二番手ではダメなのか?高配当株投資をするなら「業界トップ企業」の銘柄を選ぶべき理由【経済誌元編集長が助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月18日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
高配当株投資をする際、銘柄選びのポイントは当然「配当利回りの高さ」になります。しかし、ただ配当利回りが高いという理由だけで、ランキングの上から選べばそれでいいのでしょうか。『一生、月5万円以上の配当を手に入れる!シニアが無理なく儲ける株投資の本』(日本実業出版社)の著者である川島睦保氏は、「業界のトップ企業から選ぶべき」と明言します。その理由を書籍から一部抜粋しご紹介します。
「業界のトップ企業」を選ぶのが最も簡単で安全
個人投資家にとって最も簡単で安全な「高配当利回り銘柄」を選別する基準は、「業界のトップ企業」であることだ。
トップ企業といっても定義は様々だが、売上や利益で業界1位というごく普通の理解で大丈夫だ。業界のトップ企業であれば、ほとんど例外なくガバナンス(企業統治)が整備されている。
ガバナンスとは、企業価値の向上に向けて、組織における不正や不祥事を未然に防ぐための体制のことだ。ガバナンスのしっかりしている企業は、倒産のリスクだけでなく、減配や無配のリスクもかなりの確率で排除できる。万一、経営不振に陥っても立ち直りが早い。配当利回りランキングの順位が少し低くても、業界のトップ企業を選ぶことを推奨したい。
個人投資家は、機関投資家とは異なり、自由に投資できる資金が豊富にあるわけではない。投資できる銘柄の数にも限りがある。業界のトップ企業に投資対象を狭めたとしても、買うべき銘柄に困ることはない。
また、高配当利回りランキングの上位グループの予想配当利回りの差はゼロ・コンマ以下であり、序列が少し低い「業界のトップ企業」を選んだとしても実害はそれほどない。
個人投資家は、長期投資で10年以上もお付き合い願うのだから、できれば銀行や証券会社、メディアなど世間の監視が行き届いた「業界のトップ企業」を選ぶべきだ。
トップ企業なら、政府の関心も高いはずだ。公的年金の積立金の主要な運用対象になっているからだ。こうした衆人環視の強い企業ほど経営に対して強い規律が働く。
同じ業界にあっても、序列が低くなると、世間の監視が弱くなる。業績の悪化や不祥事の兆候が出ていても見逃されてしまう場合が多い。その結果、ある日突然、株価は急落、配当も減配になっていたということになりかねない。
もちろん大企業でも、急に経営が行き詰まり無配に転落するケースがある。2011年の東日本大震災で福島第一原発事故に見舞われた東京電力や、2015年の不正会計発覚、米国原発子会社の巨額損失など相次ぐ不祥事で、上場廃止に追い込まれた東芝などだ。
業界のトップ企業とはいえ、生身の人間が企業を経営している。判断ミスは避けて通ることはできない。だが業界のトップ企業でこうした事例が発生する確率は、業界の序列の低い企業に比べると圧倒的に低いはずだ。中小企業の経営不振はメディアが大きく取り上げないので、私たちが気づかないだけだ。
投資の対象として中小企業よりも大企業を選ぶべきだと勧めると「事大主義」だとか、「チャレンジ精神に欠ける」と批判されるかもしれない。だが、私たちは命の次に大切な老後資金を企業の経営者に預けるのであるから、きれいごとなど言っておれない。
二番手企業は背伸びをする
投資の安全を期すなら、投資対象はまず業界のトップ企業に絞り込んで、さらに資金に余裕ができた場合は同じ業種の二番手、三番手へと買い下がるのではなく、別の業種のトップ企業を購入するべきだ。
私が株式投資を始めた頃、自動車業界トップのトヨタ自動車以外に日産自動車を買ったことがある。当時、自動車業界はEV(電気自動車)化でエレクトロニクス企業のように長期的に衰退の道をたどるという議論がメディアをにぎわせていた。トヨタや日産だけでなく、自動車部品メーカーの株価も大きく売り叩かれていた。
しかしEVがインフラ整備を含め本格的に普及するのは早くて数十年後の話だろう。それまでは株価の下落余地は限られていると踏んだ。そこでトヨタよりも高配当利回りで、業界ナンバーツー(当時)であった日産株に手を出したのである。
ところが日産株を買った数カ月後に〝カルロス・ゴーン事件〟が突然起きてしまった。日産は無配転落、株価は長期低迷を余儀なくされた。
カルロス・ゴーン事件とは、当時、日産自動車会長だったカルロス・ゴーン氏が2018年11月に金融取引法違反で逮捕され、同法違反および特別背任の疑いで起訴された事件だ。ゴーン氏は保釈中に国外へ逃亡し、現在は公判停止となっている。
私は悔しくて、トップのトヨタ自動車と日産自動車の経営比較を行なったが、ゴーン時代の日産がトップのトヨタに負けまいとしていかに背伸びをした経営を行なっていたかが実感としてわかった。
こうした〝無理〟をした経営(=決算)は、内部告発でもないかぎり、プロの公認会計士や証券アナリストでも見抜くことはむずかしい。
トップと二番手とでは、さまざまな点で序列以上の開きがある
ここでの教訓は、トップ企業と二番手企業とでは、経営力、人材力、財務力、研究開発力などの点で序列以上の開きがあるということだ。
これは長く企業で働いた経験のある人なら理解していただけるだろう。たとえば自動車業界でいえば、トップのトヨタ自動車と、2位、3位のホンダや日産とでは、売上数字の差以上に経営の実力(収益力や成長力、技術力などを合わせた経営の総合力)の差があると見たほうが良い。
トップ企業は経営に余裕があってまだまだ成長の〝伸びしろ〟が大きい。その一方で、二番手以下の企業は上位企業との差が広がらないように無理をしているケースが多い。トップ企業はこれからさらにグローバル競争や新技術の開発競争が激化しても、海外の優良企業と伍していけるが、二番手以下の下位企業は途中で力尽きてしまう可能性がある。
日本ではどの業界でもそうだが、企業の数が多すぎる。メガ銀行や製鉄会社はすでに数社に集約されてしまったが、今後のグローバル化、国際競争の激化とともに他の業界でも再編がさらに進むだろう。
その点でも個人投資家はトップ企業に投資していれば安心だ。また地震などの自然災害で日本経済が窮地に陥った場合、真っ先に経営不振に陥るのは下位の企業だ。トップ企業は最後まで生き残る。日本の政府は業界下位の企業の倒産には目をつぶっても、トップ企業の倒産は放置できない。
日本経済への影響の大きさ、経済安全保障などの観点からも決して容認できない。必ず救いの手を差し伸べる。不公平だが、これが政治の現実だ。このように見てくると、業界のトップ企業は二番手以下の企業に比べて、相対的に株価が安定しており、下落の余地も小さい。
しかも配当利回りが高いとくれば、長期投資には不可欠の存在だ。長期投資で老後の生活資金づくりを目指す個人投資家は、財務諸表の数字には現れない政治的、社会的な要因も注視すべきである。
川島 睦保
フリージャーナリスト、翻訳家
※本記事は『一生、月5万円以上の配当を手に入れる! シニアが無理なく儲ける株投資の本』(日本実業出版社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。また、投資による結果に編集部は一切責任を負いません。投資に関する決定は、自らの判断と責任により行っていただきますようお願いいたします。
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