「強制調査」と「任意調査」があり、悪質な脱税の疑いがない場合、一般的には「任意調査」となります。相続税の税務調査の場合、おおむね申告書を提出した1~2年後に調査が行われることが多いです。
もちろんそれ以降に実施されるケースもありますが、年数が経つにつれ調査率は減少します。不正行為があった場合を除き、5年が経過すると時効によって相続税の徴収権が消滅するため、税務調査が入る可能性はありません。
「相続税の税務調査」が一番多い
所得税や法人税に比べ、相続税の税務調査がもっとも行われる確率が高く、国税庁の資料によると、税務職員が実際に調査に来る「実地調査」と電話や文書で調査を行う「簡易な接触」を含めると約2割ほどが税務調査を受けています。また実地調査があったケースでは、約9割近くが申告漏れを指摘されています。
なぜ税務署は、高確率で「申告漏れ」を見破ることができるのでしょうか。これは、税務署は強い調査権限をもっており、その職権により銀行に対して被相続人とその家族の通帳の預金の動きを確認することができるためです。
おおむね10年前までさかのぼって確認することができます。したがって、大きな資金の動きがみられた場合は、申告漏れがあるのではないかと疑いをもたれ調査対象となるのです。
俺が面倒みるから…実家暮らしの次男が犯した“過ち”
【本事例の登場人物】※登場人物はすべて仮名
・サチエ……80代。イチロウとジロウの母。認知症を患っている。
・イチロウ……50代後半。長男。商社勤務。海外の支社で役員を務めている。
・ジロウ……50代前半。無職。実家で暮らしている。
イチロウさんは、母サチエさんと弟ジロウさんの3人家族です。父は数年前に亡くなっており、その際はイチロウさんの提案で、イチロウさんとジロウさんが相続放棄し、父の遺産は母のサチエさんがすべて相続しました。
父は自宅や現金のほか、株式や不動産なども保有する資産家でした。もっとも、相続にあたりイチロウさんは海外勤務のためいつ日本に帰ってくるかわからず、またジロウさんにも株式や不動産を管理できる自信がありません。そこでサチエさんも交えて相談した結果、自宅を除いてすべて現金化することにしました。
相続税を支払ったあと、自宅と現金約3億円が母サチエさんのものに。3億円もあれば、老後の資金としては十分です。無職で母と2人実家に暮らすジロウさんは、「責任もって俺が面倒みるから。兄貴は自分の家庭を守ってくれ」と言いました。
しかし、夫が亡くなってからというもの、どんどん弱っていくサチエさん。徐々に認知症の症状がみられるようになりました。
悪知恵がはたらいたジロウさんは、母親の認知能力がまだ残っているうちにと、母親からキャッシュカ-ドの暗証番号を聞き出し、預金を自由に引き出せるようにしました。もちろん、兄のイチロウさんには伝えていません。
やがて認知症の症状が悪化したことから、サチエさんを施設に入れることになりました。すると、介護の必要がなくなり実家にひとり残された次男は、自由に引き出せる預金を使ってギャンブルにのめり込んでいきます。
みるみるうちに金遣いが荒くなり、母親が施設に入ってから亡くなるまでの3年間で、なんと約6,000万円もの現金を母親の口座から出金していたのでした。
母の死から2年後…ジロウさんに「1本の電話」が
その後、サチエさんが逝去。帰国したイチロウさんが相続税申告のために財産目録を作成していると、その遺産の減り具合に疑問を抱きました。「なんでこんなに減ってるんだ……ジロウ、なにか知らないか?」しかし、イチロウさんがいくら問い詰めても、ジロウさんは「母親の介護で使った」の一点張りです。
怪しいと思ったイチロウさんでしたが、長い間海外におり、母親の面倒をジロウさんに任せっきりにしていた後ろめたさもあり、それ以上責めることはしませんでした。ジロウさんは、「よかった……逃げ切った!」とひと安心です。しかし……。
それから2年ほど経ったある日のこと。ジロウさんのもとに、税務署から1本の電話がありました。出てみると、「サチエさんの相続税調査に伺いたいのですが」とのこと。
平然を装って対応しましたが、「私の使い込みが税務署にバレてしまったのだろうか」と内心冷や汗が止まりません。不安を感じながら、いよいよ調査当日になりました。
和やかな雰囲気が一転…ジロウさんに課された多額の追徴税額
調査官は2名でやってきました。緊張していたジロウさんでしたが、予想に反して和やかな雑談から始まったため、緊張がほどけていきます。
しかし、ジロウさんに笑顔がみえたところで、徐々に相続税申告についての質問が始まりました。
調査官「お父さまが亡くなった際に相続税の申告書を提出されていますが、そのときからだいぶ財産が減っているようですね。なにに使われたのでしょうか?」
ジロウさん「母の体調が悪くなったものですから、ずっと私が面倒をみてきました。なので、その介護費用ですね。3年前ぐらいから認知症になり、そのあと施設に入れることになったので、そこでの費用もだいぶかさんでしまって」
調査官「そうでしたか。しかしそれにしても、あまりにも減りすぎている印象を受けますね……。お母さまの預金通帳の管理はどなたがされていたのですか?」
ジロウさん「母が銀行に行けないものですから、認知症になる少し前から、ずっと私が行っていました」
調査官「なるほど。さきほど3年ほど前にお母さまが認知症にかかり施設に入ったと伺いましたが、そのころから頻繁にお金の引き出しがあるようですね。お母さまの施設費用や生活費などを鑑みても、約6~7,000万円ほど多く引き出されているようです。ジロウさんはいったい、こんな大金をなにに使われたのですか?」
ジロウさん「それは……」
口ごもるしかないジロウさん。和やかな雰囲気が一転、母親の預金をギャンブルに使い込んだことがバレたジロウさんは、6,000万円の申告漏れが指摘されたほか、加算税・延滞税などのペナルティを含めると約2,500万円の追徴課税を支払うはめになりました。
ジロウさんの“使い込み”が税務署にバレたワケ
今回税務調査の対象に選ばれた原因は、やはり「預金の激減」にあります。父の相続税の申告を行ったときからかなりの財産が減少していたことから、相続財産の申告漏れがあるのではないかと調査官は目をつけたのです。
税務調査の対象に選ばれた場合、調査官は事前の下調べのため、職権によりサチエさんの銀行の預金口座の動きと、同居するジロウさんの預金の動きを調査します。本人だけでなく、被相続人や相続人の預金の動きについても重点的にチェックされます。
特に大きな預金の引き出しがあった場合は、「相続人に対し贈与があったのではないか?」「名義預金ではないか?」「タンス預金になっていないか?」など疑問を抱かれやすいため注意が必要です。
税務調査で預金関係の申告漏れを指摘された場合、本税に加え35%~40%の重加算税という重いペナルティを課せられることもあります。
私用で親の預金を引き出さないことはもちろんですが、やむをえず大きな預金の動きがあるような場合には、税務調査に備えてその目的や内容を具体的に答えられるようにしておきましょう。
宮路 幸人
多賀谷会計事務所
税理士/CFP
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