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ぼけたくなければやせなさいは正しい?脳神経内科医が教える脳の健康と肥満のリスク

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月14日 11時0分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

いつまでも健康な脳でいたいですよね。そのためには、肥満も関係があるのではないかと思いますよね。脳神経内科医の米山公啓氏の著書『医師が教える元気脳の作り方』によると、脳の健康と肥満はあまり関係がないそうです。本書からその理由を紹介します。

やせないとぼけやすくなるわけではない

生活習慣病の中でダイエットが一番難しい問題です。現代のように食べるものがすぐにコンビニで24時間手に入る状況では、食べることは一番簡単な欲求を満たす行動です。食べることで、脳の報酬系と呼ばれる部分でドーパミンが分泌され、さらにおいしいものを食べたいと思わせるのです。

食欲を満たすということだけであれば、食べることへの欲求はそれほど強くないかもしれません。しかし、これだけグルメの時代になると、おいしい物を食べることがステイタスだったり、SNSにあげてその店が有名になったりと別の要素もでてきます。ますます食べることの意味は本能の欲求とは違う、様々な欲望を満たす行動になっています。

だからこそダイエットはさらに難しくなってきました。喫煙、飲酒、肥満のこの3つは、病気の原因になるとわかっていてもなかなか改善できないものです。高血圧症や糖尿病は薬を飲めば、治療は可能ですが、肥満は薬を飲んですぐに治すというわけにはいかないのです。

人間はからだに悪いとわかっていても、そのために禁煙やダイエットはしないものです。ダイエット本がたくさん出ているのも、決め手がないということの証です。結局リバウンドして元の体重にもどってしまうことが多いのです。

とくにダイエットは、普段の食事制限をしない限り長期的にはやせることはできません。医学的な視点から見ると、中年期の肥満は認知症の危険因子と言われています。肥満は15年後の認知症のリスクを高め、体重コントロールが認知症の発症リスクを減少させるという研究があります。

65歳以上で体格指数(BMI)が高く「肥満」と判定された人は、「正常」の範囲内にある人に比べ、認知症のリスクが3割以上増加し、女性ではとくにリスクが高くなります。肥満により、脂肪細胞で作られている生理活性物質であるサイトカインの分泌異常が起き、脳卒中や糖尿病を引き起こし、認知症のリスクを間接的に高めている可能性があると考えられています。

さらに、体脂肪が過剰にたまると、脳内にアミロイドタンパクが過剰に産生され、認知症のリスクを高めていくのです。肥満の人の脳では新しい神経経路ができにくくなっていることもわかっていて、結果的に認知症のリスクが上がっていくわけです。

その一方で、ウォーキングなどの運動が、脳機能を改善するのに役立つことが明らかになっています。運動により脳のインスリン感受性が高まり、脳機能が改善します。運動は気分と認知力を高めるだけでなく、糖尿病のリスクを減らすのです。減量すると記憶能力は改善することが研究で証明されています。

このように肥満は認知症のリスクとして考えられてきました。しかし、一方ではまったく逆の報告もあります。高齢期の肥満は認知症の発症を防ぐ可能性があるという報告です。「肥満パラドックス」(パラドックス=逆説的な事象)と呼ばれています。

それにはアルツハイマー型認知症における最大の遺伝子的な危険因子であるアポリポタンパクE(APOE)遺伝子の遺伝子多型が関係します。多くの人が持つE3多型に比べて、E4多型はアルツハイマー型認知症になりやすくなります。E2多型はアルツハイマー型認知症になりにくいことが知られています。BMIが30以上だった人を肥満として定義し、認知機能の変化や認知症発症との関係性を解析した結果、初老期(80歳もしくは75歳以下)では肥満が進むほど認知機能が低下します。

一方、アルツハイマー型認知症になりやすいE4保因者では肥満によって認知症のリスクが軽減されていました。その作用にはアミロイドβやタウなどの蓄積低下が関連すると考えられています。こうなってくると一概に、やせないとぼけやすくなるという短絡的なことが言えなくなります。認知機能が低下して、食べ過ぎを意識できないから肥満の人に認知症が多いとも考えられます。

もっとも、人の行動は理性的でも論理的でもないことが多く、とくに健康を維持するということが、すべてに優先するわけでもありません。70歳を過ぎてから、認知症予防のためにダイエットをするというのは、楽しい食事の時間がストレスになってきます。40歳代くらいであれば、長い人生と考えて、ちゃんとした健康管理でもいいと思いますが、多くの高齢者を診てくると、何も健康最優先でなくともいいのではないかと思うようになっています。

だから認知症予防の中では、ダイエットは最優先とは考えていません。人生を楽しめなければ、生きていること自体に疑問を持ってしまいます。医者はあらゆる年齢に対して、基準値に合わせようとしますが、それが人生の楽しみを奪うことになるとすれば、疑問に感じてしまいます。

もちろん、糖尿病、高血圧などがあれば、肥満もリスクのひとつで、健康的な生活の時間を短くする可能性が高くなります。だから、少なくとも肥満だけが問題という人は、いくら認知症の予防につながるかもしれないとしても、最優先すべきことではないと思います。

ダイエットはまず成功しない

ダイエットはなかなかうまくいきません。短期間で体重減少が起きても、ほとんどの人がリバウンドで数ヵ月もすれば元の体重に戻ります。ダイエットの本当の目的は、1年後、2年後にやせたままでいられるかどうかです。それを成功させるには、食生活の意識革命を起こさないとダメなのです。

最近流行っているのが低糖質ダイエット(低炭水化物ダイエット)です。これは糖質を極端に抑えて、タンパク質や脂肪は好きなだけ食べていいというものです。糖質というのは甘い物だけでなく、からだの中で糖になる炭水化物であるご飯やパンを減らすということです。他のダイエット法に比べて、早く体重が落ちることもわかっています。このダイエット方法は、単に炭水化物を摂らないからやせるだけではないのです。

低糖質ダイエットは、タンパク質や脂肪を好きなだけ食べていいのです。しかし、好きなだけ食べていいと言われると、無制限には食べなくなります。人間の脳は、食べてはいけないと言われれば、食べたくなり、好きなように食べていいと言われると適度に食べてそれ以上は食べなくなります。ビュッフェスタイルのレストランで、食べ続けるということはないでしょう。それと同じなのです。

さらにご飯やパンを制限するので、一緒に食べる肉なども減ってしまうのです。結果として食べる量が減るのです。私たちがいかに主食をたくさん食べてきたかということが、炭水化物の制限をしてみるとわかってきます。つまり、無意識のうちに食べていた物を、意識して食べるようになります。これが低糖質ダイエットのいいところではないでしょうか。

習慣となっている、食べるという行為を、ご飯を減らすことで、食生活そのものを意識し始めるのです。つまり低糖質ダイエットは理性的、つまり大脳皮質の働きによってダイエットがうまくいくのです。無意識に間食をしていたのに、間食はやめよう、たくさん食べていたご飯を、減らそうという気持ちになってくるのです。食に対して意識革命が起きるのです。まさに脳を使った理性的なダイエットと言えるでしょう。

米山公啓 脳神経内科医

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