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夫の突然死で生きがいを失った61歳妻、年金事務所で告げられた〈まさかの遺族年金額〉に「あんな判断さえしなければ…」【FPが助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月20日 11時15分

夫の突然死で生きがいを失った61歳妻、年金事務所で告げられた〈まさかの遺族年金額〉に「あんな判断さえしなければ…」【FPが助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

公的年金の制度はとても複雑で、安易な判断をすると思わぬ損をしてしまうことも。例えば、年金繰り上げのデメリットは「繰り上げた分だけ受け取り額が減ること」だけだと思っていませんか? 実はそれ以外に思いもよらぬデメリットがあるのです。今回はそんな複雑な年金制度の中で失敗してしまった事例を小川洋平FPがご紹介します。

飲食店を営む平和な日常に訪れた、突然の夫の死…

酒井紀美さん(61歳・仮名)は、長年連れ添った夫の雅仁さん(65歳)を突然亡くしました。

夫婦は長年にわたって小料理屋を営んでおり、雅仁さんが調理を、紀美さんが接客を担当。おいしい料理と雰囲気の良さで地域での人気は定着し、忙しくも楽しくお店を切り盛りしていました。

そんなある日、朝起きると強い胸の痛みと息苦しさを感じた雅仁さん。少し様子を見れば落ち着くだろうと、雅仁さんはもう一度布団に横になりましたが、しばらくたっても状態は良くなりません。そんな夫の様子を見ていた紀美さんが「これはただ事ではない」と急いで救急車を呼んだのでした。

しかし、急性心筋梗塞を発症していた雅仁さんは、そのまま帰らぬ人となってしまいました。「救急車を呼ぶのがもっと早ければ…」そんな後悔が押し寄せますが、紀美さんに悲しみに浸る暇はありません。

夫がもういないという現実をきちんと受け止める余裕もないまま、親族への連絡、予約を受けていた団体客に謝罪の電話、葬儀の準備と追われ、ようやく葬儀が終わり一息つくことができました。

「さて、これからどうしようか……」

ようやく先のことを考える時間ができた紀美さん。生きがいにしていた小料理屋も夫がいなくては続けることはできません。それと同時に、夫の年金のことが気になり始めました。同じように夫を早くに亡くした商工会の仲間から、遺族年金を受け取ることができることを聞いたのです。

「これまでの年金よりは減るだろうけど、生活の足しになれば」と考えながら、最寄りの年金事務所に相談してみることにしました。

遺族年金が受け取れない…いったいなぜ?

しかし、紀美さんに告げられた事実は残酷なものでした。残念ながら紀美さんは遺族年金の類を一切受け取ることができないという内容だったのです。

「えっ、そんなことあるんですか? 友達は遺族年金をもらっていたのに…」

遺族年金は公的年金保険の機能の一つです。公的年金は老後の生活を支える老齢年金だけでなく、配偶者や親が亡くなった場合や、障害で働けなくなってしまった場合などにも給付を受けられる場合があります。

[図表1]のように、強制加入となっている公的年金は1階部分の基礎年金と、2階部分の厚生年金があり、1階部分は自営業者や学生、フリーターなど、2階部分は会社員や公務員などが主に加入しています。

遺族基礎年金は、18歳になる年齢の子ども(高校3年生の歳)がいる人に給付され、子が18歳に達した後は原則として給付はありません。

亡くなった人が厚生年金に加入していた場合には、それまでの加入実績に応じて老齢厚生年金の受給額の3/4を受け取ることができ、引退後も25年の納付期間を満たせば遺族年金を受け取ることができます。18歳になる前の年齢の子がいない人の場合には、「中高齢寡婦加算」として基礎年金の3/4に相当する金額を受け取ることができます。

また、自営業者など第一号被保険者については、「寡婦年金」という年金を受け取れるケースもあります。寡婦年金とは、国民年金の加入期間が10年以上で、婚姻期間10年以上の夫が亡くなった場合、妻が60歳~65歳までの間に夫が受け取ることができたはずの基礎年金の3/4を受け取ることができる仕組みです。

商工会の仲間は、夫が亡くなったときにまだ40代で、子どもが中学生でした。一方、紀美さんの子どもはとっくに18歳以上になっているため、遺族基礎年金の対象ではありません。では寡婦年金はというと、残念ながら紀美さんはその寡婦年金も受け取ることができないとのことだったのです。

なぜ寡婦年金を受け取ることができなかったのか?

紀美さんが寡婦年金を受け取ることができなかった理由は、夫の雅仁さんが65歳から受け取ることができる老齢基礎年金を60歳に繰り上げして受け取っていたことにあります。実は、寡婦年金を受け取ることができない条件として、「亡くなった本人が既に年金を受給していること」があるのです。

雅仁さんは「おれは“早死に”家系だから、早く年金が欲しい」と言って、60歳になった時にすぐに年金を受給開始しました。

公的年金は本来65歳から受け取ることができますが、65歳になる前に繰り上げて受け取ったり、反対に65歳より後に繰り下げて受け取ることもできます。繰り上げして受給した場合、1カ月繰り上げするごとに0.4%受給額が下がり、60歳から受け取ると24%減額して受け取ることになります。

老後の資金にゆとりがある方は繰り上げして受け取ることも一つの選択肢ではありますが、遺された妻が寡婦年金を受け取れないという今回のようなデメリットもあります。ちなみに、仮に紀美さん自身が年金を繰り上げて受給していた場合にも、寡婦年金の対象にはなりません。

なお、国民年金の第一号被保険者として36カ月以上保険料を納めた人が、老齢基礎年金等を受給していなかった場合は「死亡一時金」として納付月数に応じて12万円~32万円を受け取ることができます。しかし、こちらも寡婦年金と同様に、老齢基礎年金等を受け取ることなく亡くなった場合にのみ給付されるものなので、紀美さんは対象外でした。

このように、雅仁さんがあまり深く考えずに年金の繰り上げ受給を選択した結果、遺された紀美さんは本来であればもらえるはずだったお金を受け取ることができなくなってしまったのでした。

「遺族年金って誰でももらえるわけじゃないんだね。しかも年金の繰り上げをしたら寡婦年金ももらえないなんて。当時は夫の年金だし本人に任せてしまったけど、繰り上げの判断は慎重にしてもらうべきだった」…そう友人に愚痴をこぼした紀美さん。

しかし、雅仁さんが生前に商工会のお付き合いで契約していた生命保険が3,000万円ほどあり、たまたま65歳までの契約だったのが幸いでした。店を畳むのにも多少の費用がかかりましたが、紀美さんは残りのお金を取り崩しながら、気持ちを切り替えて年金生活を送ることにしたのでした。

安易な判断で後悔しないよう情報収集を

今回は、安易に年金を繰り上げて受け取る選択をしたがために寡婦年金を受け取れなかった事例をご紹介しました。

厚生労働省の令和3年度「厚生年金保険・国民年金事業年報」によると、繰り上げ受給を選択した人は、国民年金(基礎年金のみの人)では27.0%、厚生年金では0.6%となっており、基礎年金のみ早期に受け取っているという人も多くいることがわかります。

しかし、今回のように早期に年金を受け取ることで、万が一の場合の保障が受け取れないこともあり、注意が必要です。

今回は寡婦年金の事例でしたが、60歳~65歳までの間に所定の障害状態になってしまった場合にも、既に基礎年金を受け取っている場合には障害年金を受け取ることが出来ない場合もあります。

年金制度はとても複雑ですので、安易に今回のような判断をする前に、どのような注意点があるのかなど事前に情報収集をし、ベストな方法を判断したいところです。

また、個人事業主の方でも法人を設立して厚生年金に加入できる方法を使えば、遺族厚生年金を受け取ることができるようになります。社会保険料を軽減しながら社会保障を手厚くする方法などもありますので、個人事業主やフリーランスの方は検討されてみても良いでしょう。

まずは自分に与えられた選択肢を知り、その中でどれが自分や家族にとって良い選択になるのか、事前に専門家などから情報を集め、活用していきましょう。  

小川 洋平 FP相談ねっと

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