「恋人のスマホを勝手に見たらDV」「男がデートで奢るべき、は差別」新しい時代の常識3つ【トイアンナ】<br />
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月11日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
映画『男はつらいよ』でも語られなかった、本当につらい男の人生とは。下がる実質賃金、増える社会保険料。それでも一家を養うのは男の仕事と期待され、稼ぎがなければ結婚もできない。そんな男性のいきづらさを、書籍『弱者男性1500万人時代』の作者、トイアンナが語る短期集中連載、最終回は「新しい時代のDV」について語ります。
差別は時代とともに変わる
何が差別で、何が差別でないかは常にアップデートされるものだ。たとえば、1989年の終わりに生まれた「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」は、お茶の間をわかせたバラエティ番組のキャラクターだったが、今なら言語道断の差別になるだろう。
当時、保毛尾田保毛男に爆笑していた人が、今は真面目な顔で「LGBTQ+への差別は許されない」と語る。その変化は白々しいと感じるかもしれないが、必要なものである。
そして、これから変わりゆく差別の線引きもある。日本で「これから」間違いなくアップデートされるのは以下の3つだろう。
1 「男が奢らないなんて」と怒るのは差別
「デートで男性が奢らないなんて、私はバカにされているのでしょうか」
と、相談してくれたのは20代の女性である。
私は、婚活予備校を主宰している。そのため、生徒以外からも婚活相談をいただくことも多い。これは、そこに紛れ込んだ相談のひとつだ。
彼女は初デートを終えたばかりだった。そして、初デートにもかかわらず奢ってもらえなかったことに傷ついていた。怒っていたのではない。自分が奢るほどの価値もない女だと思われたと感じ、悲しんでいたのである。
だが、実際には婚活において、割り勘のお会計をするケースも増えている。さらにいえば、女性が奢るケースもでてきた。にもかかわらず、「バカにされている」と感じてしまうのは、自分の内心に偏見が眠っているからだ。
根底にある「デートで女性を大事に扱うつもりがあるならば、女性の費用を負担すべき」という前提には、「どうせ女性だから稼げていないんだろう」「女性は養われる身分だから」という女性蔑視がある。奢られるべきだと考える女性は、自分で自分の性別を蔑視してしまっているといえる。
日本において、男女で賃金格差があるのは事実だ。だが、たとえば、こういった女性が「自分より年収が低いから」と、男性に奢るかと言われればノーである。奢られ派の女性は、「男性は女性に奢るもの。だって、男性は私より稼いでるでしょ」「奢らないなんて、男らしくない」という無意識の思い込みがないだろうか。そうなると、これは賃金格差とは別の問題である。
その偏見、差別感情を持つのは自由だ。日本には思想の自由がある。だが、今後はそれを口に出すと、「女たるもの、男より三歩後ろをあるくべし」と言われているくらいの、リアクションをされても仕方がないといえるだろう。
2 恋人のスマホを勝手に見るのはDV
「恋人のスマホを見て浮気が発覚!」
これはかつて、お茶の間のドキュメンタリー番組や、雑誌に登場したよくあるシチュエーションだった。が、恋人のスマホを勝手に見ることが「DV」に当てはまることを知っているだろうか。DVには、殴る、蹴るといった暴力以外にも「無視する」「相手を管理、支配したがる行動」も含まれる。スマホは個人情報であり、それを勝手に見るのは恋人の通帳を見たり、クレジットカードをメモするのと同じだからこそ、DVに含まれるのだ。
その結果、浮気が見つかったとしよう。確かに浮気は責められる行為だが、こちらもDVをしたことになる。それを棚上げはできないだろう。しかも、恋人のスマホにあった「証拠」をSNSにアップする人も散見される。ここまでくると、個人情報の漏洩になる。
たとえ恋人から訴えられなくても、ネットに「私はDVを振るうのが大好きです!」と公開していることと同じである。今後は、過去のSNS投稿がきっかけにコンプライアンス意識を問われ、就職などで不利になるおそれすらあるだろう。
浮気が見つかったなら、淡々と弁護士に相談してほしい。これは、筆者からのお願いだ。
3 「イケメンと美女“だから”活躍の機会を与える」のはセクハラ
たとえば、こんなシチュエーションを想像してほしい。
「ミス◯◯に選ばれるほどの美しい女性が同僚にいた。彼女は、ある重要な取引先とのミーティングに同行した。ただ、彼女は異動したばかりで、プロジェクトの専門知識を持っていなかった。しかし、「せっかくこんなに美しい女性もいることですし」と、突然スピーチの機会を与えられた。それは上司から彼女への「配慮」だったが、むしろ彼女は素人発言で赤っ恥をかいた。そして、取引先との関係は悪化した。
これは、典型的な「慈悲的差別」である。慈悲的差別とは、立場が弱そうな方へ、本人に確認せず、先回りして不要な配慮や気遣いをする差別を指す。
たとえば、かつては女性社員へ「女性だからどうせ30代になると育児へ専念するだろう。あらかじめ残業が少ない、出世コース外のキャリアを歩ませてあげよう」という慈悲的差別が、以前はまかりとおっていた。今ならセクハラで一発退場となる案件である。
こういったわかりやすいケースは減ったものの、今でも「美女だから、話せば先方にとっても気分がいいだろう」とか「きれいな女性にとっても、上司から優遇されて嬉しいにちがいない」といった偏見にもとづいた慈悲的差別がまかり通ってしまうケースがある。
さきほどのミス◯◯の女性は、「いつもこういう待遇だから……」と半ばあきらめたようすだった。かつては実力で判断されたいと思っていたが、もう諦めてしまった。どうせ無駄だから……という声だった。
「では、大学の女子枠や、管理職の女性枠は?」
という声が聞こえてきそうだ。そう、これも実際には差別である。だが、いまは許容されている差別だ。なぜならば、女性が管理職となるだけで「上司と関係を持ったからだろう」などと言われる会社が、未だに大企業ですら存在しているからである。
また、電気・ガス・水道業では女性管理職の比率が4.1%しかない。日本に多い製造業でも8%だ。ここまで女性管理職がレアだと、女性にとっても意見を言いづらい環境が生まれる。慈悲的差別も生まれやすい。だからこそ、女子枠は現存する大きな女性差別を乗り越えるために、女子枠という別の差別で対抗する「蛇の道は蛇」といえる施策である。
女子枠を「差別ではない」と言ってしまうのはただの欺瞞だ。ただ、冒頭で述べた通り「何が差別か」は常にアップデートされる。将来、女性が当たり前に管理職となれる日が来た場合は女子枠が差別だと世間から認識され、消えていくだろう。
「差別は誰でもしうるもの・直していくもの」という姿勢
では、世間にはなぜ差別がこれほどあり、そしてまだ、まかり通っているのか。その背景には「差別をしたら人間として一巻の終わり」という誤解がある。だが、実は誰もが差別をしているのだ。
かつて、私は童貞の男性をネタにして、居酒屋で笑ったことがある。2024年だったら絶対にしない。それが差別だと知っているからだ。だが、当時の私はやった。差別だと気づいていなかったからだ。こういうふうに、「相手が傷ついていること」「許されないこと」を知り、私達は変化していく。
現在、私が普段ブログサービス「note」に書いているエッセイは、相当無難なビジネススキルに関するネタだ。だが、10年後には内容が差別的だと認識されるかもしれない。そういうものだ、と思いながら書いていくしかない。
ところが、「人生で一度でも差別をしたら終わり」だと思っていると、自分の中にある差別を、絶対に認められなくなってしまう。だが、たとえば子どもは無邪気に障害者の方へ「なんで足がないの?」と聞いてしまうことがあるだろう。それを、一度発言したから二度と許してはいけないといった潔癖な線引きをすれば、この世には「差別をしたことなんてない、と思いこんでいる危ない人」しか残らない。
差別は誰でもしてしまう可能性があるものだ。そして、差別をしてしまっていたこと気づいたら、何が差別だったのかを振り返って反省して改めていくという日々の繰り返しが、時代を前へ進め、傷つきを減らしていくはずである。
トイアンナ ライター/経営者
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