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アメリカ帰りの60歳・元エリートサラリーマン、定年退職後に届いた「税務署からのお尋ね」に困惑…後日〈追徴税250万円〉を課されたワケ【税理士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月9日 11時15分

アメリカ帰りの60歳・元エリートサラリーマン、定年退職後に届いた「税務署からのお尋ね」に困惑…後日〈追徴税250万円〉を課されたワケ【税理士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

国税庁の「所得税及び消費税調査等の状況」によると、コロナ禍以降、個人・法人とも税務調査の件数が大幅に増加しているそうです。たとえ会社員であっても税務署から目をつけられ、多額の追徴税を課されることも……。定年直後のエリートサラリーマンに起こった悲劇をもとに、税務署が個人に対して重点的に調査するポイントなどをみていきましょう。多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が解説します。

“順風満帆な老後”の崩壊…税務署から届いた「1通の封書」

60歳のAさんは、このたび定年退職を迎えました。Aさんには1歳年上の妻Bさんがおり、Bさんは専業主婦として長年家庭を支えてくれていました。

Aさんの定年直前の年収は1,200万円ほど。Aさんの勤務先は国内だけでなく海外にも支店があることから現役時代は転勤が多く、社宅を転々としていたそうです。

社宅住まいだったA夫妻はA夫妻はしっかり貯蓄できており、退職金を含めて約6,000万円の貯金がありました。さらに年金は夫婦あわせて月額27万円ほど受給できる見込みで、老後にはなんの不安もありません。

そこで、Aさんは「これまで夫婦で出かけることも少なく、妻に寂しい思いをさせたから」と、定年後は再雇用を受けずに悠々自適なセカンドライフを謳歌する予定でした。

そんなある日、A夫妻のもとに税務署から“1通の封書”が届きます。

封書を開けると、そこには「国外送金等に関するお尋ね」と書かれていました。読むと、「海外資産を売却した代金等がある場合は申告が必要」とのことです。

「海外の資産の売却? そんなことした覚えないぞ……」Aさんは首をかしげましたが、よく思い返してみると、Aさんは15年ほど前にアメリカで勤務していた時期がありました。

その際、アメリカで口座を開設し、帰国時は15万ドルほど預金残高がありましたが、「またアメリカに転勤することもあるかも」と思ったAさんは預金をそのままアメリカの銀行に置きっぱなしにしておきました。

長年放置していましたが、昨今の急激な円安もあり、この外貨預金を昨年円に戻していたのです。

預け入れたときは円高だったため為替レートは1ドル=80円でしたが、円安の影響で円に戻した際は1ドル=150円台に。Aさんは約1,000万円の為替差益を得ることになりました。

今回問題になったのは、このときのAさんの行動です。この為替差益について、Aさんは申告を行っていませんでした。

そのため、Aさんは税務署から「為替差益は雑所得として申告が必要」との指摘を受け、加算税を含め250万円ほどを納税するはめになったのでした。

税務署が「海外資産」を把握できるワケ

昨今の急激な円安で、保有していた米ドルを日本円に替えたという人も多いのではないでしょうか? そこで為替差益が発生した場合、雑所得として確定申告が必要となるため注意が必要です。

また、海外口座から国内口座に100万円超の送金をする場合は、国内口座の銀行から税務署に支払調書が提出されることになっています。したがって、税務署は国内口座で日本円に替えた場合だけでなく、海外口座で替えた日本円の送金についても把握しています。

この支払調書に基づき、税務署は「国外送金等に関するお尋ね」という文書を対象者に送ります。

Aさんもこのような経緯で、今回「国外所得の申告漏れ」が発覚することとなったのでした。

富裕層がターゲット…税務署が重点的に調査する「6項目」

ここまで読んでも、税務署からの「お尋ね」や税務調査について他人事に思っている人もいるかもしれません。

しかし、国税庁が毎年11月に公表する「所得税及び消費税調査等の状況」によると、コロナ禍以降調査件数が大幅な増加傾向にあり、誰しも“明日は我が身”となっています。

また、同調査の「主な取組」では、積極的に調査対象とするものとして下記の6項目を挙げています。

1.富裕層

2.海外投資等を行っている個人

3.インターネット取引を行っている個人

4.無申告者

5.消費税の還付申告者

6.所得税の不正還付申告書における課税処理

資産運用の多様化が進んでいることなどを理由に、税務署は富裕層を重点的に調査していることを明らかにしています。

また、富裕層のなかには海外投資を行っている人も多く、海外投資等について調査を受けた富裕層の追徴税額は、1件あたり約1,068万円となっています。この金額は、所得税の実地調査全体の274万円と比較すると約4倍近い追徴税額となっており、“海外投資を行っている富裕層”はとりわけ調査対象とされているのがわかります。

税務署は「海外資産」に目を光らせている

今回の事例における「為替差益」のほか、国外財産から生じる所得で申告漏れが多いのは、海外預金口座の利子、海外証券口座の投資運用益、海外不動産からの賃料収入などです。

これらの所得は、原則として現地国でも課税されるため、日本では申告不要と思われている人も多いかもしれません。しかし、これらの所得は日本に送金する・しないにかかわらず、日本でも納税義務が生じます。この際、外国で支払った税金は「外国税額控除」として精算されることとなります。

また、富裕層が海外に財産を移転するケースが増えてきたことから、国税庁は海外資産の把握を強化することを目的に平成26(2014)年1月より「国外財産調書制度」を導入しています。

「国外財産調書制度」は、一定以上の海外資産を保有する人に届け出を義務づける制度です。その年の12月31日時点において海外で保有する資産の合計額が5,000万円を超える国内居住者は、翌年6月30日までに税務署に「国外財産調書」を提出しなければなりません。

令和元年にはこの「国外財産調書制度」に基づく刑事告発が初めて行われるなど、海外資産に対する監視が強まっています。

「CRS」情報を活用して税務調査を行うケースも

また、最近では一般の個人課税部門でも「CRS(common reporting standard=共通報告基準)」情報を活用して税務調査を行うケースが増えてきています。

CRSとは、国際的な租税回避を防ぐために経済協力開発機構(OECD)が策定したもので、日本の非居住者の金融口座情報を他国の税務当局とのあいだで自動的に交換する仕組みです。

口座保有者の個人情報(氏名、住所、マイナンバーなど)や収入金額(利子・配当などの年間受取総額)、残高情報(口座残高)などが対象となります。日本では2018年9月末に初回が実施されました。

令和4年事務年度の国税庁の公表によると、約253万件におよぶ日本の居住者に係わる日本国外の金融口座情報が95ヵ国・地域から集まっており、その内訳は、個人口座が約250万件、残高10.9兆円、法人口座は約3万件、残高5.5兆円となっています。

なお、受け取った情報は海外への資産隠しや国際的租税回避行為等への適切な対応のため、国税庁によって管理されます。

税務署は「国外財産に対する課税」を強化している

最近の円安傾向により、富裕層に限らず外貨預金などで為替差益を得ている人は少なくないでしょう。しかし、「海外にある預金だから申告しないで大丈夫だろう」などとは思わないでください。

ここ数年、富裕層が海外資産を保有するケースが増えてきたことで、国税庁による国外財産に対する課税が強化されています。

無申告の場合、「仮装・隠ぺいを行った」として悪質だと判断されると35%~40%の重加算税が課されることもあります。

国外財産の移動や海外からの送金があった場合などは、今回のような「お尋ね」が届くこともあるかもしれません。その際は1度専門家に相談されるとよいでしょう。

宮路 幸人

多賀谷会計事務所

税理士/CFP

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