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10年後〈地獄のFIRE〉となったワケ…「年金見込額月13万円」50歳・地味暮らしの元会社員が「4,000万円」貯めて早期退職も、悲惨な現在【FPが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月1日 11時45分

10年後〈地獄のFIRE〉となったワケ…「年金見込額月13万円」50歳・地味暮らしの元会社員が「4,000万円」貯めて早期退職も、悲惨な現在【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、働き方にとらわれない人生の選択肢のひとつとして注目されているFIRE。年を重ねる前の身体が元気なうちに自由な時間をたっぷりと手に入れられたら。そしてそれを叶えられるだけの資金があったら……。しかし、現実は早々上手くいかないようです。本記事では、実際に早期リタイアしたYさんの事例とともに、FIREの注意点について社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。

FIREという選択肢

FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとったもので、「経済的自立と早期リタイア」のことをいいます。FIREは、投資元本を用意し、その運用益で生活していくスタイルになります。

一般的に早期退職したあとは、これまで貯めた貯金や退職金等を生活資金として、取り崩しながら生活していきますが、FIREであれば、元本を減らすことなく生涯を終えることができます。

現在、60歳の元会社員Yさんは50歳でFIREしました。

首都圏近郊に住むYさんは大学卒業後、中小企業に就職。仕事に没頭し、必要生活費以外はあまり無駄使いすることなく、知り合いに勧められた保険積立と定期積立を行い、残りは給与が振り込まれた通帳の中に残したまま貯めていました。人手不足のなか毎日遅い時間までくたくたになるほど働き、有給休暇を使おうとすると上司に睨まれる職場だったため、お金を使う気力と体力、余裕と時間がなかったのです。

気づけば28年で3,000万円になっていました。毎年誕生日月に送られてくるねんきん定期便にはあまり興味がなく、「こんなに保険料を払ってきたんだな」ぐらいにしか感じていませんでした。

いつもと違うねんきん定期便

「今年のねんきん定期便はいままでと違うな。60歳まで働いても老後の年金は月13万円、こんなもんなんだ……」Yさんはため息をつきながらねんきん定期便を眺めていました。

50歳になるとねんきん定期便には将来受け取れる見込額が記載されるのです。Yさんのねんきん定期便に記載されていた年金見込額は次のとおりでした。  

※老齢基礎年金は2024年度額(456月)。老齢厚生年金は差額加算を考慮せず。Yさんの平均標準報酬月額は32万円、456月で計算。

Yさんは低所得層。しかし、お金がかかるような趣味もなく、家賃は破格値の月3万5,000円。いままで華美な生活もしてこなかったため、年収を踏まえるとまあまあな額を貯めてこられたと思っていました。老後は、これまでどおりの支出額をキープし、お風呂が大好きなYさんはいつかテレビで見た全国各地の温泉を巡る旅をしたいというのがささやかな夢でした。Yさんの理想の老後は、年金とこれまで貯めてきた貯蓄があれば無理なく叶えられるものだと考えていたのです。

しかし、年金の見込み額を知ったことで不安がよぎります。年金だけでは独身で頼る身内もいなくなったYさんには心許なさそうです。定年まではあと10年という老後を見据えるタイミング。そんな折、ネットで偶然早期リタイアし、資産運用しながら悠々自適に生活している人のFIREの記事をみつけます。

「そうか、FIREという選択肢ががあるのか……」

4,000万円を元手にFIRE

「普通預金に残してある貯金を運用すれば、俺の理想の老後も叶えられるのでは?」と想像に胸が高鳴ります。

「どうせこのまま働き続けたって年金はたったの月10万円そこそこ。せっかく安月給の過酷な労働から解放されたって、たかが13万円じゃささやかな夢すら叶えられない。そもそも60歳以降に時間がいくらできたっていつまでも身体が元気とは限らないじゃないか」毎年の健康診断で腎機能の低下を指摘され、ヘルニアを患うYさんは、地道な人生から自由気ままな人生にと考えるようになりました。

さらに、社内掲示板で早期リタイアの退職金には300万円プラスしてくれるという情報を目にします。「いつでも人手が足りないっていうのに俺たち中年はさっさと辞めろってのか」とふてくされつつも、「いましかない!」と早期退職を決心します。

Yさんの貯蓄額は3,000万円と退職金1,000万円。合計4,000万円を元手にFIREしました。

FIREの「4%ルール」

FIREは1998年、アメリカのトリニティ大学で発表された資産運用に関する研究から導かれています。

毎年、資産運用額の約4%を生活費として切り崩していけば、30年以上が経過しても資産がなくなる可能性は非常に低いといわれ、4%という数字はアメリカの平均的な株価成長率である7%から物価の上昇率である3%を差し引いて計算されています。

FIREもこの4%ルールの考え方により、米国株式を中心に資産運用を行えば、年間4%程度の利益を見込むことができるため、生活費がこの範囲に収まれば、元本は減らずに、翌年以降も同程度の利益が得られると仮定できるのです。

Yさんは、毎日自宅のPCの前に座り込み運用の記事等を検索し、資産運用をはじめます。現役時代から、必要以上に出かけることもなく過ごしてきましたが、退職後も資産運用のため、一日中PCの前に座っている日々が続いていました。

これまでYさんは月15万円ほどで生活していました。本来4%ルールでいえば、年額160万円、月額13万円以内で生活という計算になりますが、おひとりさまで65歳からの年金を受け取ることも踏まえ、4,000万円を運用しながら、取り崩したとしても生涯、資金が枯渇しないで生活が可能です。

資産運用に慣れてきたころから、温泉旅行にも行けるように。時間があるため、遠方の温泉地へも行くことができます。一人でじっくり名湯と呼ばれる湯に浸かりながら、理想の暮らしを手に入れられたと満ち足りた気持ちになりました。

10年後に後悔…その理由

FIRE直後の充実感はどこへやら。60歳になったYさんは、自らの選択を猛烈に後悔しています。

まず、早期退職後、温泉へ行く以外、自宅から出る機会がめっぽう減ったこと。働いていたころは会社帰りにいくつか常連となっている居酒屋に飲みに行くのが習慣となっていました。居酒屋にいくと、同じおひとりさまが何人かいて他愛もない話しをするのが、楽しみでもありました。

FIRE後にも何度か居酒屋へ行ってみたのですが、最初のうちはFIREしたという話をみんなもの珍しそうに聞いてくれました。しかし、基本ひとりぼっちなので毎日特段ネタとなるちょっとした日常の事件なども起きず、話題がないのです。話すネタが尽きたころ、以前はなにを話していたのか思い出しました。仕事上での愚痴です。そう気づいてからは、話が嚙み合わない居酒屋へ行くことをやめました。段々とコミュニケーション不足となり、いままでの居酒屋でのつながりもなくなり、世間から取り残されてしまいます。

さらに、外出が減ったことによる弊害は別の側面でも表れるように。運動不足です。家では基本PCの前にかじりつき、ヘルニアが悪化しているのか、動くと痛むので温泉旅行のときくらいしか張り切って歩きません。あるとき、温泉の民宿でひどい動悸があり、従業員に救急車を呼んでもらったところ、腎不全と診断されました。働いていたころは会社から毎年受けるようにいわれていた健康診断もFIREしてからは受けていなかったので、悪化してから治療開始という状態に。ショックだったのは、「温泉を控えるように」と医師からいわれたことです。

ここでYさんの資金計画を見直してみます。50歳のYさんが4,000万円を4%で運用しながら少し生活費を取り崩し、65歳からの年金が月約11万円でも、なんとか生活は成り立ちますが、破格値アパートは老朽化が進み転居し、住居費アップ、生活費は18万円にあがりました。それでも60歳の定年まで働いていたら、年金額は50歳退職より24万円ほど増えるため、月2万円プラスされます。さらに65歳まで働くと、年金は月15万円まで増え、少しずつ資産を取り崩しながら生活すれば老後は安定したものになったのです。

もしくはサイドFIRE(資産運用をメインに副業として仕事し収入を得ること)で、4%ルールで不足する生活費を賄い、社会とつながりを持つことで健康面、精神面を安定させることもできたかもしれません。

また、腎不全と診断されたことで、今後の医療費の負担が懸念されます。おひとりさまで介護をしてくれる人のいないYさんは、介護施設などへ入居する場合、その費用を賄えるでしょうか。

Yさんの場合、定年まで働きながら資産運用したほうがお金と健康の寿命は延びたかもしれません。終身で安泰だったのは、長く働くことだったのでしょうか……。

早期リタイアしても再度働きだす人もいます。早期リタイアするには、リタイア後のライフプラン、社会貢献(つながり)をよく考え進めるべきだったのです。  

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

代表

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