後悔しています…〈年収600万円・貯蓄ゼロ〉の59歳サラリーマン、定年後の“長すぎる老後”に絶望→「なんとかなりそうだ」と立ち直れたワケ【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月11日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」[単身世帯調査](令和5年)によると、50代の38.3%、60代の33.3%が「金融資産を保有していない」そうです。平均寿命が延び、老後の資金計画の重要性が高まるなか、蓄えがない状態で老後を生きるにはどうすればよいのでしょうか。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役でCFPの井内義典氏が、具体的な事例を交えて解説します。
「貯蓄ゼロ」で独身貴族の59歳Aさん、定年間近の“後悔”
“宵越しの銭は持たない”が信条のサラリーマンAさん(59歳)。明るく人付き合いが良いため上司・部下問わず関係なく慕われているものの、仕事ぶりはそこそこ。22歳で大学を卒業後、新卒として従業員数1,000人以上の企業に入り、長年同じ会社で勤務を続けているものの、年収は600万円ほどです。
独身を謳歌していたAさんは、仕事終わりに飲み歩くのが日課。休日も仲間と趣味のゴルフや旅行に出かけ、金に糸目をつけない暮らしぶりのため、貯蓄と呼べるものはほとんどありませんでした。
そのようななか、今年11月で60歳の定年を控えるAさんに、会社から再雇用の打診がありました。再雇用を受けると同じ会社で65歳まで勤務することができます。しかし、給与は現在の半分ほど、約300万円になるそうです。
「再雇用はありがたいが年収半分はキツイな……そういえば、年金ってどれくらいもらえるんだろう?」そう思ったAさんは、家にあった「ねんきん定期便」を改めて確認。すると、65歳以降の年金受給額は月16万円ほどでした。Aさんはこれまで年金や老後のことに無頓着でしたが、ここにきて「この収入でどうやって生活すればいいんだ!?」と、ひどく動揺したそうです。
困ったAさんは、FPである筆者のもとに相談へ。ひととおり話を聞いた筆者は、「平均寿命を考えると、あと25年近くありますからね」とぽつり。するとAさんは、「え、あと25年!? しかも平均ってことは、それより長生きする可能性も全然あるってことじゃないか……」と絶望の表情に。
「節約ばかりのつまらない人生は送りたくない。でも、いまさらながらお金のことが心配になってきて……なんとかなりませんかね?」と涙目です。
そこで筆者はAさんに、次のように助言を行いました。
筆者がAさんに伝えた「国からもらえるお金」の存在
給与は下がっても…継続して働けば「高年齢雇用継続給付」が受給可能
当たり前のことですが、すでに使ってしまったお金はもう戻ってきません。このままでは、老後の生活もままならなくなる可能性があります。いままでどおりの散財はできないことをまず認識し、節約をしながら少しでも余裕のある老後を送れるように備えることが重要です。
Aさんは60歳から再雇用で大幅に給与が下がるものの、継続して勤務していれば65歳まで雇用保険制度から「高年齢雇用継続給付」が支給されます。
Aさんの場合、年間で45万円、65歳までの5年間で225万円程度支給される計算です。生活費や貯蓄に回せるほか、贅沢はできずとも娯楽費に活用することも不可能ではありません。
年金の「繰上げ受給」はデメリットが大きい
「知り合いから、年金は65歳より前からもらえるって聞いたんだけど」と話すAさん。たしかに年金については65歳から支給のところ、繰上げ(=前倒し)をして早く年金を受給する制度があります。もっとも早く受け取りたいという場合は、60歳0ヵ月から受給可能です。
しかし、繰上げをすると減額される点には注意が必要です。1ヵ月繰上げるごとに0.4%、5年繰り上げて60歳0ヵ月から受け取ると24%(0.4%×60月)減額となります。
また、繰上げ受給は一見魅力的に思えますが、早く年金を受け取れる分「年金収入もあるから」とついついお金を使いすぎてしまうことも少なくありません。65歳以降にゆとりを持った暮らしを希望する場合、辛抱しなければならないなかでの繰上げ受給は得策ではないでしょう。
さらに、先述の高年齢雇用継続給付を受けることで、年金(老齢厚生年金)の一部(最大で標準報酬月額=月給の6%)は調整されてしまいます。
Aさんが確認した年金額はあくまで「見込額」
また、Aさんが「ねんきん定期便」で確認した年金額は65歳時点で月16万円(年間192万円程度)だそうですが、これはあくまでも60歳まで勤務した場合の「見込額」です。
したがって、60歳から65歳まで再雇用で月給25万円(標準報酬月額26万円)で5年間勤務すると、老齢厚生年金のうちの報酬比例部分が年間8万円増え、他に経過的加算額(老齢基礎年金相当)が年間5万円ほど増える計算になります。
よって、65歳までの再雇用を受けることにより65歳からの年金受給額は年間13万円ほど増え、年205万円(月約17万円)となります。
65歳以降も可能な限り給与収入を得ることで「年金」を長生きさせる
老後資金を考えるうえでは、会社の退職金制度や企業年金制度についても確認しておく必要があります。勤務先にこうした制度が整っているのであれば、こちらも老後資金として活用できるためです。
とはいえ、少しでも定年後安心して生活を送るためには、まずは継続して勤務するということがポイントになります。
65歳まではもちろんのこと、65歳以降も可能であれば給与収入を得るといいでしょう。リタイア後は時間を持て余し、収入がないにもかかわらず支出する機会が多くなりがちです。そうなると収支が大きくマイナスになり、家計は苦しくなる一方です。
退職金等があり、これからの5年間で65歳までどうにか貯蓄を作れたとしても、65歳でリタイアしてしまっては老後資金の枯渇が早まってしまう恐れもあります。65歳でいまの会社の再雇用が終わっても、別の仕事を探すなど65歳以降も仕事を継続し、給与収入で生活を賄う努力が必要です。
65歳以降も働くことを前提に考え、給与収入で足りなければ退職金等でカバーする方法をとります。これらで老後の生活がなんとかなるのであれば、年金はまだ受け取りません。
終身で受給できる年金には、前述した繰上げ受給という方法のほか、繰り下げて(=受給開始を遅らせて)増額して受け取るという方法があります。具体的には、1ヵ月繰下げるごとに0.7%増額されます。
給与収入や退職金で賄えるうち年金を受け取らず、本当に必要になったタイミングで受給を開始します。
こうすれば、たとえ給与や退職金・貯蓄が尽きても、年金だけは生涯増額された額で受給することが可能です。老後も長い人生となりますから、25年あるいはそれ以上にもなりうる今後の収入をこのように想定・計画し、資産に余裕ができたときは娯楽など+αのことにお金を使うこともできます。
筆者の助言を聞いたAさんは、「いままでどおりお金は使えないけど、これならなんとかなりそうですね……。散々遊んできたことは、正直後悔しています。でも、まずはできるところから徐々にやっていきます」と、少しですが希望を持ってくれたようでした。
井内 義典 CFP 株式会社よこはまライフプランニング 代表取締役
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