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睡眠は脳を活性化させる!脳神経内科医が教える脳の健康と睡眠の意外な関係性

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月13日 11時0分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

いつまでも健康な脳でいたいですよね。それなら、睡眠も見直しましょう。脳神経内科医の米山公啓氏の著書『医師が教える元気脳の作り方』によると、脳の健康と睡眠は大いに関係しているそうです。本書からその理由を紹介します。

高齢者はあまりしっかり寝なくていい

患者さんであるご高齢のお母さんとその娘さんが、一緒に診察室に入ってきて、「先生、ちっとも眠れないんですよ」と患者さんが言います。すると後ろに立っていた娘さんが笑顔で手を横に振って、小声で「寝てますよ」と言うのです。

睡眠というものの客観的な評価の難しさです。不眠はあくまで個人の見解です。大人数の睡眠時間を測ることは難しいので厚労省が行っている調査は、アンケート調査です。となってくれば、自己申告の睡眠時間というのがいかに信頼できないものかわかります。

というのも、「睡眠不足」であることが、睡眠をビジネスにしている人たちにとって重要だからです。日本人は先進国の中で睡眠が足りないというような統計は、自分たちの仕事にぜひ必要なデータだからです。どうしてもそういった情報が発信されやすいですから、多くの人は睡眠不足だと思ってしまうのです。

なんとかいい睡眠をとりたい、もっと睡眠時間を延ばす方法はないのかと、睡眠関連の商品に思わず手を伸ばしてしまうというわけです。不眠は、健康食品、医薬品、寝具メーカーなど様々な業種が取り囲む大きなビジネスマーケットです。最近ではアップルウォッチのような腕時計型の記録装置に内蔵された加速度センサーで、睡眠パターンの分析ができるようになってきました。

アンケート調査よりは信用できそうですが、そもそも、何時間寝ればいいのかという本質的な問題はわかっていません。人により、年齢によって適正な睡眠時間は違うということしか言えないのです。それにも関わらず、メディアの影響で「睡眠時間が短い」「いい睡眠がとれていない」という、一億総不眠症とでも言えそうな感じなのです。

高齢になると深い睡眠に落ちないので、熟眠感が得られません。睡眠時間は短くなって、浅い睡眠となれば、当然いくら寝ても寝た気がしないということになります。高齢者はあまりしっかり寝なくてよくなっていると考えるべきなのです。

そこを理解できないと、いつまでも不眠だと信じ込んでしまいます。認知症の初期症状に不眠があるという言い方をしますが、高齢者に多い認知症ですから、その訴えが病気のためか、年齢のためか区別はできません。短時間でもしっかり眠ればいいのです。短い睡眠時間でも昼間眠くなければまったく問題ないのです。眠れないのは普通のことだと、もっと気楽に接していくべきです。

睡眠中、脳はどうなっている

睡眠というのは脳を休ませる時間だと思ってしまいますが、実は脳は休んでいるときもありますが、脳を活性化させたり、記憶の整理をしたり、非常に重要な時間なのです。いい睡眠、深い睡眠をとりましょうというのは、睡眠と脳の関係を無視した、勝手な思惑というものです。 ヒトの睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠の二つがあります。

レム睡眠は“Rapid Eye Movement”(眠っているときに眼球が素早く動くこと、REM)からレム睡眠と呼ばれています。典型的な睡眠パターンは寝てすぐに90分ほど深いノンレム睡眠が続き、その後約90分周期でレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返し出現します。

レム睡眠は睡眠の後半から起床前にかけて増え、この時間帯は心身ともに起きる準備状態となります。ノンレム睡眠では大脳皮質を集中的に休ませます。筋肉はそれほど緩んでいません。レム睡眠では主にからだを休めており、筋肉が弛緩しています。

夢を見るのは主にレム睡眠中です。またレム睡眠中は自律神経系が交感神経優位となり、血圧や脈拍が変動しやすい状態となります。京都大学が行った、マウスの脳内の微小環境を直接観察した研究によれば、レム睡眠中に、大脳皮質の毛細血管へ赤血球がたくさん流れ込んでいることがわかりました。

つまりレム睡眠中には大脳皮質で活発に物質交換が行われ、脳がリフレッシュされていると考えられるのです。レム睡眠が不足すると、大脳皮質での活発な物質交換がうまくできなくなって、これが認知症の発症に関係しているのかもしれないのです。

睡眠中に脳は記憶の定着を行っています。つまり忘れない記憶に変化させているのです。前日起きたことで重要なことを忘れない記憶に変換しています。だから眠らないと記憶力が落ちたように思えるわけです。徹夜で試験会場に臨むより、ある程度勉強して寝てしまったほうが、試験のときに憶えていることは多くなるわけです。

認知症の初期の症状に不眠がありますが、これは睡眠が足りなくなって、脳にダメージを与えている結果なのかもしれません。普段からよい睡眠をとることで、脳を守っていく必要があります。

睡眠薬はぼけるか

不眠の解決策として、睡眠薬がよく使われます。患者さんは「できるだけ睡眠薬は飲まないようにしているんですよ」と言うことが多く、睡眠薬は悪というイメージがあるようです。長く飲むとからだに悪い、ぼけるという心配をしつつ飲んでいるのが現実でしょう。

睡眠薬は飲んで数時間は、寝ぼけたような現象を引き起こすことがあります。自分のやったことを憶えていなかったりします。転倒して骨折ということも起きます。だからといって、睡眠薬を飲むとぼけやすくなるというわけではありません。認知機能の低下が起こると指摘されますが、認知症になりやすくなるのとは別の話です。

認知機能が低下する前に不眠を訴えることも多いので、そこで睡眠薬を出した結果が、睡眠薬を飲むとぼけやすくなるということになりかねません。睡眠学会のガイドラインでは、睡眠薬の使用をさけて、薬以外の不眠治療、例えば規則的な生活をする、日中陽にあたるなどと言いますが、長年高齢者の患者さんを診てくると、そういったことが非現実的であり、まったく個人の生活環境を無視した理想論でしかないと思うばかりです。

高齢者の1人での生活は、大変な苦労が多く、そんなのんびりした生活などできないのが現実です。それを無視した治療方針自体がおかしいと私は思っています。さらに困ったことに今主流として使われているベンゾジアゼピン系の睡眠薬は依存性の危険があります。つまり飲まないと眠れないということになってきます。

睡眠薬は大きく分けて3種類(ベンゾジアゼピン受容体作動薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬)あります。メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬は2010年以降の新しい薬です。日本ではまだまだベンゾジアゼピン系の薬が主流です。

昔のように長く効く薬は減って、だいたい効果は3時間くらいです。だから睡眠薬を飲んでも中途覚醒が起こるのはしかたのないことです。認知症のリスクとして現在はどう考えられているでしょうか。フランスの平均78歳の住民1000人以上を対象にした調査では、睡眠薬を服薬していた高齢者では4.8%、服用していなかった高齢者では3.2%が認知症を発症して、睡眠薬を長期に飲んでいると1.5倍のリスクがあったとしています。

ところが、同じような他の調査では睡眠薬は認知症のリスクを高めないとするものもあります。今のところ、睡眠薬と認知症の関係はまだはっきりしていないのです。睡眠不足や不眠症が認知症のリスクを高めるという信頼度の高い調査があります。

だから、認知症を心配するなら、きちんと睡眠をとるほうが重要になってきます。不眠の治療には薬物以外もありますが、薬物以外で高齢者が不眠を治すことはかなり難しいように思います。外来で、「睡眠薬の使用はできるだけ避けたほうがいいです」というアドバイスは、飲もうかどうか迷ってしまい、飲みたいけれどできるだけ飲まないようにしようというストレスを作り出してしまいます。

もちろん薬は飲まないほうがいいわけですが、現実の生活はそう簡単に解決できない問題ばかりです。だから余計なことを考えずに、「睡眠薬を飲んで大丈夫ですよ」と私は説明しています。しっかり眠ることのほうが重要だからです。逆に睡眠薬で眠れるならそのほうがずっと幸福なのです。

確かに、日本ではベンゾジアゼピン系の睡眠薬が過剰に使われているのも事実です。最近、依存性の少ないオレキシン拮抗薬と呼ばれるデエビゴ、ベルソムラという薬が使われるようになっています。まだ動物実験の段階ですが、デエビゴはレム睡眠を増やすので、脳の老化を防ぐ可能性が出てきました。

だから睡眠薬を長期的に使うならオレキシン拮抗薬がよいでしょう。ところが長い間ベンゾジアゼピン系を使い慣れてくると、なかなかオレキシン系の薬に切り替えが難しいようです。ただ何度か切り替えのトライをすべきでしょう。認知症のリスクを少しでも下げるためにもオレキシン拮抗薬の睡眠薬を使ってみましょう。

昼寝も寝方で危ない

医学研究というのは、なかなか真実が見えません。というのも、研究の仕方でいろいろな結果が出てしまうことが多いからです。「科学とは再現性があること」これが非常に大切なのです。つまりだれがやっても同じ結果になる。これこそが科学なのですが、医学はなかなかそういきません。

同じ病気であっても、ある医者が手術をしたらうまくいき、ある医者がやったら失敗となることがあります。この場合、同じ病気といっても年齢や病気の進み具合も違うので、まったく同じ病気を診るということは、医学上はあり得ないわけです。

だからこそ、医学ではなかなか結論が出せないのです。さらに医学が進歩することで、治療が180度変わってしまうこともあります。私が医師国家試験を受験した頃、急性心筋梗塞ではニトログリセリンを使うことは禁忌でした。

ところが今は、一部例外を除き積極的に使用します。治療がまったく逆になってしまうことが、少なくないのです。つまり医学の真実とはその時代の真実ということになります。脚気論争では、科学的な視点だけではなく、陸軍と海軍の対立がありました。脚気は麦飯を食べれば防げることを海軍は証明していましたが、陸軍の最高位の医者であった森鴎外は、その事実を死ぬまで受け入れなかったのです。そのために多くの人が戦争でなく脚気で死んでいます。

今でも、○○大学医学部が出してきた研究は受け入れられないなどの、とても科学とは関係のないレベルで、医学研究が行われていることもあります。それが日本の医学研究の実態です。だからこそなかなか日本全体の医学部で同じ研究をして、独自の結論を出す、あるいは世界基準になるガイドラインを作ることすらできないのです。

睡眠なども、それを研究する人の様々な立場で結果も変わってきてしまうものです。睡眠は年齢で変化することは前述しましたが、実は昼寝の時間も年齢で変化してきます。高齢者は年齢が上がると、昼寝時間が延び、頻度も増えていきます。

それを前提に調査しないと、昼寝時間が増えれば認知症が増えるということになってしまいます。睡眠研究は時間もお金もかかるので、なかなか信頼性の高いものがやりにくいのです。つまり、脳の働きをモニターしながら睡眠がとれる場所というものが、医学部であっても多くはありません。だからもっとも精度の高い睡眠研究は、なかなかできないのです。

それでも多くの調査はあります。ある研究では60分以内の昼寝はアルツハイマー型認知症のリスクを下げたが、60分以上の昼寝はリスクを高めたという報告があります。またアメリカで2500人の高齢者を対象にした研究では、昼寝の時間が長いほど記憶力の低下が認められたとしています。

どうも長めの昼寝は脳にとってよくないようです。さらに、研究精度を上げた研究があります。腕時計型の活動量を測る器械をつけて、その活動量から昼寝をしていたかどうかなどを調べた結果があります。その結果、初回評価時点の昼寝時間が長い人は、アルツハイマー型認知症の発症リスクが高くなりました。

具体的には、1日に1時間以上の昼寝をする人のアルツハイマー型認知症の発症リスクは、昼寝時間が1時間未満の人の1.4倍でした。どうも昼寝はその時間が重要ということです。昼寝は30分間くらいが脳にとってはベストのようです。昼寝が認知症のリスクを抑える以外にも、いろいろメリットがあります。

30〜90分昼寝した人は、昼寝しなかった人や90分以上寝た人より、言葉の想起がよくなるという報告があります。つまり昼寝によって記憶力がよくなるということです。また、昼寝は記憶力以外に、判断力・計算力などの認知機能を向上させる効果も認められています。

仕事をしている人なら、途中で昼寝をすると、脳がリフレッシュすることで集中力が上がり、午後の仕事にもよい結果を生みます。忙しいときに昼寝をすれば、脳が落ち着きストレスの蓄積を防いでくれます。忙しいと時間に追われるのではなく、むしろ積極的に昼寝をしたほうが、仕事の効率が上がるわけです。日常の生活の中にうまく昼寝を取り入れることが脳を活性化させることになります。

睡眠研究は腕時計型の加速度センサーを使った調査ができるようになって、以前より精度も対象患者さんの数も増やすことが可能です。もう少しすればもっと信頼度の高い研究結果が出てくるはずです。

米山公啓 脳神経内科医

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