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穏やかな老後どころか現実は…現役医師が語る、過酷な「心身の老い」の実態

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月7日 8時0分

穏やかな老後どころか現実は…現役医師が語る、過酷な「心身の老い」の実態

仕事や人間関係で数々のストレスをくぐり抜け、やっと穏やかな老後に…というのが理想ですが、医師・小説家の久坂部羊氏は「むしろ逆」だと言います。本記事では、久坂部氏の著書『健康の分かれ道 死ねない時代に老いる』(KADOKAWA)から一部抜粋し、老年期における過酷な老いの実態について解説します。

老年期(65歳以後)には「三大喪失体験」がある

65歳の老年期に穏やかな老後が待っているかというと、まったく逆です。「年だけはとりたくない」「年には勝てない」などと言われるように、過酷な老いが迫ってくるからです。

老年期には三大喪失体験というものがあります。第一は身体的機能の喪失です。筋力が低下し、鈍くさくなり、注意散漫になり、視力低下、聴力低下、味覚低下、歯の脱落、誤嚥、消化機能の低下、尿失禁、便秘、歩行困難、書字困難、平衡感覚低下、そして性機能の低下などが起こります。

免疫機能の低下で感冒から肺炎に移行しやすく、感染症に罹りやすく、止血機能の低下と毛細血管の脆弱化で内出血しやすく、皮膚は弱まり、傷は治りにくくなり、女性の場合は骨盤底筋群の筋力低下で、腹圧性尿失禁(くしゃみや大笑いで尿がもれる)や子宮脱(膣から子宮がはみ出る)も起こります。

呼吸機能の低下で息切れ、慢性気管支炎、肺気腫などになりやすく、脳機能の低下でもの忘れ、気力低下、判断力低下、忍耐力低下、自制心も弱まり、すぐ感情的になったりします。移動能力の低下でひきこもり状態になったり、骨粗鬆症で転倒すると簡単に骨折したり、生活習慣病が悪化して、いわゆる“病気のデパート”状態になります。

老化は普遍的(だれにでも起こる)ですが、個人差があるので、多くの人は自分は大丈夫と思いがちです。その油断がいざ老化現象に直面したとき、どうしてこんなことにとか、こんなことになるとは思っていなかったなどの煩いと嘆きをもたらします。

二番目は社会的・経済的状況の喪失です。退職、引退などで仕事をやめると、社会的な地位及び家庭での立場を失います。この喪失感は、社会で活躍していた人ほど大きくなります。

若いころに出世や名誉を目指して頑張り、功なり名遂げて喜んでいると、老年期にそれを失うことで精神面での危機に直面します。企業の会長や大学の名誉教授などで、いつまでも肩書きに固執する人たちはそれを恐れているのです。たいしてえらくならなかった人のほうが、穏やかな老年期をすごせる可能性が高いともいえます。

長生きをすると、必然的に家族や親しい人との死別を経験することになります。子どもや孫の自立による離別、配偶者との死別もあり、自力で暮らせなくなって施設に入所すると、思いがけない生活環境の変化にも直面させられます。生きることへの意欲も低下し、万年床、着たきり雀、放置台所、いわゆるゴミ屋敷などの状態(「隠遁症候群」と呼ばれます)になることもあります。高齢になると、自由な時間は増えますが、気力体力の低下でそれがうまく使えないようになります。

「性格の悪化」もあるが、良い変化も

三番目は精神力の喪失です。精神機能の低下で、意欲や興味、関心や好奇心が減退し、不安や心配、悪い予測や不都合な推測などが増大します。判断力も低下し、考えがまとまらない思考渋滞、思い込みによる被害妄想、不如意に対する嘆き、老いてしまったことへの悲しみなど、心は悪いほうへとばかり傾きがちです。

過去に得た知識や経験に依存するため、保守的、内向的、消極的、悲観的になり、気分は明るくなりません。若いうちに仕事に打ち込み、働くことしか知らない人は、余暇を楽しむ方法に疎く、せっかくの自由な時間に無聊(ぶりょう)を託(かこ)つことになります。

性格も変化し、頑固で嫉妬深くなり、猜疑心が強まって、依存的になり、意地悪でわがまま、自己中心的かつ自己肯定的で、都合の悪い事実は否認し、何かというと自己憐憫をもよおします。これらは老年期の体力低下で、生きること自体が負担になるため、若いころには維持していた自制心や忍耐力が失われるために生じる性格の悪化です。

しかし、よい変化もあり得ます。「老性自覚」と呼ばれるもので、死が近いことを意識することで、執着を捨て、現実を受け入れて、精神的な安定を得ます。死が避けられないことに対する一種の防衛機構で、抵抗しないことで安らぎを得る戦術です(抵抗すると苦しみますので)。

老性自覚の反動として、逆に派手な服や化粧で自分を飾ったり、過度に明るく振る舞ったりするのは、「代償行為」と呼ばれ、高齢者の複雑な心境を表すものと捉えられています。さらに精神面での困難が増大すると、心気症、幻覚、妄想、せん妄、自殺などの危険が高まります。

心気症は不安や孤独感に襲われて、心身の些細な症状にこだわり、過度に心配して不穏になる状態です。幻覚は幻視や幻聴などですが、見まちがいや空耳も多く、自分でも不確かな反面、否定されると逆に強弁したりもします。妄想も同様で、高齢者は心の整理がつきにくく、勘ちがいから妄想につながることも少なくありません。

せん妄は、脳の血液循環が低下して興奮や大声、妄想などが起こる状態で、糖尿病や高血圧などの人によく見られます。特に夜に起こりやすく(夜間せん妄といわれます)、認知症と混同されることもありますが、せん妄は一時的で、脳の血液循環が回復すると消えます。

高齢者の自殺は、孤独感、絶望、病苦、経済苦、老いの悲しみなどが原因で、予告サインが示されることもありますが、ふだんから「死にたい」と繰り返す人も多いので、判断に迷います。

いずれにせよ、この段階で精神面での健康を回復するのは時間的にもむずかしいので、それまでに精神的健康を保っておくことが肝要です。

久坂部 羊 小説家・医師

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