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「退職祝いにベンツ」の夢を叶え、悦に浸っていた年収1,200万円の63歳・元エリートサラリーマン。〈特別な年金〉欲しさに再就職を拒否も…2年後もらえる年金受給額に撃沈【FPの助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月17日 11時15分

「退職祝いにベンツ」の夢を叶え、悦に浸っていた年収1,200万円の63歳・元エリートサラリーマン。〈特別な年金〉欲しさに再就職を拒否も…2年後もらえる年金受給額に撃沈【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

「定年後、年金だけでは暮らせない」というのが定説になりつつある昨今ですが、「現役時代に少なからず稼いだわけだし、定年後は思い切りセカンドライフを楽しみたい」と考える人も少なくないのではないでしょうか。再雇用の誘いを断り、「完全リタイア」を決断した大西さん(仮名)もその1人です。しかし、「老後の夢」を叶えるためには、予想以上にお金がかかるようで……。定年後に再雇用で働く場合と、そうでない場合、家計収支は、どれだけ違ってくるのか、ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が、事例をもとに解説します。

再雇用を蹴って、“完全リタイア”宣言…「老後の夢」を叶えた大西さん

3年前、60歳で定年を迎えた大西直人さん(仮名・65歳)は、“完全リタイア”を宣言しました。それまでの仕事漬けの日々から解放され、悠々自適な毎日の始まりです。

大西さんは現役時代、大手企業の営業部長を務めており、60歳時点で年収は1,200万円でした。

定年後は再雇用という道もありましたが、同じような業務内容で、年収が4分の1の300万円まで下がることを聞き、選択しないことにしました。64歳から受け取れる「特別支給の老齢厚生年金」の存在を知っていた大西さんは、収入があると受給額がカットされることにも抵抗を感じていたようです。

受け取った退職金は、住宅ローン完済にあてましたが、それでも貯蓄は約5,000万円あります。

息子は大西さんが59歳のときに大学を卒業し、社会人に。教育費の負担からも解放され、大西さんは経済的な余裕を感じていました。

とはいえ、多忙な現役時代を駆け抜けた大西さんは、生活にまつわる諸々を、専業主婦である同い年の妻・直子さん(仮名)に任せていました。お金に関しても一切関与せず、時折、現在の貯蓄額を妻に確認する程度です。

「退職祝いにベンツ」…夢が叶い、喜びもひとしお

大西さんは、自身が60歳時点で、5,000万円の資産を築けたことに、誇りを感じていました。再雇用の道は絶ったものの、「もともと無駄遣いはしないタイプだし、これだけの蓄えがあれば、働かなくても生活していけるだろう」と楽観的です。

長年の勤労を終え、自分へのご褒美を買おうと思った大西さんは、「人生最後の車に」とかねてから切望していた、高級車メルセデス・ベンツの購入を決意します。

憧れの車がついに自分のものになり、喜びもひとしおの大西さん。天気のいい日には、愛車に乗って、近場の温泉に出かけたり、海沿いを走ってみたりと、楽しくて仕方ありません。「今まで頑張って働いた甲斐があったってもんよ」と、悦に浸りながらハンドルを握る大西さんの隣で、直子さんは、「こんな調子で老後は大丈夫かしら……」と、ため息交じり。

また、自宅にいる時間が長くなったことで、自宅の老朽化がかなり進んでいることが気になり始めました。そこで、「これからも住み続けるわけだし、やるなら早いうちに」と、リフォームにも取り組むことに。

その後も63歳まで、大西さんは「理想の老後」を楽しみました。

深刻な表情の妻から見せられた「預金通帳」

ある日のこと、妻の直子さんが深刻な表情で言いました。「ねえあなた、これを見て欲しいんだけど」。大西さんが預金通帳を見ると、5,000万円あった預金が、なぜか2,000万円まで目減りしています。

「これはいったいどういうことだ!」と大西さんは妻に詰め寄りましたが、「それは私のセリフです」と、妻は大西さんに、この3年間でかかった具体的な支出の内訳を説明しました。

<支出の内訳>

・ベンツ購入:800万円、維持費(3年間):200万円

・リフォーム代:1,000万円 (内訳:屋根・外壁、キッチン、浴槽、トイレ、耐震補強など)

・国内旅行(半年に1回): 150万円(25万円×6回)

・その他夫婦の支出(3年間):850万円

合計……3,000万円

退職記念に買った愛車のベンツには、実は思わぬ落とし穴がありました。見た目や乗り心地はいいものの、外車特有の高額な修理費と維持費が、想像以上に大西家の家計を圧迫する事態となっていました。

さらに大西さんは、自宅のリフォームに1,000万円もかかっていたことも把握していませんでした。気になる箇所があるたびに業者を呼んで修繕していたため、費用が積み重なり、高額になっていたようです。

生活費については、浪費しないよう心がけていた大西さんですが、給与収入がないことから、資産は毎月減る一方。直子さんも、あまりの支出ペースの速さに、不安になりつつも、色々と口をはさむと、すぐに不機嫌になる夫と話し合いをするのが面倒で、つい後回しにしてしまっていたのでした。

「ちょっと安易に考えすぎていたかもしれないな……」

わずか3年で資産が3,000万円も減ってしまったことに、大西さんは大きな焦りを覚えました。

このままではまずいと感じた大西さんですが、ふと「もう少しで年金がもらえるようになるから、生活の足しになるんじゃないか」と希望を持ちます。

これまできちんと「ねんきん定期便」を確認してこなかった大西さんですが、直子さんが「ねんきん定期便」を引き出しに保管していたことを思い出し、それを取り出してみました。

自身の年金額をみた大西さんは、衝撃を受けます。「えっ! こんなに少ないの?」

年収1,200万円だった大西さん、年金受給額「290万円」に衝撃

「ねんきん定期便」を見ると、65歳から受給できる大西夫妻の年金額は

夫:210万円(老齢基礎年金+老齢厚生年金)

妻:80万円(老齢基礎年金)

合計290万円

と書かれています。月額に直すと、22万円程度になる見込みです。

「長い間、高額の厚生年金保険料を納めてきたのに、もらえる年金はこの程度なのか……」と大西さんは肩を落としました。

このままでは残りの資産がどんどん目減りし、枯渇してしまうかもしれない……焦った大西さんは、直子さんを連れて、以前両親の相続時にお世話になったFPに相談することにしました。

「夢のベンツ」が大きな負担に…FPが行った「2つ」の提案

大西さんから一通り話を聞き、FPはまず、大西夫妻の毎月の生活費を洗い出すことにしました。

<生活費の内訳>

・住居費:2万円

・食費:6万円

・医療費:1万5,000円

・水道光熱費:2万円

・交際費:4万円

・通信費:1万5,000円

・車(ベンツ)の維持費:3万円(メンテナンス、自動車税、自動車保険)

・その他:4万円

合計……24万円

直子さんのやりくりのおかげで、大西夫妻は大きな浪費もなく、生活費はある程度抑えることができています。ただし、車の維持費が高額で、これが毎月の家計に大きな負担をかけていることがわかりました。

この状況を踏まえ、FPは大西夫妻に下記の2つの提案を行いました。

1.支出の見直し…車の買い替えで、維持費は月2万円減

「生活の大きな負担になっているベンツを、コンパクトカーに買い替えてみませんか? コンパクトカーであれば、維持費は現在の3分の1程度まで抑えられます」。

積年の夢だったベンツを買い替えろと言われ、最初は手放すことを躊躇していた大西さんでしたが、隣にいた直子さんの熱心な説得に観念し、最終的にコンパクトカーへの買い替えを決断。

そうすると、維持費は2万円削減となるほか、通信費や食費といった項目についても、無理のない範囲で見直し、1万円ほど削減。その結果、毎月の生活費は21万円になりました。

2.給与収入の確保

FPは続けて、大西さんに「可能であれば働き、給与収入を得ることをおすすめします」とお伝えしました。

「いまある資産2,000万円も、このままの生活を続けていると65歳の年金受給までにどんどん目減りしてしまいます。これを遅らせるためには、月に10万円程度の収入を確保できると心強いです」。

再雇用を断った手前、こちらについてもためらっていた大西さんですが、健康面や体力面には自信があるそう。検討の末、アルバイトで月に10万円程度の収入を得ることにしました。

家計を見直したあとの大西夫妻の家計収支は、まとめると下記のようになります。

■収入:月10万円(アルバイト)

■支出:月21万円

収支……▲11万円

この結果、毎月の赤字を11万円まで圧縮することができそうです。

なお、大西さんは64歳から「特別支給の老齢厚生年金」を年間130万円受給できます。ただし、息子さんが来年結婚予定とのことで、このうち100万円は子どもの結婚資金に充当することにしました。

このペースであれば65歳までに264万円の資産が減り、資産は残り約1,740万円になる見込みです。

65歳からは、夫婦で手取り22万円程度の年金を受給できます。健康状態にもよりますが、加えて65歳以降も月に7~8万円程度の収入を得られれば、約3年で現在の資産2,000万円まで回復できるでしょう。

もしも、大西さんが「再雇用」を選択していたら…

ではもし、大西さんが60歳のとき再雇用を選択して厚生年金に加入し続けていた場合、大西さんの経済状況はどうなっていたのでしょう。

たしかに、再雇用で勤務を続けると大西さんが心配していたように、64歳から65歳までの「特別支給の老齢厚生年金」は減少しますが、65歳以降に受け取る老齢厚生年金は、今より多くなります。

具体的には、60歳から5年間、年収300万円で勤務を続けた場合、5年後には厚生年金が月額約7,000円増える計算です。また、大西夫妻の生活費であれば、5年間勤務を続ければ、多少なりとも貯蓄額を増やすこともできたかもしれません。

63歳からの求職活動は、想像以上に大変だったが…

その後、大西さんからFPに連絡がありました。FPからのアドバイスに従い、車を買い替え、アルバイトを始めたそうです。「試算どおりの家計収支に収まり、感謝しています。ただ、バイト先が決まるまでは苦労しました(笑)」。

60歳から3年間のブランクや、高齢によるスキルのミスマッチなどが影響し、なかなか採用されない状況にあったようです。

しかし、あきらめずに努力を重ね何度も面接を繰り返した結果、最終的にマンションの管理人として働くことになりました。

「管理人の仕事は楽しく、これなら65歳以降も働けるんじゃないかと思っています。FPさんは65歳以降、毎月7~8万円の収入を得られれば3年程度で資産2,000万円に回復できるとおっしゃっていましたが、7~8万円とはいわず頑張りたいところです。妻には迷惑をかけた分、また2人で旅行に行けるよう密かに計画を立てているんです」

大西さんはこのように、前向きに語ってくれました。

辻本 剛士 ファイナンシャルプランナー 神戸・辻本FP合同会社 代表

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