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容疑を“ほのめかす”供述、“自称”会社員のA容疑者…ニュースでよく聞く「それ、どういうこと?」を深堀り【事件に詳しい元新聞記者が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月10日 10時30分

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毎日さまざまな事件のニュースが流れますが、捜査や取り調べに関する言葉には、よく聞くけれど実はよくわからないというものが多くあります。例えば「容疑をほのめかす」とは具体的にどういう状態なのか、「自称会社員…」はなぜ「自称」なのかなど……。『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)より、著者の三枝玄太郎氏がそのあたりの実情を詳しく解説します。

「容疑をほのめかす供述」とは?

捜査や取り調べにまつわるニュースの知られざる裏側についてお話ししていきましょう。「〇〇容疑者は容疑を認めています」とか「〇〇容疑者は容疑を否認しています」という言い回しをニュースで耳にする方も多いと思います。

これは文字通り、容疑を認めているか、認めずに否定していることを指しますが、では次のこれはいかがでしょう?「〇〇容疑者は容疑をほのめかす供述をしています」。認めているのか、いないのか、ちょっとはっきりしませんよね。これは「供述調書」の存在がカギになっています。

あなたが仮に犯罪の嫌疑をかけられて、警察に逮捕されてしまったとしましょう。「おい、お前、やったのか正直に言え」と刑事はあなたを責め立てます。実は会社の上層部が関与しているとあなたは知っているのですが、それをしゃべってしまったら解雇されてしまうかもしれない。しかし、目の前にいる刑事はさっきからバンバンと机を叩いて追及してくるし、証拠も握っているようだ。どうしよう、もう楽になりたい……。

あなたは一計を案じます。「そうだ、ここは認めてしまって、あとで『本当はこういうことでした』と言い訳すればいいや」。

「やりました。ええ、私がやりました」「じゃあ、誰に頼まれてやったんだ」「いや、それはわかりませんねえ」「詳しく話せ」いやはや、時間を稼ぐつもりが、とんだ藪蛇になったかもしれません。警察からすると、単に「やりました」と言われただけでは、自白をしたことにはなりません。

こういう場合、対外的には「容疑をほのめかす供述」と発表することになります。

警察官にとっては困りもの…「調書が巻けない」の意味

別のケースもあります。暴力団捜査を担当している刑事がよくこんなことを回想します。

「〇〇の奴、『俺がやった』って容疑は認めるんだけど、調書を巻かせてくれねえんだよな」。巻くというのは、供述調書を作成することです。なぜそう呼ばれるようになったのかはっきりしませんが、江戸時代以前は調書が巻物だったからではないかといわれています。

容疑は認めるけれども、供述調書という形に残るようにはさせない。こうなると、警察としては困ったことになるのです。

逮捕された容疑者は供述調書を取られます。供述調書は大別すると「員面調書」と「検面調書」の2種類があります。

警察官は法律用語でいうと「司法警察員」なので、警察員の「員」を取って員面調書、検察官が作成する供述調書は検察官の「検」を取って検面調書です。どちらの調書も正式に裁判所の公判廷に提出されます。乙号証と呼ばれ、罪状の確定や情状に大きく影響する大事な証拠です。

ところが、暴力団関係者の場合、多くの場合は犯罪慣れしていますし、しかも上層部の組長を巻き込んだ事件だったりすると、下手にペラペラとしゃべろうものならシャバに出たあと命すらあやうくなりかねない……。そう考えて、調書を巻かせないよう画策することがあるのです。

具体的にはどうするのでしょうか。供述調書は、自白が本人の意思に基づいてなされたかという「任意性」と、供述が事実かどうかという「信用性」の二つがそろっていないと証拠価値がありません。

ですから調書の末尾に容疑者が氏名を自署(サイン)するのが普通です。そこで、サインを拒否し、自分の供述に任意性を持たせないようにするのです。

もっとも、これを延々と続けて、ほのめかしを続けるのは骨が折れます。最終的に全面的に自供するケースもあれば、否認に転じたり、黙秘したりすることもあります。

いずれにせよ逮捕された初期の段階で、口頭では容疑を認めるものの、書面の形で証拠として残る形にならない、あるいはさせない状態になっているのが、容疑をほのめかす典型的なパターンだと考えて差し支えないでしょう。

ほのめかしと似た表現に、「〇〇容疑者は認否を留保しています」があります。このように報じられた場合は、「認めるとも認めないとも言っていない」状況です。容疑者が「弁護士が来るまでしゃべらない」と主張しているのが典型的なケースです。

逮捕のニュースでよく聞く、容疑者の「自称~」とは?

ほのめかしと多少関連しますが、逮捕のニュースで「自称・不動産業の〇〇容疑者は……」と報じられることがありますね。

「自称」とはいったいなんでしょうか。「自称じゃなくて、ちゃんと調べろよ」という声が聞こえてきそうですが、これも警察なりの事情があります。容疑者が逮捕され起訴されて、裁判所に舞台が移ると、検察官が冒頭陳述というものを読み上げます。

その際、「身上・経歴」という項目があり、容疑者(起訴されたあと裁判になると被告)の生まれ、育った地方、環境、家族構成、学歴、職歴などが明らかにされます。このことを想定して、警察は住民票で住所を確認し、身上経歴に関する供述調書(身上経歴供述調書)に謄写・添付したり、会社員ならその会社から在籍証明書のようなものをもらったりします。

自営業者ならば、登記簿謄本を添付するのが普通です。ただ、逮捕した時点では、こうした手続きが間に合わないことがよくあります。しかもたとえばブローカーのように、仕事の実態がよくわからなかったり、日ごろブラブラしているように見えて、一攫千金的に大商いをすることがあったりする人物の場合、無職なのか職業があるのか、警察としても判断に迷うときがあります。

そうした場合、容疑者が取り調べで「自分は不動産業です」と言ったとしましょう。会社のホームページも存在しないし、登記簿謄本をとっても該当がないが、まったく事業実態がないわけでもなく、近所の人も「不動産をやっているらしいですよ」程度のことは言っている……。

裏付けはまだ取れていないが、とりあえず本人がそう言っているから「自称・不動産業」としておくか、となるのです。自称・無職、自称・会社員、自称・会社役員などが多いですが、中には自称・水墨画講師、自称・占い師、自称・牧場作業員など、「たしかに確認に時間がかかるわな……」というケースもあります。

三枝 玄太郎

※本記事は『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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