「開業後1ヵ月以内に提出」が推奨されている〈開業届〉だが…退職後に独立しても、すぐには提出しないほうがいい「意外なワケ」【シニアキャリアコンサルタントが助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月11日 11時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
「個人事業主」として本格的に事業を始める場合、税務署へ「開業届」を提出する必要があります。受け取れるメリットや注意点について見ていきましょう。行政書士でリスタートサポート木村勝事務所代表の木村勝氏の著書『老後のお金に困りたくなければ 今いる会社で「“半”個人事業主」になりなさい』(日本実業出版社)より、詳しく解説します。
開業準備について
ここでは、一国一城の主である個人事業主としてスタートを切るにあたって必要な手続きについて説明します。
独立開業時の手続きに関しては、ネットを検索すると数多くのサイトがヒットするので、書類の記入方法など詳細はそちらを参照していただくことにして、筆者が個人事業主として実際に独立した際にわかりにくかった点を中心に説明します。
税務署への開業届
副業・兼業といった“片手間”ではなく、“半”個人事業主として本格的に事業をスタートする場合には、税務署へ開業届を提出することになります。開業届とは、個人事業を開業したことを管轄の税務署に届け出る書類のことです。
筆者の場合は、自宅が賃貸で各種登録(行政書士事務所登録など)をするのが難しかったため、外部に超狭小のレンタルスペースを借りました。開業届は管轄の税務署に提出することになっていますが、自宅のあるエリアの管轄税務署に出すのか、それともレンタルスペースのあるエリアの管轄税務署に出すのかでまず迷いました。結論を言うと、個人事業主の場合にはあくまでも個人が事業を行なっている形なので、自宅を管轄する税務署が提出先になります。
また、「開業届は開業の事実があってから1ヵ月以内に提出しなければならない」と所得税法に定められているので、「すぐに出さないと罰則があるのでは?」と思ってしまいます。しかし、提出しないことによる罰則はありません。また、1ヵ月以内に提出することがもちろん推奨されますが、現実的には開業日が提出日より1ヵ月以上前でも特に問題なく税務署は受領してくれるようです。
この開業届の提出に関する注意です。会社を退職することを決めた場合でも、あなたが「当面は職探しをしながらゆっくり考えよう。個人事業主としてセカンドキャリアを踏み出すのもいいかな、あるいは転職して違う会社で働くのもいいな」といった状況の場合には、その提出は要注意です。
会社の雇用保険に加入していた人が失業した場合に受給できる手当に失業手当があります。開業届を出すことで個人事業主として活動を始めたことになり、「失業状態」ではなくなるので、開業届を出すと失業手当が受給できなくなります。
開業したものの売上がないからといっても失業手当は受給できません。もし今後、“半”個人事業主として仕事をしていくか未定で、転職することも考えているような場合で失業手当の受給を検討しているのであれば、開業届はすぐには出さないほうがいいかもしれません。
もちろん、今の会社(あるいは今まで関係の深い会社)と“半”個人事業主として業務委託契約を締結して本格的に個人事業主として働いていくことが決まっているのであれば、開業届を提出して事業をスタートします。
個人事業主として開業届を提出するメリットとは
個人事業主として開業届を提出することの主なメリットは次の通りです。
①節税効果の高い青色申告を利用して確定申告ができること
開業届とあわせて「青色申告承認申請書」を提出すれば、確定申告の際に青色申告を行なうことができるようになります。
簡単に言うと、きちんとした帳簿をつけて管理すれば、売上から以下の特別控除額を引くことができるという制度です(控除後の金額に税率が乗じられるので所得税が安くなります)。
特別控除の額は、記帳方式を簡易簿記とした場合には10万円、複式簿記とした場合で税務署の窓口で確定申告を行なう場合は55万円、e-Taxでの申告では65万円です。
▼家族に給与が払えるようになる
開業届を提出後に青色申告を行なうとき、事業において家族を従業員(青色事業専従者)として給与を支払う際に、その給与は全額を経費計上できます。
青色事業専従者給与(家族に給与が払える)の条件は、個人事業主と生計を1つにしていること、15歳以上で学生ではないこと、事業に6ヵ月以上従事することです。新たに家族を雇った日から2ヵ月以内に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出する必要があります。
▼赤字を繰り越せる
赤字が出たら、翌年の確定申告の黒字と相殺することができます(赤字の繰り越しは最大3年間)。
〈10万円以上30万円未満の高額な経費を1年で経費にできる〉
パソコンやコピー機など、長期的に使用する場合、通常10万円以上するものは「固定資産」として扱われ、その年の一括経費にすることは通常できません。これが青色申告なら、一括経費にできない固定資産の対象金額が30万円以上となり、一度に必要経費としてまとめられる額が大きくなります(合計で300万円まで)。
②銀行口座の開設手続き
屋号付き口座を開設する場合に開業届を提出していることが必要となることが多いです。
銀行によって手続き・取扱い・難易度が異なりますが、個人事業を始める際に、屋号(「リスタートサポート木村勝事務所」など)を名義とした銀行口座を開設できます。開業届を提出していることはどの銀行でもほぼ必須条件だと思います。
個人用の口座を事業用の口座として使用しても問題はありませんが、事業用とプライベート用の口座を分けたほうが管理しやすくなります。
“半”個人事業主の場合には、今まで勤めていた会社がクライアントになるので、あまり関係ありませんが、振込先の口座に屋号が付いていることで振込を行なうクライアント側の安心につながるかもしれません。
銀行によっては、インターネットバンキングの利用料が事業者扱いになり、ネットバンクの利用が個人口座に比べて割高になることがあります。実は、筆者もあるメガバンクで屋号付き口座を作りましたが、ネットバンクを利用する先には、プラスアルファの利用料がかかるため、ネットバンクは利用していません。
屋号付き口座開設に関しては、個人的にはマストではなく趣味の範囲という感じです。
③信用面のアップ(があるかも)
オフィス契約や融資の審査などで有利になる可能性が高いです。
“半”個人事業主の場合には必要ありませんが、個人事業の業種によっては、事務所の契約が必要な場合(士業の登録など)があります。そうした場合に申し込み時や審査時には、開業届の控えの提出を求められるケースがあります。
独立開業する際の諸手続きより、大切な「課題」
以上、開業届に関して説明しました。屋号付き銀行口座開設やオフィスレンタルの際のメリットは、“半”個人事業主としては、それほど大きなものではないかもしれませんが、税金面などでのメリット(特に青色申告)を享受するためにも開業届の提出は必須です。
筆者の場合も「何か窓口で厳しく審査されるのでは?」とびくびくしながら税務署に向かいましたが、実際には特に審査もなく受領印を押されておしまいでした。
「開業届」「青色申告承認申請書」などの届け出フォームは、国税庁のホームページから入手が可能です。また、開業届作成に関しては、クラウドの会計サービスのfreee(フリー)などで無料の作成サービスも行なっているので、参考にしていただければと思います。開業届の「事業の概要」欄に関しては、書き方に特に決まりはありませんが、今後行なう可能性のある事業も含めてできるだけ幅広く具体的に記入することをおすすめします。
繰り返しになりますが、個人事業主として独立開業する際の諸手続きに関しては、副業・兼業の拡大もあり、ネット上に詳しい情報が数多く公開されています。また、サラリーマン時代にやったことのない確定申告に関して不安を持つ方も多いですが、前出のfreeeや弥生会計オンラインやマネーフォワードなど確定申告までサポートする多くのクラウド会計ソフトが存在しますので、それほど心配する必要はありません。
それよりも、個人事業主にとって最大の課題は、やはりクライアントの獲得・拡大です。こうした手続きの部分を心配するよりも、「いかにクライアントを獲得するか」に精力を注いだほうがよっぽど生産的です。
木村 勝
行政書士
リスタートサポート木村勝事務所 代表
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