抗がん剤の“過剰な使用”はかえって危険…米臨床腫瘍学会が提示する「抗がん剤の使用をやめるべき」5つのタイミング【医師が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月17日 10時0分
![抗がん剤の“過剰な使用”はかえって危険…米臨床腫瘍学会が提示する「抗がん剤の使用をやめるべき」5つのタイミング【医師が解説】](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/goldonline/goldonline_61083_0-small.jpg)
(※写真はイメージです/PIXTA)
がん治療の方法のひとつである抗がん剤。実は抗がん剤にもやめどきがあり、過剰な投与はかえって命を縮めることになってしまうそうです。では、「抗がん剤をやめるべきタイミング」とはいったいいつなのか、医師である勝俣範之氏の著書『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』(KADOKAWA)より、詳しくみていきましょう。
過剰な使用はかえって危険…抗がん剤をやめるタイミングとは
【登場人物】
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■教える人……勝俣範之先生
あらゆる部位のがんを診られる腫瘍内科医として日々診療にあたっている。
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■教わる人……編集者O
身近にがんに罹患する人が増えて、わからないことだらけで心配になっている。
勝俣範之先生(以下、勝俣):抗がん剤について知っておいてほしいことは、使う状況によって目的が違うということです。進行がんや再発がんでは、できるだけがんの進行を抑え、症状を和らげるために使います。
編集者O(以下、O):つまり、進行がんでは、がんとより良く共存していくために抗がん剤治療を行うということですね。
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勝俣:そうです。患者さんやご家族にも、過剰な抗がん剤の使用は避けたほうがいいことをご理解いただきたいですね。中には、抗がん剤を使えば奇跡が起こって、進行がんが治癒するのではないかと考える方もいらっしゃいます。だから、どんなにつらくても我慢して、最後の最後まで抗がん剤治療を続けたいとおっしゃる場合も多いのですが、それは決して適切ではないのです。
O:やめる基準のようなものはあるのですか?
勝俣:がん細胞は遺伝子変異を繰り返しますから、抗がん剤がだんだん効かなくなってくるのです。やりすぎはむしろ命を縮めることもあります。抗がん剤はいちばん治療効果が高いものから使い、それをファーストラインといいますが、セカンドライン、サードラインと抗がん剤を替え、今はフォースラインぐらいまでで限界です。ですから、ある時点で、抗がん剤はやめるべきです。個人によって違いはありますが、アメリカの臨床腫瘍学会がガイドラインとして出しているものが下の表です。
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“うまく付き合っていく”ことが大切
O:進行がんや再発、転移が見られるがんの患者さんで、「もう、できる治療はない」とお医者さんから告げられ、絶望してしまったという話を聞くことがあります。
勝俣:ひどい言い方です。治療がないなんて、そんなことはないですよ。たしかに進行がんの場合、標準治療と呼ばれる積極的治療は意外と早く終わってしまいます。抗がん剤などを使った積極的治療には限界がありますが、だからといって諦めるという意味ではないのです。緩和的治療(緩和ケア)は最期までできる治療です。
O:治療が終わる、限界があるというだけで患者さんには厳しいことだと思います。もっとやれることがあるのではないかと思ってしまうのではないでしょうか?
勝俣:その通りです。私もそういう言い方はよろしくないと思います。そもそも、抗がん剤をやめたからといってすぐにがんが悪化するものではありませんし、治療自体はなくなりませんよ。
O:標準治療は終わってしまうんですよね?
勝俣:積極的治療には限界があるということです。しかし、すでにお伝えしたように、緩和ケアも立派な標準治療です。延命効果も実証されています。だから諦めないでほしいと思います。人生において、何が起きるかはわかりません。
しかも、がんの治療は日進月歩で進化しています。逆転満塁ホームランを期待できる抗がん剤として、免疫チェックポイント阻害剤なども登場してきています。保険適用になる新しい放射線治療なども出てきています。ですからがんの治療では「最善を期待して、最悪に備える」、これが何よりも大事なんですよ。
O:期待は持っていてもいいんですね。「がんサバイバー」という言葉があるくらいですから、たしかにそうですね。
勝俣:その言葉が広がっていること自体、「がん=死」ではないということの表れです。全国で500万人以上いらっしゃいます。そのためには、むやみに「がんを克服する」とか、「がんに打ち勝つ」とか、マスコミが好んで使うような言葉に惑わされることなく、がんとうまく付き合っていってほしいのです。この感覚はとても大事だと思います。
O:そのために必要なことは何でしょうか?
勝俣:これは緩和ケアのところでもお話ししましたが、やはりご自身のQOLをいちばんに考えるということです。がんがある、ないにかかわらず、生活の質や人生の質が上がることは、その人にとって幸せなことではないでしょうか。がんの治療を諦めない、というより人生を諦めない、ということが大切と思います。
人生を諦めないとは、自分が大切にしていること、好きなことを諦めないということです。ですからステージ4でも、再発や転移があっても、どうかご自身の人生を大切にしてほしいと思います。
勝俣 範之 日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科 教授/部長/外来化学療法室室長
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