1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

ストレスが脳を壊す!脳神経内科医が教える脳の健康とストレスの意外な関係性

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月15日 11時0分

写真

(※写真はイメージです/PIXTA)

いつまでも健康な脳でいたいですよね。それなら、ストレスのない生活をしましょう。脳神経内科医の米山公啓氏の著書『医師が教える元気脳の作り方』によると、脳の健康とストレスは大いに関係しているそうです。本書からその理由を紹介します。

ストレスに脳は非常に弱い

コロナ禍で、私もさすがに極度のストレスにさらされました。開業医というものが、リスクの高い仕事とはあまり思っていませんでしたが、コロナ禍でまだ治療法もわからない時期、それに向かっていかなければならないのは、かなりのストレスでした。

むろん病院に勤務する医者はもっと極限状態にいたと思いますが、感染のリスクという意味では、開業医もあったのです。そもそも、感染症に対する対策など、ほとんど知らないのが現状でしたし、そんな訓練も受けていなかったのです。

感染症という病気は、現代医学では、王道ではなく、むしろ隅に追いやられていた病気とも言えます。とくに先進国の医者はすっかり感染症のリスクからは遠ざかっていたのが現実でした。そこに突然新型コロナウイルスが出現したのです。日本の防疫システムも弱いですし、それ以上に感染症の専門家はごくわずかしかいませんでした。

開業医にしてみれば、まったく未知の話であり、どう対処していっていいのかわかりませんし、十分に情報も入ってきません。だから患者さんにどう接していけばいいのかもわからないまま、診療を続けたわけです。無論医師会などからサポートやアドバイスが十分にあったわけではなく、試行錯誤状態でした。

そのときのストレスは、想像以上のもので、コロナワクチンを接種するだけで、打っている医者のほうも実は非常に緊張して、疲れ果てていました。なので、コロナ禍の2年目には私自身かなりまいっていました。こんなストレスの中でどう仕事をしていけばいいのかよくわかりませんでした。医者の仕事がこれほどストレスの多いものとは思ってもいなかったのです。

そういったストレスに脳は非常に弱いのです。その象徴的な例が心的外傷後ストレス障害(PTSD)です。PTSDはベトナム戦争後の退役軍人の研究によってよく知られるようになりました。極限状態のストレスによって、不眠や小さな物音にもビクッとするような過覚醒状態、茫然自失、再体験、回避などの症状が出てきます。

そのPTSDの人の海馬に萎縮が見られたという報告が複数あります。海馬というのは、脳の中で記憶の保持、強化を司る場所です。海馬が萎縮するということは、記憶に関する機能不全が起こる可能性があることを意味します。つまりストレスによって脳の一部が壊れてしまうということです、海馬は記憶に関係するところですから、常にストレスがかかるような状況では、強いストレスでなくとも脳にいい影響が出ないことになります。

心配事や不安を抱えた人にMCI(軽度認知障害)が多いという研究もあります。MCIは認知症の一歩手前ですから、ストレス回避によって脳を守ることが、認知症の発症を抑えることになります。ストレスを受けると、体内ではそれに対抗するために、副腎からコルチゾールというホルモンが分泌されます。コルチゾールはからだに必要なものですが、慢性的なストレスによってコルチゾールが過剰に分泌されると、海馬の神経細胞が破壊され、萎縮してしまうのです。

さらにストレスは脳の大脳皮質前頭前野というもっとも人間にとって高度な機能を持つ場所に影響を与え、精神機能を奪う可能性があることもわかっています。前頭前野の感情を抑制する機能が作用しなくなり、強いストレスを感じると抑制できていた感情や衝動が爆発して、急な不安に襲われたりするようになります。

海馬同様に、前頭前野にある神経回路は日常のストレスや不安で刺激を受けやすく、前頭前野でストレスホルモンなどの神経伝達物質の濃度が上がると、神経細胞間の活動が低下して機能不全に陥るのです。原因であるストレス自体が減れば神経伝達物質の分解酵素が働くので、前頭前野の神経回路は元に戻ります。ただ、慢性的に長期間ストレスを受けていると、前頭前野の神経細胞は壊れてしまうので、元にはもどらなくなります。いかにストレスから解放されるかが重要な意味を持ってくるわけです。

私の場合、コロナ禍のストレスの多い時期、偶然時代小説の依頼が来たのです。今まで医学ミステリーは10冊以上、本を出していますが、時代小説はまったく書いたこともないものでした。有能で大ベテランの編集者のYさんのおかげで、1年掛かってようやく『看取り医 独庵』が完成しました。1750年前後を想定した江戸の医者が活躍する時代小説です。

昼間はコロナのワクチンをたくさん打って、疲労困憊でしたが、それでも深夜まで小説を書くことで、精神的なバランスを保っていたのです。ストレスを発散する方法は人それぞれです。自分なりのストレス発散法を持っていることが結局は自分の脳を守っていくことになります。

ストレス回避の方法

心配や不安といったことは、からだや心に負担をかけます。それをストレスと一般的には呼んでいます。ストレスは生きている限りなくなることはありません。私たちはストレスとうまくつきあっていくしかないのです。心的外傷後ストレス症候群(PTSD)で海馬が障害を受けることは前述しました。

うつ病でも重症になってくると、海馬が障害され、治ってくると海馬の神経細胞が新生されることがわかっています。いかに脳がストレスの影響を受けるかわかります。楽観的で前向きな性格の人に認知症が少ないのは、ストレス回避が上手で、脳のストレス負担を減らせるからです。

一方で、軽度のストレスはむしろ脳を活性化させることができるメリットもあります。つまり、仕事の締め切りがあるから、がんばろうとしますから、いつも以上の能力を発揮することができます。つまり、ストレスをうまく利用していけば、脳は活性化していくはずです。

それには、達成可能な目標設定が必要になります。あまりその目標が高ければストレスになりますし、低すぎれば、意欲がなくなってしまいます。つまり仕事ができる人は、その目標設定が上手なのです。脳にとって悪いストレスというのは、長く続くストレスです。自分で解決できない問題、例えば職場にいやな上司がいるというような場合は、なかなか短期間に解決する方法がありません。

持続するストレスこそが、脳をだめにしていくのです。決断が下せない状態が長引くことが、脳への負担を増やすことにもなります。早く決断して答えを出すことが、ストレス回避の第一歩です。自分でどうにもならなければ、やはり友人、第三者など外からの力を借りるべきでしょう。そうすることをためらってはいけないのです。

ストレスをむしろうまく利用していくことが重要なのです。つまり、どうして自分だけこんなことになるのだと思うのではなく、それには何か理由があるからこうなったのだと問題解決に思考していくべきなのです。それも、ストレスを乗り越えるひとつの方法なのです。

性格とストレス

私の友人となると、やはり医局にいた仲間ということになります。開業医というのは狭い世界にいて、なかなか医療関係者以外の人間関係が作れないものです。私は作家業を30年くらいやってきたので、医療以外のいろいろな世界を見てきました。だから仲間の医者よりは、広い人間関係を持てていると思っています。

というのも、昔の医局の仲間、ほとんど開業医になっていますが、年に数回会うとき、そこでの話は医療関係以外の話にはまずならないのです。ストレス回避の一番簡単な方法は、話をする、あるいは愚痴を言うことです。つまり愚痴を言えたり、本音を語れる仲間をどれだけ持っているかで、ストレス発散ができるかどうかになるのです。

医者の仲間では、自分の子供を医者にしたこと、インフルエンザワクチンをいくらで打っているとか、昔の教授は今何をしているとか、あくまで医療がらみの話になります。新しい趣味を始めて、こんな面白い経験をしたとか、今こんな音楽を聴いているとか、なかなか趣味を徹底的にやっている医者の仲間は少ないのです。

だから、会っても新しい情報を手に入れることが少なく、私にとっては面白くないのです。医者は自分の子供を医者にすることが多いのですが、医者になれば、収入も増えて社会的に安定していると信じているからではないでしょうか。

ところが、勤務医で定年を迎えると、次の就職先を探すことが大変な時代になってきています。高校の同級生で、自分より成績の悪かった人が、大手の企業に就職して、同じように定年を迎えたとき、大きな逆転が起こることを、医者のほとんどはわかっていません。大手企業で出世しなくて定年になったとしても、企業年金、退職金があり、完全にリタイアしても優雅な老後を過ごせるのです。

ところが勤務医は、病院からの退職金は驚くほど少なく、年金も特別に多いわけではありません。結局、どこかの病院で働き続けるしかないのです。開業医に定年はありませんが、退職金はありません。あくまで健康であれば、70歳を過ぎても働くしかありません。優雅な老後というものを、ほとんどの開業医は考えません。定年がないので老後の計画を考えることはないのです。

仲間と話していても、そんな心配をしている連中はいないのです。私立の医学部へいけば、1人最低5000万円はかかります。だから開業医は稼ぐことはできますが、子供を私立医大へいかせれば、決して優雅な老後はなく、働き続けるしかないのです。

長い人生の計画などまったく考えてもいません。本当は医者仲間と会ったとき、そんな話をするべきでしょうが、目先の話で終わってしまうのです。会話でストレス回避をするには、どうも同僚やもとの研究仲間ではだめなようです。本音や愚痴を言える友人を、どれだけ持っているかが重要なのです。

一般的に神経症傾向が強い人は認知症のリスクが上がると考えられています。なぜでしょうか。神経症傾向であるとストレスを受けやすくなり、長期にストレスを感じやすくなるので認知症の発症率が上がってしまうのです。神経症傾向の特徴として、傷つきやすさや自意識の強さというものがあります。それは、人との交流を回避しがちになり、人間関係も希薄になり社会的に孤立しやすくなります。

そのために、うまくストレス回避ができないのです。友人の少ないことが、脳に悪影響を及ぼすのです。さらに認知症を発症していても、周囲の人に、気が付いてもらうチャンスが少ないので、認知症は進行してしまう危険があります。

また、協調性がない人、イライラしやすい、気にしやすい人は、認知機能障害の発症リスクに関係性があるという報告があります。前述したように、社会的孤立が認知症の大きな危険因子です。周囲との人間関係をうまく築きにくいことで、社会的孤立を招きやすく、相談相手、話し相手もいないことでストレスを溜めてしまうことになります。

また、認知機能の低下により、日常生活や社会生活に支障が出ている状態が認知症です。何か困ったことがあったとしても、人間関係が希薄なため、周囲からの助けがなかなか得られず、そのまま困った状態に置かれやすいのです。

さらに米国フロリダ州立大学の研究によれば、認知症の発症リスクをもっとも下げるのは「責任感」だとしています。責任感が強い人は認知症の発症リスクが約35%低下していました。また、「自制心」と「勤勉さ」も認知症の予防に関係していたのです。

責任感があって、自分をコントロールでき、勤勉に働く人をひと言でいえば、誠実な人です。誠実な性格の人は認知症になりにくいということでしょう。長寿にとってもっとも重要なことが勤勉性という研究もあります。性格によってリスクにもなりますし、病気の予防にもなるわけです。性格自体はなかなか変えることは難かしく、周囲がサポートしていくしかないでしょう。だからこそ、周囲の人との人間関係を作っていくこと、昔の仲間を大切にして、定期的に会食や宴会をすべきなのです。

米山公啓 脳神経内科医

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください