投機筋に大ダメージ!?…先週発生した〈メキシコペソ大暴落〉が「米ドル=円」に与える影響【為替のプロが考察】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月11日 10時15分
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(※画像はイメージです/PIXTA)
先週は、前半は1ドル=154円台へ米ドルが反落したものの、後半には157円へと反発した「米ドル=円」。マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏によると、「日米金利差の変化より、投機的円売りが続くか否かの影響が大きくなっている」最近の為替相場において、投機筋の円売りの動向を左右し得る、気になる事象が発生しているといいます。今週の相場の展開予測と合わせて、詳しく見ていきましょう。
6月10日~6月16日の「FX投資戦略」ポイント
〈ポイント〉 ・先週は、前半に154円台へ米ドルが反落。これは、投機筋の米ドル買い・円売りポジション圧縮が主因か。最近の米ドル/円は日米金利差の変化より、投機的円売りが続くか否かの影響が大きくなっている。 ・今週は、FOMCなど注目イベントが多いが、それらを受けた投機的円売りの動向が最大の焦点。すでに投機的円売りは、行き過ぎ懸念も強いことから、さらなる拡大余地は限られ、ポジション調整で円高に戻す可能性もありそう。今週の米ドル/円は154.5~158.5円で予想。
先週の振り返り=一時154円台へ米ドル反落も、その後は反発
先週の米ドル/円は、前半に154円台へ反落しました。ただ、金曜日に発表された米5月雇用統計が、予想よりかなり強い結果だったことから、米金利上昇につられる形で一時157円までの反発となりました(図表1参照)。
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まずは、週前半の米ドル反落について。これは、月曜日に発表されたISM(米供給管理協会)製造業景気指数が予想より弱かったことを受けて米金利が低下し、日米金利差の「米ドル優位・円劣位」が縮小したことにつられた動きでした(図表2参照)。ただし、ここで1つ気になるのは、日米金利差の米ドル優位・円劣位の縮小は、先々週までも見られましたが、それに対する米ドル安・円高の反応は、鈍い状況が続いていました。それではなぜ、先週の金利差の縮小においては、米ドル安・円高の反応となったのでしょうか?
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投機筋の代表格である、ヘッジファンドの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、4日時点で13万枚の売り越しとなり、1週間前に比べて売り越しが縮小しました(図表3参照)。売り越しの縮小は、3週間ぶりのこと。
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以上を踏まえると、先々週までは、日米金利差が縮小しても、投機筋の米ドル買い・円売りが続いたことから、米ドル高・円安の流れは変わらなかったものの、先週はそんな投機筋が米ドル売り・円買いに動いたことで、154円台への米ドル/円の反落になったといえます。では改めて、なぜ投機筋は、先週前半にかけて、米ドル売り・円買いに動いたのか。
1つには、テクニカルな理由だったと考えられます。先週は、前の週にサポートされた156円台半ばを割れてから、米ドル下落が一段と広がりました。先々週の段階で、CFTC統計の投機筋の円売り越しは、15万枚とかなり高水準となっていました(図表4参照)。
要するに、大幅に米ドル買い・円売りポジションに傾斜していたなかで、米ドルがサポート・ラインを割り込んだことにより、米ドル買いのポジションを減らす動きが広がったということです。
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そして、もう1つ気になるのが、週明け直後の「メキシコペソ・ショック」の影響です。メキシコの選挙で、左派の大統領誕生が決まったことに加え、左派の与党が予想以上の大勝となったことから、憲法改正などが現実味を持ったことへの懸念として、メキシコペソは、対円で火曜日までの2営業日で、最大8%以上の暴落となりました(図表5参照)。
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CFTC統計の投機筋のポジションを見ると、そんなメキシコペソは4日時点で、対米ドルで12万枚の買い越しとなっていました。これは、対米ドルでは、ほぼ最大の買い越し。
CFTC統計の投機筋とは、ヘッジファンドが中心と見られていますが、今回、ヘッジファンドが対米ドルで、大きく買いポジションをとっていたメキシコペソが暴落したわけですから、かなりの損失が発生した懸念がありそうです。この結果、ヘッジファンドがポジション全体の見直しに動いた結果として、米ドル買い・円売りに大きく傾斜したポジションの「圧縮」をもたらした可能性も考えられるでしょう。
FOMCや日銀会合を受けた、投機的円売りの今週の動きは?
これまで見てきたように、最近の米ドル/円は、日米金利差の変化より、投機筋の動向の影響が大きくなっているようです。この背景には、日米10年債利回り差の「米ドル優位・円劣位」が、3%以上と、大幅に拡大している状況では、それが少し縮小したとて、円買いには不利で、円売りに有利なことに変わりないといえます。その結果、日米金利差の米ドル優位・円劣位が縮小しても、円買いの反応は限られ、金利差の「円劣位」が拡大すると、過敏に円売りで反応する状況となっています。
先週は、金曜日の米雇用統計発表が予想より強かったことから、日米金利差の米ドル優位・円劣位の拡大で、米ドル/円は、一時157円まで反発しました。とはいえ、さらに米ドル高・円安が広がるかといえば、そこは、投機的円売りが続くかどうかが、最大の焦点となるでしょう。
今週は、水曜日にFOMC(米連邦公開市場委員会)、そして金曜日には、日銀の金融政策決定会合が予定されています。また、下記のように、12日にCPI(消費者物価指数)、13日にはPPI(生産者物価指数)といった、米インフレ指標の発表なども予定されており、注目イベントが相次ぐ見通しとなっています。それらを受けて投機円売りが続くか否かが、米ドル/円の行方を決めることになりそうです。
4月CPI総合=前回3.4%、予想3.4% 同コア=前回3.6%、予想3.5% 4月PPI総合=前回2.2% 同コア=前回2.4%
CFTC統計の投機筋の円売り越しは、4日時点で13万枚でしたが、その後は米ドルが反発したこともあり、さらに拡大している可能性もあります。そもそも、円売り越しが10万枚以上になると、「行き過ぎ」の懸念が強まるのが通常です。その意味では、すでに高水準となっている、投機筋の米ドル買い・円売りポジションの拡大には、おのずと限度があるといえます。
加えて、すでに見たように、「ペソ・ショック」で、ヘッジファンドなどの投機筋が大きな損失を負ったとしたら、全体的にリスク許容度も低下している可能性があるため、なおさら行き過ぎた米ドル買い・円売りの拡大余地は、限られる可能性があります。
米ドル/円は、160円まで上昇した後、日本の通貨当局による為替介入を受け、急落に転じたあとは、これまでのところ、158円以上の反発はありません。このため、158円は米ドルの上値の重要分岐点と考えられます。
投機筋が、米ドル買い・円売りポジションに大きく傾斜した状況で、さらに「ペソ・ショック」などにより、リスク許容度が低下しているとすると、投機筋による円売りの拡大で、158円を大きく超えるのは難しく、逆にポジション調整が拡大した場合は、米ドル安・円高に戻す可能性もあるでしょう。
以上を踏まえ、今週の米ドル/円は、154.5~158.5円で予想します。
吉田 恒
マネックス証券
チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長
※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
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