「チー牛こそが女叩きをしている」という偏見…「男性=強者」という思い込みに隠された“弱者男性”という存在<br />
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月7日 17時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
映画『男はつらいよ』でも語られなかった、本当につらい男の人生とは。下がる実質賃金、増える社会保険料。それでも一家を養うのは男の仕事と期待され、稼ぎがなければ結婚もできない。そんな男性のいきづらさを、書籍『弱者男性1500万人時代』の作者、トイアンナが語る短期集中連載、第2回目は「新しい男性を差別する言葉、チー牛」について語ります。
またたくまに広がった「チー牛」という差別用語
あなたは、「チー牛」というネットスラングをご存じだろうか。
これはオタクや隠キャ、またコミュ障といった男性に対して使われる蔑称で、弱者男性を揶揄(やゆ)する際にも使われる。
もともとは牛丼チェーン店の人気メニュー「三食チーズ牛丼」を指す言葉だった。しかし、当時高校生だった、いびりょさんが2008年頃に描いた「すいません、三色チーズ牛丼の特盛りをお願いします」と、メガネをかけた男性が無表情で注文している画像が2018年頃にネット掲示板で拡散し、旗色は変わった。
偶然、その自画像が多くの方がイメージする「モテないオタク」を忠実に再現していたことを理由に、男性を差別する表現へ使われるようになったのだ。そして、ありとあらゆる罵詈雑言が、チー牛とみなされた男性へ向けられ始めた。
チー牛という単語は、これまでに「オタク」「根暗」「陰キャ」「非モテ」「童貞」といった、多数の(特に)男性をバカにする単語の集大成とも言えるフレーズである。また、非モテという単語が、生きづらさを抱える男性を意味する「弱者男性」と混同され、いっしょくたにして扱われる傾向がある。そのため、弱者男性の支援を訴えてきた著者としては、看過できなかった。
誰もが笑顔で「チー牛」と“イジる”
チー牛は現在、弱者男性を差別したい時に、もっとも気軽に使われるフレーズといえるかもしれない。たとえば、Xで「チー牛」と検索すると、以下のような投稿がわんさか出てくる。
「美人の投稿に、チー牛からの嫉妬にまみれたコメントが多すぎる。あいつらブサイクだからって、金持ちと容姿に恵まれた人に対して噛みつきすぎでしょ」 「異性関係をこじらせた結果、チー牛になる男性って異性との関わりないんだよね、やっぱり。大学時代に、女子から嫌われてたのって思い出せばみんな男子校出身者だったわ……」 著者註:そのまま引用すると、投稿された方へのバッシングにつながるため改変いたしました。しかし、もしこれらの投稿が男女で逆転していたら、みなさんはどう思うだろうか。
「三色チーズ牛丼を食べていそうな女は、情けで優しくすると急につけあがる」 「チー牛女は距離感の詰め方が異常、仲良くなっても面白くなくて不快」などとSNS上で書いたら、炎上必至だろう。
だが、2024年現在はそうならないのである。
このように、SNSやインターネット上で「ブサイク」「キモい」と叩いて揶揄(やゆ)することになんのなんの違和感ももたれない男性への差別用語、それがチー牛なのだ。
「チー牛こそが女叩きをしている」という偏見
もちろん、世にはびこるのは弱者男性への蔑視だけではない。
「バカマ◯コは、稼いでも男を養わない」 「おっさん女子とか言うけど、おっさんほどの甲斐性が女にあるのかね」 「女がまともじゃないから、男がネットでグチってるだけで、それが嫌なら早くまんさん(女の蔑称)がまともになれよ」こういった女性差別を、SNS上で発信する弱者男性は存在する。だが、それはごく一部だ。『週刊SPA!2023年10/24.31合併号』の調査によると、弱者男性になった理由を「女性のせいだ」と考える方は、全体の3.6%%にすぎないと判明した。つまり、ネットで女性を叩いてうっぷんを晴らしているのは、弱者でもなんでもない、普通の男性だったり、ときに強者男性たちなのだ。
実際、弱者男性の当事者へヒアリングを実施しても、女性蔑視をする男性はほとんどいなかった。むしろ「女性を憎んでいる弱者男性はいませんか……?」と声をかけて、ようやく見つけることができるか、できないかというレベルだ。
念のために補足すると、筆者が女性だからという理由でインタビューが断られないよう、男性ライターにヒアリングを依頼した。それでも、この結果である。弱者男性=女性を叩くもの、というのは完全なる幻想であろう。
にもかかわらず、SNSでは「チー牛」こそが「女叩き」を行う存在だと誤解されている。そして「チー牛はモテないことを妬んで女性を蔑視している」「弱者男性は女をモノとして扱う」といった偏見が、無邪気にSNSへばらまかれている。
暴力的な男性が、抵抗できない弱者男性を傷つけている
実際に、筆者が男性500名を対象に「女性は感情的になりやすい」「女性はか弱い存在なので、守らなければならない」といった、アンコンシャス・バイアス(差別的な無意識の思い込みの)有無を調査した。結果、偏見がある男性は弱者男性44%、強者男性45%と、その割合に差はみられなかった。
また、「女性は男性から犯罪被害にあいやすい」と思われがちだが、男性のほうが、被害にあいやすい。
「令和4年版 犯罪白書」*では、犯罪被害に遭った被害者の男女比は、男性64.2%、女性35.8%と報告されている。つまり、男性は女性の2倍近くも犯罪に巻き込まれやすいのだ。
一方、加害者についても約77%と男性の方が割合が高い。このことから、犯罪は男性から男性への加害が多いということがわかる。
こういった事実を踏まえると、加害性を持つ男性は、弱者男性を狙う。そして、女性はその弱者男性こそが加害者に見えるとおびえる。この世は弱者男性から見て、あまりにも偏見にまみれた世界なのだ。
実際に先日、フェミニストの上野千鶴子教授が共同親権についてこうXで発言した。
「離婚するにはそれだけの理由がある。妻を殴る蹴る、子どもを虐待する、子育てに関わらない、養育費を支払わない…日本の男に共同親権は百年早い。」離婚理由の第1位は性格の不一致で、次が浮気だ。離婚には理由があるが、ツートップは親権と無関係である。続く第3位はDVだが、実は横浜市の調査**によると、女性のほうがDV加害者の割合が高いというデータもある。「DVだから加害者は男だ」というのは、それこそが無意識の偏見であろう。
周りから「男性は常に強者である」という偏見を抱かれやすい。そして、実際には弱者である男性も、並べて差別されているのだ。
*「令和4年版 犯罪白書」 https://www.moj.go.jp/content/001387336.pdf **「デートDVについての意識・実態調査報告書」https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/seisaku/torikumi/danjo/chosa/h23.files/danjo_datedv19.pdf
男女関係なく「弱者がいる」という当然の話を始めよう
DV、いじめ、虐待といった加害を受けると、人は簡単に弱者となる。そこに男女は関係ない。だからこそ、日本にはセーフティーネットとして生活保護や就労支援が用意されている。
しかし、保障の手厚さ、支援へのアクセスのしやすさは男女平等だろうか。たとえば、筆者は弱者男性支援団体と、弱者女性支援団体の割合を調べたことがある。その割合は、なんと1:4,000だった。女性は圧倒的に支援されやすいのだ。
また、男性は遺族年金の受給条件などで女性より金額が限定されるなど、差別的な待遇を受けている。国の制度からして「男性は強いもの」という偏見が入り交じるのだ。まして、民間企業では「男性だから」長く働かせて当たり前、「男性だから」転勤させて当たり前といった、差別的な待遇がまかり通っていないだろうか。
さらに、弱者になったときを考えれば、そこには男も女もない。だが、目の前の男性が生きづらい思いをしているとき、「男性は強者である」という偏見のもと、支援が手薄になっていないだろうか。
今こそ、弱者への支援を、男女平等に是正すべきときがきたのだ。
トイアンナ ライター/経営者
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