人間関係をうまく構築できる人は自然とやっている…「この人とお喋りをしたい」と思わせる〈究極のコツ〉【人気エッセイストが助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月14日 10時0分
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人付き合いに欠かせない「会話」。初対面でも、何度も会ったことのある人でも、会話の際、大事にしたい「心がけ」がある、とエッセイストの阿川佐和子氏は言います。阿川氏の著書『話す力 心をつかむ44のヒント』(文藝春秋)より、詳しくみていきましょう。
初対面を「いい感じ」にする
慣れない場所での会話は、テレビ番組だけでなく、たとえばよその会社の会議室とか、見知らぬ人たちの集まるパーティとか、会食の場などでも、ドキドキするものです。とくに最初のひと言目が大事。その場の雰囲気と、相手との関係性を決定づけることがあります。
週刊文春の対談現場でも、ゲストと最初にご挨拶するとき、特に初対面の場合はそれなりに緊張します。でも、おそらく聞き手の私以上にゲストのほうがもっと緊張しているだろうと思います。なにしろアウェイですからね。「アガワ、どんなヤツなんだろう」「どんなことを聞かれるんだろう」と心の中に不安を抱きながらいらっしゃるのだと拝察します。
そんなとき、ゲストをお迎えする立場の私は、「どうか怖がらないでくださいね」という気持を込めて(本当は私も怖いのですが)、最初の対面の雰囲気をできるだけ「いい感じ」にしようと心がけます。
たとえば、大きなスーツケースを持って部屋に入っていらしたら、
「あらま。これからご旅行ですか? 違うって? 今、成田から直行なさったんですか? それはそれは。お疲れのところを恐れ入ります」
スーツケースとリュックとバッグを抱えて息を切らして現れた方を、ただ呆然と見ているだけでは失礼に当たるでしょう。率先して荷物を受け取って、部屋の隅に置くのをお手伝いしたら、改めて「初めまして」と挨拶をする。そんな順番になることもあります。
あるいは杖をつき、足を引きずりながらいらっしゃることもある。きっとここまで来るだけでさぞや大変だったでしょう。
「どうぞどうぞ。まずはおかけになって」
ソファをお勧めすると、まずお手洗いへ行きたいとおっしゃる。そんなときも「あ、お手洗いですか? ご案内します」
もちろん担当の編集者君がお連れすることもありますが、編集者君を含め、こちらはお招きするチームです。みんなでこぞって居心地のいい空間を作ろうと動く。そうすれば、ゲストも少しは安心なさるでしょう。
私とて、いつもにこやか、元気溌剌、愛想よし、というわけではありません。そのあたりは仕事仲間に調査していただければ、すぐにバレることです。
「アガワさん? 怒りっぽいよー。すぐ愚痴るし。瞬間湯沸かし器と呼ばれていたお父さん、そっくり」
そういうネット記事が載ったら、どうかがっかりせず、アガワもダメな人間なのだなあと、諦めてください。
でも、いざというときは愛想を振りまきます。張り切り過ぎてKYになることもありますが、やるときゃ、ちゃんとやります。なぜならば、私はお客様を招く役割を担っているからです。そうでなかったとしても、初めて会った方には好印象を持っていただきたいという自意識があるからかもしれません。
いつもにこやかなのは良い
以前、「おはよう」とか「久しぶりー」とかいう場面で、いつもブスッとしている友だちがいました。なんだか不機嫌そう。怒ってるのかな。遅刻してないけど、私に不満があるのかしら。声をかけないほうがいいかしら。会った途端に気分が落ち込みます。
顔のつくりのことを言っているわけではありません。怒ったような顔をしている人はときどきいますが、そんなお顔でも機嫌がいいか悪いかの区別はつくものです。鬼のような怖いつくりの顔なのに、その顔のまま、「アガワさんに会えて嬉しいなあ」と言ってくださる人もいます。そういう人を、むしろ羨ましいと思うこともあります。
だって、怒っているのかなと思ったら、ときおりニンマリしてくださる。そのときの笑顔のありがたさは、普段からニコニコしている人より100倍、御利益がありそうなんですもの。
でも、くだんの友だちは、顔が怖いわけではありません。凜々しくて美しい顔なのに、その日の最初の出会いの瞬間は、いつも本気で不機嫌そう。その後、しばらく話していると、決して不機嫌でないことがわかります。ならばどうして最初にそんな顔をするの? 聞きたかったけれど、聞けないまま、今は疎遠になりました。
嫌いになったわけではないですが、会うたびに不満をいっぱい抱えているような顔をされると、こちらも気分が晴れず、お喋りをする気がなくなってしまいます。
その友だちを見て、心に期したのです。とにかくその日の最初の出会いが大切だ。機嫌よく、にこやかに挨拶をしよう。それだけで、たいした話題が浮かんでこなくても、コイツとお喋りをしたいという気持が湧いてくると思うのです。笑顔の御利益は少なくても、声をかけやすい人間でいようと決めました。
以前、私の担当だった男性編集者は、どんなに仕事が詰まっているときも、会うとなんだか嬉しそうな顔をする人でした。格別、私との仕事が楽しいわけでもなさそうなのですが、機嫌の悪い顔を見たことがほとんどない。私の原稿が遅くなっても、前回のインタビューがうまくいかなかったなあと私がうなだれているときも、会えばいつも機嫌がいい。でも、じっくり話をしてみると、案外、愚痴と不満が多い人でした。
ああいうことをする人の気がしれない、そういうことにはちっとも感動しない。政府はなにをやっているんだろう。けっこうきつい言葉を吐くのです。それなのに、彼と会うとちっとも不安にならないし、不快感も生まれないのは、会った途端の顔が、いつもにこやかだったからだと思います。
阿川 佐和子 作家
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