勘弁してよ…年金月17万円見込の59歳男性「ねんきん定期便」を確認→年金事務所に怒鳴り込んだ“まさかの理由”【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月7日 11時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
ねんきん定期便は、毎年1度、誕生月に日本年金機構から送られてくるはがき(または封書)です。このねんきん定期便、実は受給可能なすべての年金が記載されているわけではありません。ねんきん定期便の見方や注意点について、具体的な事例を交えてみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
「ねんきん定期便」誕生の経緯
そもそも「ねんきん定期便」とは、いつから始まったものなのでしょうか。
1997年に基礎年金番号が導入されてから、それまで複数の年金番号を持っていた人も生涯1つの番号で管理されることとなりました。
しかし、2007年に「年金記録問題」が発覚。基礎年金番号に統合されていない持ち主不明の年金記録が約5,095万件※もあることがわかったのです。この原因は、紙台帳等で管理していた年金記録をデータへ移行する作業などに不備があったためといわれています。
※ 2023年9月時点でも、持ち主不明の記録はいまだ約1,726万件残っている。
そこで2009年4月から、年金保険料納付などの年金加入記録や年金受給見込額を保険加入者本人が確認できるように、「ねんきん定期便」が郵送されるようになりました。
令和4年度末現在、公的年金被保険者は6,744万人にのぼります。また、老齢厚生年金受給者の平均月額は14万4,982円、老齢基礎年金のみの平均月額は5万6,428円です※。
※ 厚生労働省「令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より。老齢厚生年金受給額には老齢基礎年金も併給。
最近の月別の年金保険料の納付状況やこれまでの年金加入期間、老齢基礎年金と老齢厚生年金の見込受給額などは、日本年金機構から毎年誕生月にハガキで郵送される「ねんきん定期便」で知ることができます。
このねんきん定期便は、35歳、45歳、59歳の誕生月には、ハガキではなく水色の封筒で届きます。ここには、これまでの勤め先の名称や加入期間の年月日が記載された「年金加入歴」や「厚生年金保険における標準報酬月額などの月別状況」、「国民年金保険料の納付状況」が記載されています。
なお、60歳未満のねんきん定期便には、現在の加入条件が60歳まで継続すると仮定した場合の見込受給額が、また60歳以上65歳未満のねんきん定期便には作成時点の年金加入実績に応じた見込受給額が表示されています。
「ねんきん定期便」には“記載されない情報”も
現在、ねんきん定期便に記載されている情報は、国民年金(老齢基礎年金)と、厚生年金(老齢厚生年金)」の報酬比例部分や経過的加算などの受給見込額です。
そのため、受給対象者は限られますが、「加給年金」や「振替加算」の見込額の記載はありません。
また、国民年金に上乗せする「国民年金基金」、厚生年金に上乗せする企業年金の「企業型確定拠出年金」や「確定給付年金」、「厚生年金基金」は、私的な年金ですので、ねんきん定期便には記載されません。
ただし、厚生年金基金の加入記録はねんきん定期便に記載されます。また、基金加入者の「老齢厚生年金」受給見込額は、以前は基金が代行する報酬比例部分※を除いた記載でしたが、2021年6月以降は、報酬比例部分も含めた受給見込額が表示されるようになりました。
※ 後述の[図表]を参照のこと。
どうなってんだ!…59歳Aさんが年金事務所でキレたワケ
59歳のサラリーマンAさんは、定年まで残り1年を切っています。ある日、「退職するか、再雇用制度を利用するか迷っているので相談したい」と、FPである筆者に連絡がありました。
Aさんの職業は広告デザイナーです。美術系の大学を卒業後、大手上場企業に就職しました。25歳で懇意の先輩が勤める会社に転職してからは、さらなるキャリアアップを目指して3~5年ごと職場を変え、45歳で8社目の現在の会社に落ち着いたそうです。
筆者が「対面で詳しくお話を伺う際には、ねんきん定期便をお持ちくださいね」とお願いしたことから、Aさんは「そういえば、ちゃんと読んだことなかったな。俺っていくらくらい年金をもらえるんだろう?」と気になり、今年の誕生月に届いた水色の「ねんきん定期便」の封を開け、1ページ目から読み始めました。
気になる「ねんきん定期便」の中身は…
2ページの「老齢年金の種類と見込額(年額)」には、年金は65歳から204万円(月額17万円)と記載されています。現在の給与が月額約80万円のAさんは、「5分の1に減るのか、だいぶ少ないな……」と浮かない表情です。
また3ページの「これまでの『年金加入履歴』」に「表示している『年金加入履歴』に『もれ』や『誤り』がないかご確認ください」と記載されていたことから、Aさんは熟読。その結果、3つの疑問点が出てきました。
1.27歳から30歳まで勤めた会社の記録がないのではないか?
2.38歳~42歳までの「厚生年金基金」への加入について、身に覚えがない
3.加給年金をもらう資格はあるはずだが、記載がない。もらえないのか?
「公的な書類のはずなのに、ミスだらけじゃないか? それとも、俺が間違っているのか!?」焦ったAさんは、早速年金事務所の相談予約を取りました。「ちょっとどうなってんの!? 勘弁してくれよ!」と、つい窓口で声を荒らげる始末です。
年金事務所の職員が教えてくれた「ねんきん定期便」の実際
しかし、そんなAさんの必死な訴えを優しく受け止めるように、年金事務所の職員は慣れた様子でAさんの3つの疑問を解決してくれました。
1.27歳~30歳まで勤めた会社の記録がないのでは?
Aさんは、「ねんきん定期便」の3ページを指しながら、「これまでの『年金加入履歴』」に記載されている勤めた会社名に27歳から30歳まで勤めた会社の記載がなく、その間は『空いている期間があります」と印字されているんです」と指摘。
年金事務所で改めて調べてみると、年金の記録が漏れていることがわかりました。実際に勤めていた確認がとれたことから、年金記録に反映する手続きをしてもらいました。
2.38歳~42歳までの「厚生年金基金」への加入について、身に覚えがない
Aさんは、続けて職員に訴えます。「同じページの年金加入履歴の38歳から42歳まで勤めた会社に『基金加入期間』と印字があるのですが、まったく身に覚えがなく……これ、他人の記録ではないですか?」
そこで職員はAさんと一緒にねんきん定期便を確認。すると、3ページ下方の「厚生年金保険計」の欄には基金に「36ヵ月」と印字がありました。その会社に勤めていた期間と合致することから、このとき勤めていた会社では厚生年金基金に加入していたことがわかりました。
「厚生年金基金」とは、国が行う老齢厚生年金の報酬比例部分の一部の支給を、基金が代行して行い、加えて企業独自の上乗せ給付(プラスアルファ)の年金を基金から給付する制度です。
![](https://ggo.ismcdn.jp/mwimgs/c/f/800m/img_cfe6dfb8cadee2805b7b19fbc76fa4d759748.jpg)
法改正により2014年4月以降、厚生年金基金を解散するかまたは確定給付企業年金へ移行することが促されました。またAさんのような2014年3月31日までに、厚生年金基金を短期間で脱退したり、同日までに解散した厚生年金基金加入員に対する年金は、企業年金連合会から支給されることになっています。
企業年金連合会によると、令和4年度末で厚生年金基金の未請求者は約107万7,000人いることがわかっています。
年金事務所で改めて調査してもらったところ、このねんきん定期便の記載どおりにAさんが実際に厚生年金基金に加入していたことが確認できました。保険料もきちんと給与から天引きされており、給与明細にその金額も印字されていたそうです。
ただ、Aさんは短期間の就業であり、この会社はすでに廃業していることから、基金分は企業年金連合会から受け取ることになります。なお、企業年金連合会※に記録があることも確認してもらいました。
※ 「企業年金連合会」とは、厚生年金基金の中途脱退者、または解散基金加入員などの年金記録とその原資を預かり、一定の条件で年金を支給する組織のこと。
ねんきん定期便に記載がない「加給年金」はもらえる?
3.加給年金をもらう資格はあるはずだが、記載がない。もらえないのか?
Aさんはテレビの特集で「加給年金」について知り、自身が65歳になって以降5歳年下の妻が65歳になるまで5年間加給年金が受給できると気づきました。しかし、ねんきん定期便にはこの加給年金について記載がありません。
この旨を職員に確認したところ、たしかにAさんは厚生年金に20年以上加入して、妻の厚生年金の加入歴は20年未満ですので加給年金の受給資格はあるそうです。ちなみに令和6年度の受給額は40万8,100円(月額3万4,008円)です。
しかし、加給年金は「ねんきん定期便」には記載していないそうです。その代わり、65歳以降の「年金決定通知書」や「支給額変更通知書」などに、該当期間中は受給額が印字されると教えてくれました。
「ねんきん定期便」で決まったAさんの老後
年金事務所に行った帰りに、Aさんは筆者の事務所を訪ねてきました。筆者に会うなり、年金事務所の職員から聞いた話をまとめて教えてくれました。
65歳からの年金受給額は、「ねんきん定期便」に書かれていた月額17万円に加えて、勤務先の記載漏れ分が月額約1万円、さらに加給年金が65歳から70歳まで月額約3万4,000円あるそうです。「このほか、厚生年金基金もあるのですが、若いころの短期間の就業だったのであまり期待できないと言われました」とAさん。
つまり、「ねんきん定期便」に記載されている受給額よりも、毎月4万4,000円増えるということです。
また、Aさんが悩んでいた60歳以降の働き方については、「あのあと夫婦で話し合い、谷間といわれる年金収入が始まるまでの5年間は働き、65歳でリタイアを考えているがそれでいいでしょうか」といいます。
そこで筆者は、Aさんが考えているプランで早速シミュレーションしてみることに。すると、老後破産の心配はまったくないことが明らかになりました。
65歳までは給与収入で貯蓄もでき、70歳以降は妻の年金収入もあることから、リタイア後の暮らしで退職金を取り崩すことはあっても、貯蓄は取り崩すことはなさそうです。
Aさんは、「いやあ、ねんきん定期便をしっかり確認してよかったです。きっかけをくれてありがとうございました」と安堵としながらも、「それにしても、焦って窓口でカッとなってしまい、申し訳なかったな……」と反省している様子でした。
「ねんきん定期便」は、老後の収入の指標を示す大事な書類です。届いたらすぐに確認するようにしましょう。また、日本年金機構が提供するHP「ねんきんネット」に登録しておけば、見たいときにいつでもご自身の記録や受給見込額などを確認することができるためおすすめです。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
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