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自分より「2.5cm」身長が高い男性に勝つには「年間600万円」多く稼がなければならない…「マッチングアプリ」が生んだ“落とし穴”【ハーバード・Googleの行動科学研究者が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月11日 12時15分

自分より「2.5cm」身長が高い男性に勝つには「年間600万円」多く稼がなければならない…「マッチングアプリ」が生んだ“落とし穴”【ハーバード・Googleの行動科学研究者が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

ここ数年、利用者数が急増している「マッチングアプリ」。今や、アプリで出会ったというカップルや夫婦は珍しくありません。しかし、アプリが社会にもたらしたのは、「出会い」だけではないようで……。本記事では、ハーバード大学とグーグルで行動科学を研究したローガン・ウリー氏の著書『史上最も恋愛が難しい時代に 理想のパートナーと出会う方法』(河出書房新社)より一部を抜粋・再編集し、マッチングアプリが生んだ認知バイアスについて解説します。

あなたの「好み」は間違いだらけ

大手のソーシャルメディアを見てもわかるように、アプリが人間関係を活性化させる一方で、利用者のあいだに有害な認知バイアスを蔓延させることもあります。

多くの人がアプリを通して出会うため(アプリを使わない人でさえ、アプリ利用者とデートすることはよくあります)、気づかないうちにアプリ開発者が私たちの恋愛に驚くほどの影響を及ぼしています。アプリ開発者は、私たちが恋愛の決断をくだす環境をデザインしています。つまり、私たちの決断そのものにアプリ開発者が深く関わっていると言えるでしょう。

従来の経済学では、人の好みは一貫しており、変化の少ないものだと考えられています。しかし、行動科学者はそれが噓だと知っています。実際には、環境が影響するのです。

私たちは、物理的な場所であれ、デジタル環境であれ、意志決定を行う状況に影響されます。個人の選択は、選択肢がどのように提示されるかに大きく左右されます。好みは永久的なものだと思うかもしれませんが、実はかなり柔軟なものなのです。

グーグルのオフィスにあるM&M’s…七週間で摂取カロリー「310万キロカロリー減」の方法

例として、食の選択に環境がどのような影響を与えるのか見てみましょう。数年前、グーグルが従業員の「M&M’s問題」を解決するために実験を行いました。その実験では、従業員がもっと健康的な食べ物を選ぶよう後押しするために、行動科学者による内部チームが軽食提供の環境を変えました。色とりどりのチョコレートが人々を誘惑しないよう、M&M’sを巨大な透明ケースに入れて提供するのをやめたのです。

ラベルを貼り付けた不透明な容器に入れ替え、魅力的に見えないようにしました。そして乾燥イチジクやピスタチオなどの健康的な軽食を、透明のガラス容器に入れて近くに置きました。

テック企業のかしこい従業員たちは、以前から健康的な軽食をいつでも食べられることを知っていました。けれど、食べ物を選ぶ環境を変えただけで、七週間のM&M’sの摂取カロリーがニューヨークオフィスだけで310万キロカロリー減少したそうです。

この実験に関するワシントンポスト紙の記事によると、「これは、2000人いるオフィスの従業員が、一人につき、M&M’sの自動販売機用パッケージを九袋分減らしたことになる」とのことです。そのグーグルのオフィスでは従業員の好みは変わっていません。しかし、不透明な容器が重大な変化をもたらしました。環境が従業員の選択に大きな影響を与えたのです。

現代の恋愛では、意志決定を行う環境はマッチングアプリの中です。私たちはアプリが提示するマッチ候補や、それらが表示される順番に影響を受けます。だから私のクライアントの話によると、あるマッチングアプリでは好みでないと判断したまったく同じ人を、数週間後には別のアプリで「好き」とスワイプすることがあるそうです。このように、ささいな環境の違いが私たちの決断に大きな影響を与えているのです。

念のために言っておくと、私はアプリに反対しているわけではありません。アプリにより、他の方法では出会えなかったかもしれない何百ものカップルが幸せになっています。とくに、LGBTQ+のコミュニティや、人口の少ない地域の住民、50歳以上で出会いを求める人など、いわゆる「薄い市場」にいる独身者にとって、マッチングアプリは非常に有効です。

また、マッチングアプリはどれも同じではありません。私が好きなアプリは、アプリを離れて実際にデートすることに重点をおいているものです。

(実際、本書を書きあげたあと、私はマッチングアプリ、ヒンジのリレーションシップ・サイエンス・ディレクターに就任しました。ヒンジはユーザーがアプリを離れて実際にデートに出かけるよう推奨するだけでなく――ヒンジのキャッチコピー「削除されるべくデザインされたマッチングアプリ」からも一目瞭然――、私がこの本でまさに成し遂げたいと思うこと、つまり、世界中の何千万もの人々の恋愛の成功を支援するために、私を雇ったのです)

しかし残念ながら、ある種のマッチングアプリは、私たちを間違った方向へ誘導しかねない情報提示の仕方をしています。その間違いにはまらないようにしましょう。本記事では、アプリを有効活用する方法と、アプリの落とし穴を避ける方法を紹介します。

私たちが求めるデート相手は間違っている

メールを書いていると、ジョナサンがドアをノックしました。初回セッションの開始予定から一五分過ぎており、もう来ないだろうと私は思っていました。「申しわけない」とジョナサンは大きな手を私のほうに差し出しながら言いました。「なかなか仕事を抜けられなくて」

ジョナサンは背が高く、引き締まった体をもつ魅力的な男性でした。ほほ笑むときや、彼の肩書きである「CEO」の「C」の音を発音するときにえくぼが浮かびました。中西部の出身でサンフランシスコに来て五年ほどたちます。そのほとんどを独り身で過ごし、期待できそうな関係もいくつかはありましたが、結局どれもダメになりました。マッチングアプリと数年間格闘したのち、私のもとへ相談に訪れたのです。

最初の数回のセッションで、ジョナサンが自分にどれだけ高いハードルを課し、恋愛以外の部分でどれだけ成功を収めているかわかりました。大学では学生総代を務め、国際的な賞をいくつも受賞し、ローズ奨学金[訳注:オクスフォード大学の大学院生に与えられる、世界最古の奨学金]までもらっていました。志が高いけれど思いやりがあり、おもしろい。

ジョナサンは説明しました。「アプリを使って何百回もデートをしてきた。自分の求めるものはわかっているのに、その理想の男性に出会えない。希望のタイプは、身長190センチメートル以上で、引き締まった体の企業経営者。相談に乗ってくれるかな?」

「ええ、お手伝いしますよ」と私は答えました。「あなたが思っているようなやり方ではないけれど」

ジョナサンに背の高い適切なビジネスマンを紹介する必要はありませんでした。彼に必要なのは、恋愛のためのマインドセットを完全にリセットすることです。そのためには、まずはマッチングアプリが与える影響を理解しなければなりません。

問題:人間の脳は、測定可能で、簡単に比較できるものを重視する。アプリは表面的な特徴を提示するので、私たちはその特徴を必要以上に重視してしまう。

何十年にもわたる人間関係の研究により、長期的な関係の成功に大切な要素が明らかになっています。つまり、情緒の安定、優しさ、誠実さ、そして相手が自分をどのような気持ちにさせるか、です。

しかしマッチングアプリでは、それらの資質の一つも検索することができません。なぜでしょうか? 性格の特徴を正確に測ることはできないし、ましてや、それらの資質があなたに与える影響などわかりようがないからです。

その代わりにマッチングアプリに掲載される情報は、確実に測定できて列挙できるものばかりです。身長や年齢、出身大学、仕事、さらには、かっこいいけれど親しみやすく、セクシーでありながら子どもっぽさもうかがえる「モテ写真」を選ぶのがどれだけ上手か。これが問題なのです。経営コンサルタントがよく言うように、「あなたは測定基準そのもの」です。

これについてハーバード・ビジネス・レビュー誌のコラムで、行動経済学者のダン・アリエリーが次のように書いています。

「人間は自ら設定した測定基準にもとづいて自らの行動を調整する。何を測定しても、人はその測定基準において自分のスコアを最大化するよう駆り立てられる。つまり、人は測定するものを手に入れるのだ。以上」

たとえば、飛行機の搭乗マイル数に応じて特典を受けられる、というマイレージ会員制度を作り、マイル数が鍵となることを顧客に伝えると、顧客の行動が変わるとアリエリーは説明します。顧客はマイルを最大化するために、遠く離れた空港からの非合理なフライトを予約し始めるのです。

言い換えると、人は暗示にかかりやすいのです。測定基準を見せられると、それが大切だと思い込んでしまう。私たちは表面的な特徴を重視しがちですが、アプリがそれらの特徴を測定し、提示し、強調することで、もっと重要だと思わせるのです。

これに似た概念として、シカゴ大学の教授、クリス・シーが評価可能性(Evaluability)について書いています。シーは、ある特徴が比較しやすければしやすいほど、その特徴が重要に思えると言います。

たとえば、このようなシナリオを想像してみてください(思考実験ですので、あなたは男性に興味があると仮定してください)。私が道であなたに声をかけ、「二人の独身男性のどちらかと付き合えますよ。一人は身長175センチメートルで、もう一人は177センチメートル。ただし、身長の低いほうがお金持ち。どちらと付き合いたい?」と尋ねたとします。

大半の人が「どうして見ず知らずの他人がそんな変な質問をするのか?」と困惑して、ゆっくりその場から立ち去るでしょう。けれど、とどまる決断をした人には、私がさらなる質問を投げかけます。「背の低い男性が、背の高い男性と同じくらいモテるには、どれくらい年収が多ければいいと思う?」

その時点では、あなたは苦笑いしながら「具体的な数字を出すなんて無理だ」と答えるかもしれません。しかしダン・アリエリーの研究のおかげで、無理ではないことがわかっています。

マッチングアプリが生んだ「比較の罠」

事実、アリエリーは、身長と収入、マッチングアプリ上での成功のあいだに数量化できる相関があることを見つけました。その数値はけっして小さいものではありません。

人気のマッチングサイトのデータを用いてアリエリーが導き出した結論は、男性が1インチ[訳注:2.5センチメートル]背の高い男性と同じ魅力を身につけるには、背の高い男性よりも年に四万ドル(日本円で約639万3,420 円、2024年6/26時点)多く稼がなければならない、というものでした。そう、四万ドルです。

その理由を評価可能性が説明してくれます。現実の生活で、175センチメートルと177センチメートルの男性に出会っても、かれらの身長差に気づくことはほとんどないでしょう(また収入についても、向こうがいやらしくも教えてこないかぎり、知ることはないでしょう)。

けれども前述の通り、比較できる特徴は重要に思えるのです。アプリにより、身長の比較が簡単になります。女性は昔から背の高い男性に惹かれてきましたが、デジタル世界ではその好みがさらに強くなります。マッチングアプリのプロフィールには身長が明記されているため、背の低い男性は現実世界よりもはるかに不利な立場に立たされるのです。ジョナサンがパートナー候補の身長にこだわるのも無理ありません。

では、女性の収入は魅力にどれだけ影響するのでしょうか? 実は、関係がないことがわかっています。マッチングアプリ上で独身男性は、独身女性ほどは、高所得者に魅力を感じません。

その代わりに、男性が女性の魅力を評価するうえでもっとも気にする特徴は、ボディー・マス指数(BMI)でした。BMI18.5(低体重ぎみ)の女性がもっとも好まれ、収入や学歴は問われませんでした。

とはいえ、実際に男性が人生のパートナー候補に対して、スリムさを他の何よりも優先するということではありません。かれらも、数少ない「比較できる特徴」のわなにはまっているだけなのです(まったく!)。

これで私がなぜティンダーでスコットを左スワイプしたのか説明がつきます。私はマッチングアプリで強調される表面的な特徴をもとにパートナー候補を選んでおり、そこでつくりあげていた理想のパートナー像にスコットが当てはまらなかったのです。

当時、どのようなタイプが理想かと訊かれたなら、私は「173センチメートルの赤毛でビーガンのエンジニア」と答えたでしょうか? まさか。「身長175センチメートル以上」と安易に希望条件を設定し、ティンダーでスコットを見ることさえなかったかもしれません。

けれど、十分すぎるほど多くの人と付き合って、スコットが私をもっとも幸せにしてくれる人だと気づきました(彼が写真から想像したような体育会系ではまったくないこともわかりました)。

ここから言えることは、アプリは、測定可能で、比較可能な特徴を強調するため、私たちを惑わせる可能性があるということです。私たちは、人間関係学でもっとも重要だとされている資質は無視し、表面的な特徴が重要だと思い込まされているのです。

ローガン・ウリー 恋愛コーチ兼マッチングアプリ研究ディレクター

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