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市民後見人とは何か…後見制度の担い手として期待される役割

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月1日 7時0分

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(写真はイメージです/PIXTA)

令和5年版高齢社会白書によると、65歳以上の単身高齢者は670万人(男性15.0%、女性22.1%)に達し、今後も更に増加する見込みである。単身高齢者の増加は、孤独死、消費者トラブル、認知症の進行など多くの問題を抱える。認知症高齢者の増加が見込まれるなかでは、介護職の人材不足に加えて、高齢者の人権擁護を担う後見人の担い手不足も深刻だ。政府では、第二期成年後見制度利用促進基本計画のなかで、多様な担い手の確保・育成を進めており、今回はそのなかで市民後見人についてニッセイ基礎研究所の鈴木寧氏の解説です。

1―はじめに

令和5年版高齢社会白書によると、65歳以上の単身高齢者は670万人(男性15.0%、女性22.1%)に達し、今後も更に増加する見込みである。単身高齢者の増加は、孤独死、消費者トラブル、認知症の進行など多くの問題を抱える。認知症高齢者の増加が見込まれるなかでは、介護職の人材不足に加えて、高齢者の人権擁護を担う後見人の担い手不足も深刻だ。

政府では、第二期成年後見制度利用促進基本計画のなかで、多様な担い手の確保・育成を進めており、今回はそのなかで市民後見人について紹介をしたい。

2―成年後見制度をめぐる現状と課題

市民後見人について説明をするにあたり、先ずはその活動の前提となる成年後見制度における現状について簡単に振り返ってみよう。

1|成年後見制度とは

成年後見制度は、認知症、知的障がい、精神障がいなどによって判断能力が十分ではない人を家庭裁判所によって選任された後見人が、被後見人本人(以下、本人)の財産管理や身上保護を通じて本人の権利擁護をするための制度として2000年4月の民法改正により発足した。

成年後見制度のなかでも、本人が未だ判断能力を有している間に自ら将来、判断能力が不十分になった場合に備えて後見人及び支援内容を契約する「任意後見」と、家庭裁判所が後見人を指名する「法定後見」に分けられ、「法定後見」は更に、本人の認知能力に応じて、「後見」「補佐」「補助」の3類型に分けられている。

成年後見人の役割は、「本人の意思を尊重し、かつ本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、必要な代理行為を行うととともに、本人の財産を適正に管理していくこと*1」とされており、具体的には、(1)本人のために診療・介護・福祉サービスなどの利用契約を結ぶこと(身上保護)、(2)本人の預貯金の出し入れや不動産の管理などを行うこと(財産管理)、が主な仕事となっている。

*1:最高裁判所 後見ポータルサイトhttps://www.courts.go.jp/saiban/koukenp/koukenp1/index.html

2|成年後見制度の利用状況

続いて、現在の成年後見制度の利用状況について確認してみよう。

(1) 利用者数

2023年12月末時点での、成年後見制度(成年後見・補佐・補助・任意後見)の利用者数は249,484人であり、2014年の184,670人と比べると約4割の増加となっている(図表1)。しかし、厚生労働省では2020年の認知症高齢者数だけでも602万人*2と推計しており、この人数と比較すると、利用者数の割合はわずかその4%程度の水準でしかない。更に認知症には、その予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の方もほぼ同程度の人数がいることが推定され、これを踏まえると制度が十分に活用されていると言うには程遠い状況だ。

また、利用者数の内訳をみると、成年後見が178,759人(制度利用者数全体の71.7%)で、補佐が52,089人(同20.9%)、補助が15,863人(同6.4%)、任意後見が2,773人(同1.1%)と続く。利用者数の大半が成年後見を利用している状況を見ると、現在の成年後見制度の利用者は、預貯金等の管理・解約、不動産の処分、介護保険契約手続きなどの必要に迫られ、問題が深刻化して初めて成年後見を利用した人が多く、軽度認知障害のような成年後見まではいかなくとも、財産管理に困難をきたしている人が、補佐あるいは補助の申請をされないまま日常生活に不便を強いられている可能性も伺える。

*2:厚生労働省 認知症の人の将来推計について https://www.mhlw.go.jp/content/001061139.pdf

(2) 後見人の選任状況

続いて、成年後見人と本人の関係を見てみると、親族(配偶者、親、子、兄弟姉妹、その他親族)が後見人として選任されているのは、18.1%であり、市民後見人はわずか0.8%となっている(図表2)。

成年後見制度発足時の2000年には親族の割合が91%、専門職は8%であったが、年々親族が選任される割合が減り、代わりに司法書士29.4%、弁護士21.9%、社会福祉士15.1%等の専門職が選任される割合が増えることとなった。その背景には、当初、親族後見人による財産横領などの不正事例が多く発生し、家庭裁判所が親族を後見人に選任することに消極的になったことがあげられる。加えて、高齢者の単身世帯や身寄りのない高齢者が増加していることも要因のひとつとなっている。これは、法定後見の申立人*3が、身近な親族がいないため、市区町村長による申立が全体の約4分の1まで達していることからもわかる。

以上のように、高齢者、とりわけ単身高齢者世帯の増加の一方で、成年後見制度の利用者数が伸び悩む状況のなかで、政府は成年後見制度の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、2018年に成年後見制度利用促進会議及び成年後見制度利用促進専門家会議を厚生労働省に設置し、現在、第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年度~令和8年度)を進めている。

同計画のなかでは、優先して取り組む事項として、(1)任意後見制度の利用促進、(2)担い手の確保・育成などの推進、(3)市町村長申立ての適切な実施と成年後見制度利用支援事業の推進、(4)地方公共団体による行政計画等の策定、(5)都道府県の機能強化による権利擁護支援の地域連携ネットワークづくりの推進、の5点を挙げており、市民後見人については、(2)のなかで、専門職後見、法人後見と合わせて、多様な後見事務等の担い手として、期待されている。

3 成年後見の申立てができるのは、本人、配偶者、4親等以内の親族、成年後見人等、任意後見人、成年後見監督人、市区町村長、検察官となっている。

3――市民後見人とは

1|市民後見人とは

市民後見人は、「弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士、行政書士、精神保健福祉士及び社会保険労務士以外の自然人のうち、本人と親族関係(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)及び交友関係がなく、社会貢献のため、地方自治体等が行う後見人養成講座などにより成年後見制度に関する一定の知識や技術・態度を身に付けた上、他人の成年後見人等になることを希望している者」*4とされる。つまり、弁護士、司法書士等の専門職以外で、本人と交友関係のない一般市民が地元の市町村等において成年後見制度に関する所定の研修*5を受講することにより、家庭裁判所から選任されて自身の親族以外の後見業務を行う仕組みだ(図表3)。

市民後見人が行う主な業務は、専門職と同様に本人の財産管理と身上保護であり、本人にとって最も良い生き方ができるように生活を支え、意思決定を支援するための大きな権限を持つとともに、善管注意義務の責任も負うことになる。

市民後見人は専門職との違いにおいて、専門職が財産管理に偏重した後見業務になりやすい、との指摘がある一方で、市民後見人は本人の身近に居住し、頻繁な訪問を通じて信頼関係を築きやすい。また、地域における介護保険サービス等、社会資源を熟知したうえで、後見業務ができる点が最も大きな強みといえる*6。つまり、専門職と比べて、市民後見人には本人の生活に寄り添った市民目線で、身上保護により重点を置いた後見業務を期待されている。

従って、市民後見人が選任されるケースは、本人の財産が高額ではなく(債務超過ではなく、概ね預貯金が1,000万円未満)、親族間での紛争性がなく、後見業務を行うにあたり高い専門性を必要とせず、日常的な金銭管理や安定的な身上保護が中心の案件が想定されている。

今後、更なる高齢化の進展に伴う認知症高齢者の増加が予想されるなかで、市民後見人と専門職それぞれの強みを活かした多様な担い手確保が市町村を中心に地域で進められている*7

*4:最高裁判所「成年後見関係事件の概況-令和5年1月~12月」

*5:研修内容については、厚労省が「市民後見人養成のための基本カリキュラム」として、成年後見制度、民法、介護保険制度等、講義と体験学習合わせて50単位(1単位=60分)にて構成。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/shiminkouken/index.html

*6:厚労省の「市民後見人実態把握調査」(令和4年)において、市民後見人の活動によるメリットとして「生活者の視点と立場で被後見人等と接するため、本人の希望や意思が表出されやすい」、「頻回な訪問により被後見人等の状態変化等を発見しやすい」との評価が50%を超えている(複数回答)。

*7:2012年に老人福祉法第32条2項が改正され、市町村には「民法に規定する後見、補佐及び補助の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るため、研修の実施、後見等の業務を適正に行うことができる者の家庭裁判所への推薦その他の必要な措置を講ずる」ことが努力義務とされた。

2|市民後見人の活動方法

続いて、市民後見人の具体的な活動方法について見てみよう。市民後見人としての活動は、主に(1)個人受任での活動、(2)法人の支援員としての活動、の2通りがある。

(1) 個人受任での活動

これは、家庭裁判所から選任された市民後見人が、個人で市町村等の支援を受けながら後見業務を行う方式だ。更に、個人受任での活動のなかでも、専門職等による活動支援の有無により、(1)単独選任型、(2)複数選任型、(3)監督人選任型の3つのスタイルに分かれる。

(1) 単独選任型:市民後見人が単独で選任されるスタイル

(2) 複数選任型:市民後見人の他に専門職や社会福祉協議会等の後見人等が複数人で選任されるスタイル

(3) 監督人選任型:市民後見人が後見人、専門職や社会福祉協議会等が監督人に選任されるスタイル

それぞれのスタイルにおいて、メリット、デメリットはあるが、(1)単独選任型では後見人1人が本人の全ての身上保護と財産管理を担うため、後見人自身の性格等、特長を活かした柔軟な後見業務を迅速に行うことができる反面、後見業務の責任の重さを全て一人で背負うことになるので、後見人にとっては負担感も大きく、また財産管理の面では監督機能が十分に果たせなくなる可能性が懸念される。

また、(2)複数選任型では、後見業務の負担を複数人で分担し、また必要に応じて専門職の支援が得られることから、本人が介護、財産管理を行うなかで当初は予期していなかったような事態が発生した場合でも、専門職の支援を得ながら安定した後見業務を継続することができる。その反面、複数の後見人間で後見業務の方針について意見が対立した場合などは、意見調整が必要となり、迅速な対応が出来なくなる場面が懸念される。

最後に(3)監督人選任型については、(1)単独選任型、(2)複数選任型それぞれのメリットを取り入れ、必要に応じて監督人である専門職や社会福祉協議会等の支援を得ながら後見人が柔軟に後見業務を行うことができる。また、これら監督人の配置により、後見業務全般の監督機能を高めることも期待できる。一方で、後見人にとっては、監督人への報告業務の負荷や活動に一定の制約が発生することがデメリットとなる。

(2) 法人の支援員としての活動

これは、先ず地域における社会福祉協議会やNPO法人等が法人として後見業務を受任し、市民後見人はこれらの法人と契約をして支援員として活動する方式だ。法人の支援員として活動することにより、複数の支援員や専門職のチームで後見業務を行うことができるため、安定した業務遂行が可能となる。また、後見業務を行うにあたっては金融機関への対応も不可欠となるが、法人の支援員の方が個人よりも金融機関等から認知を得やすい点も活動しやすさのなかでメリットとなる。一方で、デメリットとしては後見業務の方針は法人の意向に従う必要があるため、市民後見人の裁量に一定の制限がかかることがあげられる。

個人受任、法人の支援員いずれの活動方式についてもメリット、デメリットはあるが、本人の権利擁護のために、どのような方法が地域の実情に応じた最適解なのか、市町村では検討・取組みが行われている。

3|市民後見人の活動状況と受任実績

それでは、今までの自治体における市民後見人の養成状況と後見業務の受任状況について確認してみよう。2023年4月1日時点までの全国自治体における市民後見人の累計養成者数は23,323人となっている(図表5)。

ここで注目すべきことは、実際に後見人として活動することを希望する登録者数は、養成者数の35.2%となるわずか8,202人であり、更に実際に後見人として受任している者は養成者の8.2%となる1,904人しかいないことだ。法人後見の支援員として従事している2,608人と合わせても、養成者数全体の2割弱しか後見人として活動をしていないのが実態で、残念ながら養成者を十分に活かしきれていない状況だ。

このように、市民後見人の活用が進まない背景には、未だ自治体において市民後見人の養成に十分に取り組めていないことが挙げられる。厚労省の調査*8によると、市町村1,741団体のうち、2023年度における市民後見人の養成等の実施有無を尋ねたところ、わずか418団体(24.0%)しか実施していなかった。

また、第二期成年後見制度利用促進基本計画では、全国どの地域においても必要な人が成年後見制度を利用できるよう、地域連携ネットワーク*9づくりを進めているが、そのなかで市町村の役割として、地域連携ネットワークのコーディネート機能を担う中核機関の整備・運営に主体的に取り組むことを求めている。しかしながら、中核機関の整備状況*10をみると、全国の自治体1,741団体のうち、2023年4月1日時点で既に整備している自治体は1,070団体(61.5%)であり、2025年整備予定を含めても1,293団体(74.2%)となっている。とりわけ、自治体の人数規模による整備状況の格差は大きく、50万人以上の自治体では既に100%が整備済だが、1万人未満の自治体では49.7%(2025年予定でも59.2%)に留まっている。

自治体での体制整備が未だ整っていない状況は、前述厚労省の調査で市民後見人の受任にあたっての課題でも確認できる(図表6)。最も多かった回答は、「市民後見人の受任が適当であるケースが少ない」で59.9%だが、「市民後見人本人が受任への不安を感じている」が48.7%、「関係機関や専門職による支援体制が整っていない」が22.8%、「家庭裁判所との協議が進んでいない」が13.3%となっており、いずれもこれからの体制整備が望まれる。

*8:厚生労働省「令和5年度成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査結果(概要)」

*9:地域連携ネットワークとは、地域の社会資源をネットワーク化し、各地域において、相談窓口を整備するとともに、支援の必要な人を発見し、適切に必要な支援につなげる地域連携の仕組みをいう。地域連携ネットワークは(1)権利擁護支援チーム(本人に身近な親族、保健・福祉・医療・法律等の専門職等)、(2)協議会(専門職団体、関係団体等)、(3)中核機関(市町村による直営、または委託等。例えば、社会福祉協議会、NPO法人、公益法人等)から成る。

*10:厚生労働省「令和5年度成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査結果(概要版)」

4|市民後見人の今後の期待

今後、高齢化の進展とともに認知症患者数が増加し、後見制度の担い手不足の課題を解消できなければ、それは高齢者にとって希望する生活を放棄せざるを得ない現実に直結することになる。この課題を解決するには、地域にいる志をもった市民の力を最大限に活用することが有意義であることは間違いない。

一方で、後見業務を行うにあたっては、成年後見制度、介護保険制度、民法等の基本的な知識に加えて、認知症により判断能力が低下した人とのコミュニケーション能力、本人の意思決定支援のための技術、財産管理を行うための事務能力など、幅広い能力が求められる。更に、高齢者の生活では、疾病、ケガ等の予期せぬ事態の発生により、住まいも含めた生活全般が激変する事態も発生しやすく、これらの対応として重大な判断を求められるなど精神的な重圧も大きい。

従って、市民後見人を担い手不足解消の切り札として活用していくには、市民後見人が専門職を含めたチームによる支援を受けて安心して働ける環境を自治体側が整備できるかにかかっていると言えよう。そのような環境が整備できれば、担い手不足の解消だけでなく、現在は想定していないような多少難度の高い案件等への対応へも広げることが出来るものと思われる。

4――さいごに

本稿では、成年後見の担い手不足が課題となるなかで、市民後見人の現状と課題について各種調査結果等を用いながらとりまとめた。

そのなかでは、市民後見人という制度はありつつも、自治体での活用に向けた体制整備が間に合っていない状況もあり、その貴重な資源を十分に活かしきれていない現状も見えてくる。市民後見人の養成講座受講者は、市民後見人以外でも自治会・マンション管理組合等の役員、民生委員・児童委員、介護サービス相談員など、幅広い分野で活躍しているとの調査結果*11もあり、地域貢献への高い志を持った市民を活かせる機会はまだまだありそうだ。そしてこれら市民を地域で増やしていくことが、地域における権利擁護意識の向上にもつながり、認知症の人が尊厳と希望を持って認知症とともに生きる、また、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きることのできる共生社会の根幹を創ることにもなるだろう。

認知症高齢者の増加が見込まれるなかで、成年後見制度の普及は待ったなしだが、市民後見人の一層の活用と合わせて任意後見制度の普及、受け皿となる専門職、民間身元保証会社などの選択肢の充実も必要だ。人生の「ラストワンマイル」において、自身の生活の質を左右するのは財産の多寡だけではなく、後見を含めた支援者の存在であることは間違いない。現在、一人暮らしでなく、夫婦二人暮らしであっても、いずれかはどちらかが一人になることを想定し、誰が自身にとって人生の最終支援者になるのか、考えてみることは必要だろう。

*11:特定非営利活動法人 地域共生政策自治体連携機構「市民後見人養成研修カリキュラム及び市民後見人の活躍推進に関する調査研究事業報告書」(令和5年3月)

〈参考文献〉

・地域後見推進プロジェクトホームページ https://kouken-pj.org/about/citizen/

・厚生労働省 成年後見はやわかりホームページ https://guardianship.mhlw.go.jp/

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