「がん検診のおかげで命拾いした」に潜む誤解?検診を受けるよりも大切にすべきこと【現役医師が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月11日 8時0分
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日本人の死因第1位である「がん」。身近で怖い病気として知られるがんのリスクを減らすため、定期的にがん検診を受ける人は少なくありません。しかし、検診でがんが見つかり手術したとしても、「命拾いした」とはいえない可能性があるといいます。それはなぜなのでしょうか。本記事では、『健康の分かれ道 死ねない時代に老いる』(KADOKAWA)の著者で医師・小説家の久坂部羊氏が、がん検診の実情について解説します。
がん検診のメリット・デメリット
がん検診のメリットは、もちろん早期のがんが見つかって、命拾いする可能性があることです。デメリットは、時間が取られる、偽陽性の判定に翻弄される、検査被曝でがんになる危険性が少しあるなどです。
偽陽性というのは、がんでないのにがんの疑いと判定され、精密検査を勧められることです。医者は念のためという発想で、要精密検査と判定するバイアスがかかっていますし、受診者を増やしたいというバイアスもかかっているので、過剰診断に傾きがちです。
要精密検査と判定された受診者は、ショックでしょうし、精密検査のためには改めて病院に行き、診察を受け、検査の予約を取り、詳しい検査を受け、また改めて結果を聞きに行かなければなりません。
その時間的、経済的、身体的、心理的負担は、決して軽くはないはずです。それでも命の危険がわずかでも減るのなら、厭(いと)いはしないという人も多いでしょう。
早期のがんが見つかって、手術を受けた人は、がん検診のおかげで命拾いしたと強く実感し、他人にもぜひ受けるようにと勧めたりします。
しかし、必ずしも命拾いは事実ではありません。理由は検診で見つかったがんは、手術で取り除かなくても命に関わらない可能性があるからです。
この主張は「がんもどき仮説」で有名な故・近藤誠氏が提唱したもので、多くの医療者は否定的ですが、完全に否定する根拠はありません。もちろん肯定する根拠もありません。
がんもどき仮説とは?
「がんもどき仮説」は、簡単に説明すると次のようになります。
がんは一個の細胞ががん化することからはじまり、それが増殖して診断がつくようになるまでは、何年もかかるので、転移するタイプは診断がつくまでに転移しているだろうし、見つかった段階で転移していないもの(イコールがんもどき)は治療の必要がない。
がんを診断するには、最低でも一センチ程度の大きさにならないと見つからず、その時点で細胞数は億単位になっているので、転移するものならすでに細胞レベルで転移しているというわけです。
近藤誠氏はこの仮説に立ち、これまで外科医が手術で命を救ったと思っている患者は、すべてがんもどきなので、手術をしなくても死ななかったと述べて、一大センセーションを巻き起こしました。
このとき外科医たちは激しく抵抗しましたが、手術しなければ患者は死んでいたということは証明できず(すでに手術をしているので)、歯ぎしりしながら地団駄を踏むか、無視を決め込むか以外になかったのです。
私はこの仮説を肯定はしませんが、否定するのもむずかしいと感じています。なぜなら、がんの悪性度の判定は現代の医学ではできないからです。
がん検診に寿命延長の効果はないという分析も…
いくらがん細胞を顕微鏡で見ても、DNA解析をしても、今のところ悪性度は判定できません。悪性度が強いと、早期がんでも命を奪いますし、悪性度が低ければ(ニアリーイコールがんもどき)、進行がんでも長期に延命できます。
現在、厚労省が行うがん検診は、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸(けい)がんの五種(男性は三種)だけで、それだけ熱心に調べても、ほかのがんは十指にあまるほどありますし、がん検診に寿命延長の効果はないというメタアナリシス(複数の研究をまとめた分析で、エビデンスとしての信頼度がもっとも上位のもの)もあります(オスロ大学健康社会研究所。2023年)。
だから、私は一度も受けたことがありません。ある本を書く際に医学部の同級生にアンケートを採りましたが、この十年間に一度も受けたことがない者が三分の二を占めました。
今、日本人は生涯のうち、二人に一人ががんになるといわれますが、それは逆にいえば二人に一人はがんにならないということです。その人にとってはがん検診はすべて無駄で、先の五種以外のがんになる人にも無駄です。
検診を受けて上辺の安心を得るより、自分の健康状態と症状に注意したほうが安全ではと、私は考えています。
久坂部 羊 小説家・医師
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