給与が低すぎる…61歳男性、再就職先から提示された「年収320万円」に落胆→年金受給前にもらえる〈特別な給付金〉に大興奮【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月18日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
長寿化が進む日本では“長生きリスク”なる言葉が生まれるほど、将来に不安を抱く人が増えています。そこで、老後の金銭的な不安を軽減させるため、定年退職してから年金受給開始までに受け取ることのできる「特別な給付金」について、具体的な事例からみていきましょう。FP Office株式会社の新倉摩耶FPが解説します。
再雇用を断ったはいいものの、預貯金は減る一方…61歳男性の「悩み」
61歳の佐藤さん(仮名)は昨年、新卒から勤めていた会社を定年退職しました。退職直前の年収は650万円ほどです。
会社からは再雇用の打診がありましたが、その際「年収は400万円になる」と言われ、給与の減少幅に納得がいかなかった佐藤さんは再雇用を断ってしまいました。
そのため、定年後しばらくは職に就かず、失業保険をもらいながらやりたかった趣味などに興じていましたが、思っていた以上に預貯金が減ってしまったため、焦って再就職を検討することに。
しかし、最終面接まで進んだ会社から提示された給与額は、再雇用時に打診された400万円よりも低い320万円。
「このまま無職でいるよりはマシだが、いくらなんでも給与が低すぎる……」再就職を断ってしまったことへの後悔と、今後の生活への不安が増した佐藤さんは、将来の資金計画について第三者の意見が聞きたいと、お金の専門家であるファイナンシャルプランナーに相談することにしました。
再就職すると、給与とは別に「給付金」が受け取れる?
FP事務所で佐藤さんは、「再就職できそうなのはありがたいんですが、給与が低すぎるんです。日本ってつくづく高齢者に優しくないですよね」と悪態をつきます。
佐藤さんは、65歳未満であることや仕事を探しているが職に就いていないなどの条件に当てはまることから「失業保険」を受け取っていますが、このまま失業保険をもらい続けるべきか、それとも再就職すべきか迷っているそうです。
そこで佐藤さんにはまず、60歳以降に再就職が決まった場合、要件を満たすことで給付金などが受け取れる「高年齢雇用継続給付」について説明しました。
高年齢雇用継続給付には、退職後に失業保険を受給していない人を対象とした「高年齢雇用継続基本給付金」と、佐藤さんのように退職後に失業保険を受けた人を対象とした「高年齢再就職給付金」の2種類があります。
また、高年齢雇用継続給付とは別に、雇用保険の基本手当(失業保険)を受け取る資格がある人が再就職した場合、一定の条件を満たしていると「再就職手当」を受給できます。
佐藤さんの場合「高年齢再就職給付金」と「再就職手当」の要件を満たしているため、次にこの2つについて詳しくみていくことにしました。
「高年齢再就職給付金」とは
高年齢再就職給付金とは、60歳以降の給与低下を補填する雇用保険の給付のひとつで、失業保険(基本手当)受給後、60歳以降に再就職し、再就職後に賃金が75%未満に下がった場合に支給されるものです。
■支給要件
支給を受けるためには、下記の5つの要件を満たす必要があります。
①退職後失業保険を受給しており、60歳以上65歳未満で再就職していること
②雇用保険被保険者期間が5年以上あること
③再就職後の賃金が前職(直前)の75%未満まで低下していること
④継続雇用が見込まれる安定した職業であること
⑤基本手当についての支給残日数が100日以上であること
■支給期間
支給期間については、再就職日の前日に失業保険の支給残日数がどれだけ残っているかで変わります。「再就職した日の前日からカウントして100日以上200日未満の場合」「再就職した日の前日からカウントして200日以上の場合」と条件ごとに下記のように定められています。
・再就職した日の前日からカウントして100日以上200日未満の場合 ……1年を経過する日の属する月まで
・再就職した日の前日からカウントして200日以上の場合 ……2年を経過する日の属する月まで
■支給金額
再就職先の給与が60歳時点の賃金と比べどのくらい低下しているかにより、支給率が変わります。また、高年齢再就職給付金には支給限度額があります。
支給限度額:37万452円
最低限度額:2,196円
支給対象月に支払いを受けた賃金の額が支給限度額(37万452円)以上である場合には、高年齢再就職給付金は支給されません。また、支給対象月に支払いを受けた賃金額と高年齢再就職給付金として算定された額の合計が支給限度額を超えるときは『37万452円-支給対象月に支払われた賃金額』が支給額となります。
なお、高年齢再就職給付金として算定された額が2,196円を超えない場合には支給されません。
ただし、「老齢厚生年金」の支給を受けている人が「高年齢雇用継続給付」を受けると、その期間の年金の一部が支給停止される場合があるため、注意が必要です。高年齢雇用継続給付を受ける場合には、老齢厚生年金はいくら減額となるのかについても確認されるといいでしょう。
早期の再就職を後押しする「再就職手当」
雇用保険の基本手当(失業保険)を受け取る資格がある人が再就職した場合などに一定の条件を満たしている場合に受給できる就業促進手当のことです。早期に再就職することを後押しする目的があり、新しい仕事に就く時期が早いほうが多くの金額を受給できます。
再就職手当金の支給を受けるには下記の①~⑧すべての要件を満たす必要があります。
■支給要件
①就職日の前日までの失業認定を受けた上で基本手当の支給残日数※が所定給付日数の3分の1以上あること。
②受給手続き後、7日間の待期期間満了後の就職であること。
③離職した前の事業主に再び就職したものでないこと。また、離職した前の事業主と資本・資金・人事・取引面で密接な関わり合いがない事業主に就職したこと。
④受給資格に係る離職理由により給付制限(基本手当が支給されない期間)がある方は求職申込をしてから待期期間満了後1ヵ月の期間内はハローワークまたは職業紹介事業者の紹介によって就職したものであること。
⑤1年を超えて勤務することが確実であること。
⑥原則として雇用保険の被保険者資格を取得する要件を満たす条件での雇用であること。
⑦過去3年以内の就職について、再就職手当又は常用就職支度手当の支給を受けたことがないこと。(事業開始に係る再就職手当金も含む)
⑧受給資格決定(求職申込み)前から採用が内定していた事業主に雇用されたものでないこと。
※支給残日数は、再就職日から受給期間満了年月日までの日数を超える時は再就職日から受給期間満了年月日までの日数が支給残日数となります。
■支給金額
支給金額は次の計算式にて算出します。
『再就職手当=基本手当日額×所定給付日数の支給残日数×支給率』(60%または70%)基本手当日額は、賃金日額に基づいて計算されており上限金額が決められています。また支給率は、再就職先に就職する前日までの基本手当の支給残日数により異なります。
■支給率
・支給残日数を3分の2以上残して再就職した場合:基本手当の支給残日数の70%の額
・支給残日数を3分の1以上残して再就職した場合:基本手当の支給残日数の60%の額
基本手当日額の計算方法は、[図表1]のとおりです。
高年齢再就職給付金と再就職手当金をまとめると、[図表2]のようになります。
「高年齢再就職給付金」と「再就職手当」は併給することができず、いずれか一方を被保険者自身が選択することになります。また、併給できないだけでなく、いったん選択し支給決定を受けるとその後の取り消しや変更等はできないため特徴を十分理解し慎重な選択をする必要があるのです。
どちらがお得?「失業保険」or「再就職+給付金」
ここまで、「高年齢再就職給付金」と「再就職手当」の詳細を見てきましたが、佐藤さんは「失業保険をもらい続ける」or「再就職」、どちらがお得なのでしょうか。また、再就職した場合には「高年齢再就職給付金」と「再就職手当」のどちらを受給したほうがお得になるのでしょうか。
1.再就職せず失業保険をもらい続ける場合
2.再就職し、高年齢再就職給付金を受け取る場合
3.再就職し、再就職手当を受け取る場合
の3つのパターンについて、それぞれシミュレーションを行いました。
1.再就職せず失業保険をもらい続ける場合
佐藤さんの場合、新卒から60歳まで働いているため被保険者期間は20年以上、所定給付日数150日、基本手当日額7,294円(上限額)となります。よって、総支給額は109万4,100円です。(150日×7,294円)
2.再就職して「高年齢再就職給付金」を受け取る場合
失業保険の支給残日数が100日以上あれば「高年齢再就職給付金」の対象となります。佐藤さんの賃金低下率は54.69%です。よって、再就職後の賃金26.6万円×15%=3万9,900円が支給額となり、所定給付日数150日のため1年経過後の属する月までが給付対象となることから、「3万9,900円×12ヵ月=47万8,800円」が支給金額(総額)となります。
3.再就職し、再就職手当を受け取る場合
佐藤さんの場合は基本手当日額7,294円(上限額)なので、仮に支給残日数が94日の場合は給付率70%で支給額47万9,945円となります。
つまり、佐藤さんが失業保険をもらい続けた場合は支給総額が109万4,100円のみですが、再就職した場合は、再就職後の給与に加えて「高年齢再就職給付金」または「再就職手当」が受け取れるのです。
退職から再就職までの日数が早ければ早いほど支給される金額が多くなるため、失業保険をもらい続けるより再就職したほうがいいでしょう。
また、高年齢再就職給付金は支給残日数が100日以上で支給対象となりますが、佐藤さんの場合は給付残日数が94日以上であれば再就職手当の支給額が高年齢再就職給付金の支給額を上回るため、再就職手当を受給したほうがお得です。
ひととおりの説明とシミュレーションを終えると、佐藤さんは「こんな制度があるなんて知りませんでした。とりあえず、再就職はしておいたほうがよさそうですね」と、再就職に前向きな様子でした
今回みてきたように、日本には定年前後に向けた補助金・給付金制度がいくつか存在するため、あらかじめチェックしておくとよいでしょう。そのうえで、自分にはなにが該当するのか、どの制度が利用できるのかなど、迷った場合は佐藤さんのように専門家へ相談してみてはいかがでしょうか。
新倉 摩耶 FP Office株式会社 ファイナンシャルプランナー
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