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取り調べで「黙秘します」は得?損?…”逃げる糸口”を決して見逃さない〈取調室〉の実態【事件に詳しい元新聞記者が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月17日 17時0分

取り調べで「黙秘します」は得?損?…”逃げる糸口”を決して見逃さない〈取調室〉の実態【事件に詳しい元新聞記者が解説】

刑事によって、2人一組で行われる取り調べ。犯罪者や容疑者は、往々にして自分に不利益な供述を避けようと必死になるそうです。しかし、取り調べで黙秘をすることは彼らにとって得なのでしょうか、損なのでしょうか。『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)より、著者の三枝玄太郎氏が取調室の実情と判例について詳しく解説します。

ドラマの取調室は嘘だらけ?

ドラマでは、よく取調室にライトがあり、否認する容疑者の顔に当てたりしますが、これは実際にはありません。被疑者などが暴れたりすると困るため、必要最小限のもの以外はなく、机にはアルミ製の灰皿だけが置いてありました。

「記者さんは吸うかい?」と聞かれましたが、喫煙者ではないので断りました。取り調べはたいてい刑事2人一組で行います。殺人事件の場合ですと、1人が脅し役(厳しく追及する役)、1人がなだめ役に回ることが多いようです。

1954年に山口県で発生した一家6人殺害事件では、取調室の様子を録音したテーブが公開されましたが、刑事が「仏にすがれ、のう」とか、「僕にまかしなさい」とか「弱い心でどうする」などといろいろな角度から追及を試みていました(金重剛二「タスケテクダサイ」理論社、浜田寿美男『自白の心理学』岩波新書より)。

なお、赤坂署では6時間いた間にお茶は出されましたが、カツ丼は出ませんでした。警察ドラマの至宝『太陽にほえろ!』で下川辰平さん演じる長さんが、容疑者に「カツ丼でも食うか」というシーンが再三放映されたため、取調室といえば、カツ丼というイメージが私もあります。

食べたいときは、自腹です。刑事のポケットマネーで買い与えると、のちのち公判で「自供欲しさに利益供与したものだ」と、自白調書の任意性までが疑われてしまうからです。

「黙秘します」は得?それとも損?

ところで、取り調べで黙秘することは犯罪者、容疑者にとって得なのでしょうか、損なのでしょうか。警視庁のある刑事が「取り調べのコツ」を開陳してくれたことがあります。

彼はいわゆる強行犯(殺人、強盗、誘拐、放火などの凶悪事件)を担当する刑事でした。殺人の最高刑は死刑ですから、容疑者も必死なんだそうです。

「警察がどれくらいの証拠をつかんでいるのか、向こうは”値踏み”しているんだな。こちらの手の内を明かすタイミングが悪いと、『よし、警察はこの程度しかわかっていない』と元気になって、否認されちゃうんだよ」。

私の知人の話ですが、失業期間中にアルバイトをしたのがなぜか露見してしまい、公共職業安定所に呼ばれたときの話です。

職安の担当者に「給与の振り込みに使う銀行口座の明細を提出してください」と求められましたが、その際ぽろっと「まあ、提出することを強制はできないんですけどね」と口を滑らせてしまったために、この知人は否認を貫き通せたそうです。

このケースは犯罪でも黙秘でもありませんが、調べられる側というものは“逃げる糸口”を決して見逃さないものなのです。黙秘が被告人に有利に働いた事件といえば、代表的なのは1984年に札幌市で起きた事件ではないでしょうか。

雪の日に資産家の次男の男児(9)が、自宅にかかってきた電話を取ったあと「ワタナべさんの家に行く」と言って行方不明になった事件です。嫌な予感がした男児の母は、男児の兄にあとをつけるよう言ったのですが、兄はアパートの近くで弟を見失ってしまいます。

地元の警察は身代金目的誘拐の可能性も視野に捜査しましたが、男児の行方は杳としてわかりませんでした。

ところが2年以上経って動きが起きます。北海道新十津川町にある飲食店従業員の女性(31)の自宅が焼け、夫が亡くなりました。その際に物置から人骨が発見され、それが札幌で行方不明となった男児のものだったのです。

女性は事件発生当時、男児が姿を消したアパートに住んでいました。北海道警は1998年、公訴時効ぎりぎりのタイミングで女性を逮捕します。実は、女性は事件当初から容疑者として浮上していました。

しかしすでに死体遺棄罪や死体損壊罪は時効が成立していました。札幌地検は殺人罪で起訴しましたが、捜査でも公判でも女性は容疑事実を否認、それどころか裁判では検察官の一切の質問に黙秘で通し、結果、1審の札幌地裁、2審の札幌高裁とも無罪判決が言い渡され、女性は晴れて自由の身となったのです。

もしこの女性が犯人なのであったら黙秘権が功を奏したことになります。事件発生直後に女性のアパートに警察が踏み込んでいれば、事件は早期解決したかもしれません。

三枝 玄太郎

※本記事は『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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