それって本当に「自己責任」? 未婚男性のリアル…女性から「選ばれない」男性たちはどこへゆく?【トイアンナ】<br />
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月30日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
映画『男はつらいよ』でも語られなかった、本当につらい男の人生とは。下がる実質賃金、増える社会保険料。それでも一家を養うのは男の仕事と期待され、稼ぎがなければ結婚もできない。そんな男性の生きづらさを、書籍『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)の作者、トイアンナが語る短期集中連載。第1回目は「選ばれない男性の話」をつづります。
女性が経済的自立を得つつある
かつて、女性の経済的自立が困難だった時代。「男が女を養う」ことは、女性の生活保障につながっていた。
たとえば、イスラム教では一夫多妻制が容認されている。これは、イスラム教の経典『コーラン』に記載があるからだ。イスラム教が始まった7世紀ごろ、当時は戦乱が続いていた。そのために夫が死んでしまい、大量発生した未亡人(寡婦)や孤児を救済する必要があった。そうして生まれたのが、裕福な男性が女性を複数養う一夫多妻制であった。
さまざまな解釈があるものの、『コーラン』においては“女性は男性より劣位にある”とみなし、“男性は自分の財産から経費を出し、女性の擁護者となる”とされている。こういった流れもあり、現代もエリトリアやフィリピンなどではイスラム教徒に限り、重婚が認められている。
また、かつての日本では、「夫に先立たれた妻は、その兄弟と結婚する。そうすることにより兄弟は一度めとった女性を養う責任を負う」とみなす風潮があった。これをレビラト婚といい、世界中でかつて見られた風習である。
とはいえ、現代日本でこんなことを言い出したら、SNSにさらされるか、弁護士を呼ばれるだろう。現代日本では徐々に、女性が経済的自立を得つつある。
実際に、男女間の賃金格差は縮小している。厚生労働省の「2022年賃金構造基本統計調査」結果によると、フルタイムで働く男性の賃金の中央値を100とした場合、女性の賃金は75.7となる。フルタイム同士で男性よりも3割稼ぎが少ないとはいえ、2012年と比べて5ポイント改善した。徐々に、女性が経済的自立を得ているのだ。
女性の経済的自立は、女性が「生活保障としての結婚」から脱却することも意味する。かつて女性は、自分が生きていくために、男性に食べさせてもらう必要があった。なぜなら、女性が働きやすい職種はごくわずかであり、その多くが低賃金だったからだ。しかし、今や女性は、結婚するかしないかを、選ぶ自由を得つつある。
そして、女性が結婚しない自由を得ると同時に生まれたのが、結婚してもらえない男性たちである。
そこで「選ばれない男性」はどうなるのか。
選ばれない「弱者男性」たち
「弱者男性」とは、インターネット上で生まれた用語で、日本社会のなかで独身・貧困・障害など弱者になる要素を備えた男性たちのことである。
取材・アンケートをもとに『弱者男性の人口』を推定したところ、日本には最大1,504万人の弱者男性がいることがわかっている。日本の男性人口は6,075万人であるから、男性の約24%が何らかの弱者性を抱えていることになる。
弱者になる要素として、書籍『弱者男性1500万人時代』では16カテゴリーに分類した。その一部を、ここに掲載したい。
<弱者男性に当てはまる要素の例> ・介護者 ・虐待サバイバー ・容姿のハンディのある人 ・貧困 ・非正規雇用、無職 ・コミュニケーション弱者つまり、たとえ普通の生まれ育ちをしており、本人に何の責任もなくとも、家族に要介護者がいたり、DVの被害者だったりすると、それだけで弱者性を帯び、フルタイム就労が難しい環境へ追いやられてしまう。
弱者男性には、誰でもなりうるのだ。
そして、一度弱者男性のカテゴリに陥ると、えてして結婚相手としても選ばれにくくなる。
たとえば、30歳で年収1,000万超えのエリートであっても、顔やコミュニケーション能力に課題があれば結婚できない。家族に要介護の人がいても断られる。虐待サバイバーで、PTSDを抱えており、日常生活に支障がある男性は選ばれにくい。
少しでも“欠点”があれば「選ばれない男性」になりうる
2020年の国勢調査によれば、「いずれ結婚するつもり」と答えた若年男性は86%いる。にもかかわらず、男性の生涯未婚率は28%にのぼる。つまり、多くの男性は「不本意な理由で未婚」状態にある、選ばれない男性なのだ。
たとえば、筆者の友人にも、自他共に認める弱者男性がいる。性格は明るく、とても優しい。友達も多い。それでも結婚はできない。なぜなら年収が低すぎたり、家族に課題を抱えた人がいたり、発達障害があったりといったハンデを見せると、婚活で敬遠されるからだ。
これは、女性から見れば「当然」だろう。だが、かつては年収1,000万円以上であったり、 実家に資産があったりすれば 、こういった男性も成婚できたのである。
筆者は婚活相談にも乗ることが多いが、最近は男女問わず相手に少しでも欠点があると「いい人なんだけど、やっぱり結婚しないほうがいいかもしれない。どうしよう」と相談されるケースが増えてきた。
自由意志で結婚する・しないを選べる女性にとって、難がある男性との結婚は「しないで独身でいたほうがマシ」なのである。筆者も女性であり、経済的に自立しているからこそ、それを否定するつもりはない。
だが、選ばれなかったかれらは、どうしようもなく孤独である。 そして、「妻」以外で中年男性の孤独を埋めてくれるコミュニティが、日本には限定されている。弱者男性は男性コミュニティからも阻害され、不審者扱いされるからだ。
一度弱者になった男性の救済策がない
こういった苦難があるにもかかわらず、ひとたび弱者男性に陥ると、男性は「自業自得」と責められやすい。だが、実際にかれらのあり方は「自己責任」といえるだろうか。
たとえば、いまの中年男性は多くが氷河期世代で就活を迎えている。バブル期の1990年度に2.77倍だった有効求人倍率(大卒)は、2000年までに0.99倍へ下がった。つまり、求人の数は約3分の1まで減少したのだ。
さらに、当時は就職できたとしても待遇の悪い会社が多く、長時間のサービス残業、パワハラ、セクハラが当たり前だった。それでいて、体を壊すなどして一度職歴に穴があくと、正規雇用に戻ることは今の若手よりも難しい。
現在、未婚の単身男性の約1割が、年収60万円未満である。
これを、すべて自己責任で済ませるのだろうか。
皆婚主義の復活ではない救済策を
では、かれらをどう支援すべきか。独身研究家であり、コラムニストの荒川和久氏がまとめたデータ*によると、既婚者は未婚者より約1.5倍幸福度が高く、さらに「未婚男性」のほうが幸福度は低い。なかでも、40代・50代の未婚男性は圧倒的に幸福度が低く、調査において「幸せである」と答えた男性はそれぞれ2割程度しかいない。このことから、男性の幸福度には「結婚」が大きく影響する。
そういった事情から、一部の過激派は「皆婚主義を復活させよう」と唱えている。皆婚主義とは、かつての日本で実現していたほぼ100%の結婚率である。これを実現していたのは、親同士の見合いなどで強制的に結婚相手が決まるシステムだった。しかし、こういったシステムで、自由恋愛を知る男女が幸せを感じられるとは思えず、現実的ではないだろう。
*『際立つ「40~50代未婚男性」幸福度の低さの背景』(東洋経済オンライン) https://toyokeizai.net/articles/-/455386 トイアンナ ライター/経営者
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