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ドナルド・トランプが米国民に“大人気”なワケ【経済の専門家が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月20日 11時15分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

注目の米大統領選まで、半年を切りました。選挙結果に予断は許されませんが、もしもドナルド・トランプ氏が米国大統領に再選した場合、経済はどのように変化するのでしょうか。株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏が、トランプ優勢の理由と米国経済の現状、トランプ再選の場合打ち出される可能性が高い政策について解説します。

4件の刑事訴追も…米大統領選「トランプ優勢」の謎

世界最大の政治経済イベント米国大統領選挙が早くも半年後に迫ってきた。驚くべきは天衣無縫のヤンチャものの印象が強烈なトランプ氏が再選される可能性が強いと伝えられていることである。4件の刑事訴追を受けており、5月30日には大統領経験者として初めて有罪評決を受けたが大統領選挙への悪影響は限定的とみられている。

前回の大統領選挙でのバイデン勝利を盗まれたものとまったく認めず、現大統領の正当性を頭から否定し続けているトランプ氏は、1年前までは死に体とすらみられていた。

それが刑事訴追が始まると、政治的迫害を受けているというキャンペーンが功を奏し、かえって支持率が高まった。選挙勝敗の鍵を握る接戦7州(アリゾナ、ジョージア、ネバダ、ミシガン、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシン)をみると、前回はバイデン氏が6勝したのに対して、今回はすべての州でトランプ氏が優勢との調査結果となっている。

この情勢はメディアや専門家の予測を大きく覆すものである。なぜであろうか。

“トランプ優勢”のワケ…米国経済に起きている2つの変化

米国の経済社会の底流で大きな構造変化が起きており、その変化に対するトランプ氏の果敢な挑戦が、有権者と嚙み合い始めている、と考えざるを得ない。明らかに米国経済社会には2つの変化が起きている。

1.テクノロジーの進歩と中間層の消失

その第1は、テクノロジーの進歩と国際分業の進展による雇用構造の変化と中間層の消失である。

かつての中間層を支えた製造業はグローバリゼーションによって劇的に海外依存を強め雇用が減少した。

50年前の1970年代まで米国は衣料、玩具等の軽工業から鉄鋼、造船、化学などの重工業、電気、通信、半導体などのエレクトロニクス産業、機械、自動車産業等すべての製造業分野で世界最大の規模を擁していた。

米国の製造業製品(財)輸入依存度は1割に過ぎなかったが、いまでは8~9割を輸入に頼るようになり、圧倒的に雇用が失われた。

それを埋めた新規雇用は高賃金のビジネスサービス、金融、情報通信産業と、スキル度が低く相対的低賃金の個人サービス、外食、娯楽、医療・介護など多様で格差がある産業群であった。

その結果労働分配率が60%弱から50%弱へと低下し、賃金上昇にもブレーキがかかり、家計は収入の多くを賃金ではなく社会保険や公的扶助と株式など資産所得に依存するようになった。それは資産保有者と持たざる者の格差を拡大させることとなった。

白人が背負う「差別」という原罪

2.多様化・包摂化の浸透と過激化

第2の変化は多様化(ダイバーシティ)、包摂化(インクルージョン)の浸透と過激化である。

人権、弱者保護、公平性、多様なメンバーが違いを尊重されることで働きがいを共有できる環境づくり運動、SDGsやESGとも共通する理想の追求が過激化・左傾化した。

白人は生まれながらに差別という原罪を背負っているというCritical Race Theory(批判的人種論)、BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動、人種によって合格点に差をつけるというような過度な弱者への配慮、建国の父たちを奴隷所有者として否定するなどの反歴史主義など、左傾化、理想主義、建前主義の弊害が極まっている。

それによる逆差別の被害者意識もマイノリティに転落する寸前にある白人の低学歴層で高まっている(白人比率は1965年の84%から2020年には58%へと急低下したが、2060年には5割を下回ることが確実視されている)。それは過激な脱化石燃料化に対する反発とも共鳴している。

白人と黒人、ヒスパニック等マイノリティとの格差は、近年失業率で見ても平均賃金で見ても顕著に縮小している。

またコロナパンデミック以降、トラック運転手やウェイター、ウェイトレスなどあまり熟練度を求められない低賃金の大卒未満の職業分野で労働需給がひっ迫し、全体として賃金格差が縮小している。そのなかで少数派優遇の声が強まっているのである。

敵を明確化することで立場を鮮明にするトランプ氏の「戦略」

トランプ氏は敵を想定することで、これらの国民的不満に真っ向から答えるというスタンスを明確にしている。

第1の敵は米国の製造業の雇用を奪ったグローバリゼーションと中国、第2の敵は過度の弱者配慮、逆差別と歴史否定主義を推進する既得権益集団、官僚機構「ディープステイト(影の政府)」の解体である。

この敵の想定は乱暴で必ずしも合理性があるとは考え難いが、選挙のスローガンとしては、国民心情に刺さるものになっているのであろう。

国民の心情に応えられなかった既存政党

既存の政治勢力である共和党、民主党がともにそうした国民の不満に応えられていなかった。かつての共和党対民主党は、富裕層対労働者、白人対有色人種、保守対リベラル、小さな政府対大きな政府、自由主義対保護主義、といったはっきりした党派対立軸があったが、いまはそれがほとんど失われ、混沌の状態にある。

この民主党、共和党ともに再定義が必要な時期に、いち早く再定義を主張して飛び出したリーダーがトランプ氏であるといえる。

トランプ氏は共和党内で圧倒的支持を得ているが、その主張の多くは伝統的共和党の価値観からかけ離れたものである。トランプ氏は共和党の屋台骨を作り替えたといえるのではないか。

大富豪で資本主義体制の受益者が、取り残された弱者の利益を代弁してアンチワシントン、アンチエスタブリッシュメントを唱え、権力を「ディープステイト」から取り戻すと主張している点に、わかりにくさがあるが、それこそがトランプ主義といえるのではないか。

それが単純な白色革命や復古主義などの反動的なものなのか、それとも改革を通してさらなる発展をもたらすものなのか。反トランプ派は前者といい、汎トランプ派は後者の立場に立つが、いまはどちらの言い分にも一理がある局面といえる。

トランプ再選の場合、打ち出される「政策」は…

「対中」「対ディープステイト」政策が急速に進む

それでは時期尚早ではあるがトランプ氏が大統領になったとして、どのような政策が打ち出されるのか、考えてみよう。

選挙用のレトリックと真に追及される政策を峻別する必要がある。まず2つの敵に対する戦いは貫徹されるのではないか。米国の雇用だけでなく覇権を奪おうとする中国に対する姿勢はいちだんと強まるだろう。

中国からの輸入関税を60%に引き上げること、中国最恵国待遇の撤廃などの政策により、対中デカップリングはさらに急速に進むだろう。

これまでは先端半導体等一部の高度・軍事技術に限られていた高い障壁をより多くの分野に広げ中国依存度はさらに急低下するだろう。また「質の悪い官僚たちを排除し、腐敗したワシントンに民主主義を取り戻すこと」も実施される可能性が高い。

いままで4,000人程度に限られていた政治任用制度の適用範囲を5万人に広げ中堅官僚を大きく入れ替えることを示唆している。

トランプの意にそぐわない官僚の魔女狩りとの批判が高まり、メディアやアカデミズムを巻き込んで激しい対立を引き起こすかもしれない。

いま起きている激烈なトランプ批判はその前哨戦かもしれない。かつてのマッカーシズム、レッド・パージなど、米国は時としてラディカルな思想迫害をすることがある。

またパリ協定からの離脱、EV補助金の縮小や停止、パイプライン建設促進等バイデン政権が推し進めた環境政策を換骨奪胎することも間違いないだろう。さらに国境管理の強化、不法移民対策の強化も進めるだろう。

金融資本、資本主義擁護の姿勢を鮮明に

その一方で選挙レトリックを変えつつある政策もある。中絶禁止やウクライナ戦争支援反対などの主張は大きくトーンを緩め始めている。また口先では反国際金融資本といいつつウォール街の利益を代弁し、株価フレンドリーの政策をとり続けそうなのは、第1期のトランプ政権時と変わらないだろう。

前回はドット・フランク法の改正、ボルカールールなどの金融規制の緩和を実施したが、バイデン政権が導入した自社株買い課税の撤廃など、反市場政策をひっこめるかもしれない。結局トランプ氏は金融資本、ウォール街利益を代弁し資本主義を擁護する立場を鮮明にするだろう。

ドル安論者かと思われたが…再選の場合「ドル高容認」か

貿易赤字に焦点を絞っており前回の大統領就任時には、ドル安に言及したこともあり、トランプ氏はドル安論者かと思われているが、むしろドル高容認の姿勢を打ち出すのではないか。

トランプ政権は保護主義の手段として高率関税を打ち出している。すでに一律10%輸入関税、対中では60%の関税設定を提起しており、輸入関税にドル安が加われば米国の輸入物価が急上昇することは必至、だかそれは考え難い。

むしろ高関税とドル高政策を併用してくるのではないか。米国産業の防御には関税政策を割り当て、米国が圧倒的に強く独占しているAI、デジタルの分野では強いドルを使って攻勢を強める、という選択が合理的である。

以上のような市場フレンドリー政策が想定されるうえ、第1期トランプ政権を担ったロバート・ライトハイザー元USR代表、ピーター・ナバロ元大統領補佐官、ラリー・クドロー元国家経済会議(NEC)議長等が政策準備に参画しており、経済通商政策の一貫性はほぼ確かであろう。

2016年と同様、事前の懸念とは裏腹に、株式市場は「もしトラ」を歓迎する可能性が高いと思われる。

武者 陵司

株式会社武者リサーチ

代表

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