アセットオーナー・プリンシプルへの期待…資産運用高度化の要
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月31日 7時0分
![アセットオーナー・プリンシプルへの期待…資産運用高度化の要](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/goldonline/goldonline_60745_0-small.jpg)
(写真はイメージです/PIXTA)
機関投資家のうち、年金基金や銀行、保険会社等の金融機関、財団等、資産を保有する組織であるアセットオーナーの運用・ガバナンス・リスク管理に係る共通の原則「アセットオーナー・プリンシプル」の作成が今夏を目途に作成される予定です。ニッセイ基礎研究所の德島勝幸氏の解説です。
資産運用立国実現プラン
政府は昨年12月に資産運用立国実現プランを公表した。日本の資産運用業が必ずしも世界の最先端を走っているとは言えないだろう。アセットマネジャーと呼ばれる資産運用会社のうち、大手の多くが金融機関などのグループ会社であり、独立した基盤の運用会社は預かり資産残高などで劣位になっているものが多い。アセットマネジャーに関しては、今回のプランの中では新興運用業者の促進プログラムの策定が示されている他、資産運用業への国内外からの新規参入と競争の促進が明示されている。
アセットマネジャーに課題が存在するのと同時に、今回の資産運用立国実現プランにおいては、インベストメントチェーンの要であるアセットオーナーについても、明確な課題が指摘されている。アセットオーナーに対しては、今夏を目途に共通の原則としてのアセットオーナー・プリンシプルが作成される予定であり、急ピッチで議論が進められている。
アセットオーナー・プリンシプルとは
アセットオーナー・プリンシプルの対象となるアセットオーナーは、あまりにも種類が多い。想定されているものとしては、“公的年金、共済組合、企業年金、保険会社、大学ファンドなど幅広く、課題もそれぞれである”と示されている。企業年金の多くが資産規模では100億円に満たないのに対し、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用資産は200兆円を超えるし、大手の生命保険でも数十兆円といった総資産を有する会社もある。資産規模や体制が異なるアセットオーナーについて、共通の原則を確立するのは決して容易ではない。
それでも、資産運用立国実現プランでは、“アセットオーナーがそれぞれの運用目的・目標を達成し、受益者等に適切な運用の成果をもたらす等の責任を果たす観点から、アセットオーナーに共通して求められる役割がある”とし、アセットオーナー・プリンシプルを“アセットオーナーの運用・ガバナンス・リスク管理に係る共通の原則”であるとする。
したがって、規模も体制も、更には運用資産の源泉も様々なものであることから、プリンシプルについては、全面的に強制されるルールではなく、スチュワードシップ・コード等と同様に文字通りのプリンシプル・ベースとし、概ねコンプライ・オア・エクスプレインの対応が求められるものと想定される。
プリンシプルのアウトライン
4月下旬に開催された第3回作業部会では、プリンシプルのアウトラインが提示されている。提示された5つの原則を中心に、必要なものは補充原則が追加されることが予定されているようだ。提示された原則案は以下の5つである。
【原則1】:アセットオーナーは、受益者等の最善の利益を勘案し、何のために運用を行うのかという運用目的を定め、適切な手続きに基づく意思決定の下、経済・金融環境等を踏まえつつ、運用目的に合った運用目標及び運用方針を定めるべきである。また、これらは状況変化に応じて適切に見直すべきである。
【原則2】:受益者等の最善の利益を追求する上では、アセットオーナーにおいて専門的知見に基づいて行動することが求められる。そこで、アセットオーナーは、原則1の運用目標・運用方針に照らして必要な人材確保などの体制整備を行い、その体制を適切に機能させるとともに、知見が不足する場合は、必要な外部知見の活用や外部委託を行うべきである。
【原則3】:アセットオーナーは、運用目標の実現のため、運用方針に基づき、運用方法の選択を適切に行うほか、投資先の分散をはじめとするリスク管理を適切に行うべきである。特に、運用を金融機関等に委託する場合は、利益相反を適切に管理しつつ最適な委託先を選定するとともに、定期的な委託先の見直しを行うべきである。
【原則4】:アセットオーナーは、ステークホルダーへ運用状況の情報提供(「見える化」) を行うべきである。
【原則5】:アセットオーナーは、受益者等のために運用目標の実現を図るにあたり、自ら又は委託先である運用会社の行動を通じてスチュワードシップ活動を実施するなど、投資先企業の持続的成長に資するよう必要な工夫をすべきである。
最終形のプリンシプルでは、更に肉付けをされることが期待され、アセットオーナーはどのように対応するかの検討が求められる。アセットオーナーの変革が、日本の資産運用業にとって新しい歴史を描くものになることを期待したい。
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