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楽勝だったな…父の財産7,000万円を「タンス預金」→隠蔽成功!2回目の税務調査で〈多額の追徴課税〉に。調査官の闘志に火をつけた“息子の対応”【税理士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月30日 10時15分

楽勝だったな…父の財産7,000万円を「タンス預金」→隠蔽成功!2回目の税務調査で〈多額の追徴課税〉に。調査官の闘志に火をつけた“息子の対応”【税理士が解説】

画像:PIXTA

父の口座からコツコツお金を引き出し、自分の貸金庫に隠すことで残高を減らし、相続税を回避しようと考えたAさん。しかし、父の死後、税務調査により多額の追徴課税を受ける羽目に……“足がつかないお金”であるタンス預金を、税務署はなぜ見破ることができるのでしょうか。相続専門の税理士であり、庶民的な家庭から100億円を超える資産家まで、多くの相続事例を担当してきた大田貴広氏の著書『相続のお金の残し方「裏」教科書 専門税理士が限界ギリギリまで教える“99%節税できて100%モメない”方法』(KADOKAWA)より、具体的な事例が書かれた箇所を一部抜粋してお届けします。

なぜ、タンス預金は税務署にバレるのか

みなさんは「銀行からお金を引き出してどこかに隠せば、税務署には見つからないのではないか」と考えたことはありませんか。この考えは甘いです。タンス預金を隠そうとしても、後々高い確率で税務署に暴かれます。彼らは歴戦の猛者です。誰もが一度は考えるような脱税の手口は、いとも簡単に見抜かれてしまいます。

もし脱税が見つかれば、重加算税という重いペナルティがかかる上に、最悪逮捕される可能性もあります。ここでは、脱税をたくらむ主人公Aさんを題材に、税務署がどのようにタンス預金を調査していくかを解説します。

余命3年の父…妻は先立ち、身寄りは一人息子だけ

物語は、ある日、Aさんの父が体調を崩してしまうところから始まります。病院で診てもらった結果、父は余命3年と宣告され、それ以降は入院生活を送ることになりました。父は妻に先立たれており、身寄りは息子のAさんだけでした。そこで父はAさんにある頼みごとをします。

「息子よ。俺は今までたくさん働いてたくさん税金を払ってきた。そして1億円も財産を築いた。せっかくここまで財産を築いてきたのに、最後相続税で何千万円も取られるのはかなわん。どうにかならんか」

仮にこのお父さんが亡くなると、相続税はどれくらいかかるのでしょうか。財産額が1億円、相続人が息子のAさん1人の場合、相続税は1,220万円かかります。相続税の基礎控除は、3,000万円+600万円×法定相続人の数で、このバーを越えてしまうと相続税がかかります。このお父さんの場合、基礎控除が3,600万円(3,000万円+600万円×1人)ですので、財産額がこの額を下回れば相続税はかかりません。

息子のAさんは、税理士などには頼らずに相続税がかからない方法を考えました。そこである一つの結論を出します。

「そうだ。お父さんの口座からコツコツお金をおろして、自分の貸金庫に隠せば、口座の残高が相続税の基礎控除の3,600万円以下になるから、相続税はかからないな」

このことを話すと父は「そうか。相続税のことは任せた。私の通帳と印鑑を預けるから好きなようにしてくれ」ということで、Aさんに通帳などを預けました。

「相続税申告等についてのご案内」が届いたら、マークされている証

そこからAさんは、父の入院生活中に毎月父の口座から100万円以上をコツコツ引き出し、3年後に口座の残高を3,000万円まで減らしました。Aさんは途中でいくら引き出しているかを把握するために、財産管理ノートを作成し、金庫内に保管されている財産を詳細に記載していました。

Aさんは「父さん! ついに引き出しが終わったからもう相続税はかからないよ!」と伝えると父は「そうか。これで安心だ」と言い残してその数ヵ月後に息を引き取ります。

遺産が相続税の基礎控除である3,600万円を超えた場合、相続税申告が必要となります。この場合、財産は口座に残っている3,000万円だけなので「相続税申告は必要ない」というわけにはいきません。銀行にある3,000万円とタンス預金7,000万円の合計1億円をお父さんの財産と考えますので、相続税申告が必要です。

相続税申告は、亡くなってから10ヵ月以内に行う必要があります。ところがAさんは「銀行口座には3,000万円しか残っていないから、税務署には相続税申告をしなくても何も言われないだろう」と考え、相続税申告の準備は一切しませんでした。

税務署の調査は、このタイミングから、水面下で行われています。まず亡くなって6ヵ月後頃に、「相続税申告等についてのご案内(相続税のおたずね)」という書類を送ります。これには、相続税がかかる家庭に「あなたは相続税申告が必要なので、期限までに申告してください」ということを伝えるという目的があります。よってこの書類が届いた家庭は税務署からマークされているのです。

またこの通知には、「申告要否検討表」という名前のアンケートが入っています。これには亡くなった方の遺産やその他の情報を記載し、返信する必要があります。

ですがこれを見たAさんは、「口座の残高上、3,600万円を下回っているし、関係ないからこの書類は無視しよう」ということで何もせずにいました。

なぜ税務署はAさんの脱税に気づいたのか…

そこから約2年が経過し、「へっへっへ。やっぱり相続税はかからなかったか。意外と税務署はちょろいなぁ」とAさんが安心しきっていると、ある日、一本の電話が鳴ります。「税務署のものですが、お父さんの税務調査を行わせてください」ということで、税務署はAさんが脱税していることに気づき、税務調査が入ることになりました。

相続税の税務調査は、財産が何億円もある資産家だけに入ると思われているかもしれませんが、このような明らかな脱税があった場合、その規模を問わず行われます。1度税務調査が入ると、そのうちの約87%の家庭が何らかの追徴課税を受けることになります。

では、なぜ税務署はAさんの脱税に気づいたのでしょうか。それはKSKシステムです。KSKシステムには、今まで年収をどれくらいもらっていたか、不動産の賃貸収入があるか、過去に不動産を売却して高額なお金が入ったか、多額の保険金を受け取っていたか、金(きん)の売却をしてお金が入ったかなどの情報が入っています。

税務署は、このような財産とお金にまつわる情報を、支払調書を通じて把握します。相続税がかかるような資産家は、過去にこれらの収入の痕跡を残しているので、税務署はKSKシステムの情報からどれくらいお金を貯めているかを推定します。よって財産の推定額と納税者の申告とに大きな差がある場合は、「この家庭は何か財産を隠しているに違いない」と気づくのです。

違和感に気づくと、税務署は次に金融機関に調査をかけます。税務署は、その職権で最長10年分の預金取引を全て確認できます。故人だけではなく、その家族の通帳も全て確認します。超富裕層で何年も前からマークされている場合や、調査で現物確認される場合は、10年以上の期間を見ることもあります。特に亡くなる直前3年間は重点的に見られます。

もし亡くなる直前に多くの引き出しがあるのに、家族の通帳に預金がない、また贈与税申告もされていないということであれば、どこかにタンス預金がある可能性もあるなという推測ができるため、税務調査の対象となるのです。

このままではバレてしまうと考えたAさんは、慌てて貸金庫の中にある7,000万円をリュックサックに入れて自宅の押し入れに隠しました。

調査官の闘志に火をつけた“Aさんの対応”

そしていよいよAさんの自宅で調査が行われます。調査官が「過去に何度もお父さんの通帳からお金が引き出されているようですが、内容をご存じですか」と尋ねるとAさんは「通帳は父が管理していたので、私は全く分かりません」と嘘の回答に終始しました。

また調査官はAさんに対し「お父さんの通帳を見せてください」と聞くとAさんは「嫌だ。見せる必要はない」と頑なに拒否し説得に応じませんでした。次に調査官は「貸金庫を見せてください」と尋ねると「貸金庫には何も入っていないから見せる必要はありません」と答えAさんはこれに応じませんでした。

調査の初日はこれで終了し、何も進展はありませんでした。Aさんは「調査は楽勝だったな♪」と安堵する裏で、調査官はAさんの態度や状況を見て脱税を確信し、闘志に火が付きます。

次に調査官は、金融機関への反面調査を開始します。反面調査とは、税務調査の対象者本人ではなく、関係先に対して行われる調査のことです。そこでAさんの勤務先付近の銀行ATMでお父さんの口座から100回以上の出金がなされている事実を把握します。さらに、ATM防犯カメラおよび貸金庫の開閉記録を確認によって、引き出しをしたのがAさんであり、出金を行った日にAさん名義の貸金庫が開閉されているほか、調査初日の1週間前に金庫を開けていた事実も把握するのです。

結果的に支払うことになった“金額”

そして後日、調査官は2回目の調査でAさんにこれらの事実を突きつけます。「防犯カメラの記録を見ると、お父さんの口座からお金を引き出したのはAさんであることが分かりました。さらに引き出したのと同日に貸金庫を開閉している事実が確認できました」と話すとAさんは「忘れてしまって、分かりません」と白を切りとおします。

調査官はさらに「調査初日の1週間前にも金庫を開けた記録があったのですが、何を持ち出しましたか? つい先日ですので忘れたとは言わせません」と問い詰めるとAさんは「印鑑と通帳を取りに来ました」と嘘の回答をします。

調査官はAさんの態度を見かねてついに「嘘をついていませんか。こちらには証拠が揃っています。嘘でないならお家にあるものを確認させてください」と強硬手段に出ます。Aさんはやむなく許可すると、多額の現金が詰められたリュックサックと財産管理ノートが発見されました。

これで言い逃れができなくなったAさんは、リュックサックの中の現金はお父さんが亡くなる前に口座から日々引き出したものであること、またバレないと思って相続財産が基礎控除額以下となるようにしてわざと申告をしなかったことを認めました。財産管理ノートに金庫内に保管されていた財産が詳細に記載されていたことも、事実を裏付ける証拠の一つとなりました。

結果的にAさんは、本来支払うべき1,220万円の相続税に加え、ペナルティである重加算税と延滞税を約500万円追加で支払うことになりました。

タンス預金は「リスクが高く、節税できる額も限られる」

このようにタンス預金をして脱税をしようと思っても、税務調査で暴かれてしまいます。特に脱税をしようとしている納税者に、税務署は厳しく対応します。証拠集めや質問攻めをすることで逃げ道をふさいでいくのです。

通帳から引き出しが多い場合には、その用途について徹底的に質問されます。キャッシュレスな現代において、現金引き出しの用途はかなり限られています。例をあげると以下のようなものがあります。

・食費

・旅行、趣味など(クレジットカードで払っていたら現金を引き出す理由なし)

・家賃やローン返済(高齢で持ち家の場合は出費がないことがほとんど)

・教育費(学校や塾への直接の振り込みであれば、言い訳にならない)

・水道光熱費(引き落としがほとんど)

・医療費(確定申告の医療費控除の明細で金額は税務署に把握される)

また、調査が来ないからと、生前に親の口座から引き出したタンス預金を相続人の通帳に入金すると、直ちに税務署は脱税を見抜きます。相続発生後から税務調査が行われるまでの期間の相続人の通帳を調査官は必ず確認します。

この点を指摘された場合も言い逃れは難しいです。なぜなら入金の機会は限られているからです。もし相続人がサラリーマンであれば、入金の機会はお給料とボーナスの二つのタイミングしかありません。急に100万円を超えるような多額の入金がある場合は、これは何のお金かと問い詰められることになります。

納税者が考えることは一緒で、脱税の手法は昔から変わっていません。よって調査官は、この手の調査に慣れており、このように非常に厳しいのです。ですから、脱税を考えるのではなく、合法的な相続税対策を行いましょう。

正攻法で進めることで、金銭的にも精神的にもお得に対策ができます。タンス預金の脱税はリスクの割に節税できる額が限られています。正しい相続税対策をしていきましょう。

大田 貴広

税理士

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