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事件や事故の報道でよく目にする「命に別条はない」と「意識はある」、「重傷」と「重体」…それぞれの違いとは?【元新聞記者が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月1日 15時0分

事件や事故の報道でよく目にする「命に別条はない」と「意識はある」、「重傷」と「重体」…それぞれの違いとは?【元新聞記者が解説】

ニュースの中で「命に別条はありません」、あるいは「意識はあります」と報じられることがあります。また、「重傷」と「重体」という表現も頻繁に目にするでしょう。これらは具体的にどのような状態を指しているのでしょうか。三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)より、著者の三枝玄太郎氏がよく似ているようで同じではない「それぞれの違い」について詳しく解説します。

「命に別条なし」は元気ということ?

よく、被害者の安否に関して「命に別条はない」とか「意識はある」と報じられることがあります。

命に別条はないというのは、傷があったとしても急所を外れていたり、かすり傷だったりして、その後もまず容体は変わらないだろうという場合によく使われます。

一方の「意識はある」は、現場に駆けつけた救急隊員や警察官の問いかけに対して答えることができている状態と考えられます。つまり、ごくまれですが、搬送されたあとで容体が急変する可能性が残っているということです。

何か定義があるわけではないので絶対にそうだと言い切れるわけではないのですが、私が事件原稿を書く際には、このような意識で使いわけをしていましたし、周囲の記者もおおむね同じだったように思います。

一方、「重傷」と「重体」には明確な違いがあります。

2002年7月、東京駅構内のコンビニ「サンディーヌエクスプレス東京センター店」で、痛ましい強盗殺人事件が発生しました。パンやおにぎりを万引した男が、追いかけてきた店長の男性(33)をペティナイフで刺して逃走したのです。

首都の玄関口である東京駅構内だったこともあって、事件は大きく報道されました。第一報は「刺された男性には意識があり、病院に運ばれたが重傷」というものでした。

大きなけがをしているが意識があれば重傷、意識不明の状態になっていたら重体と表記します。店長は腹部を刺されていましたが、深さは約7㎝程度で傷が深いというほどではなく、当初は受け答えもできていたことから、警察は重傷と発表していたのです。

ところが刺されてからも犯人を追ったために出血が多かったのでしょうか。その後亡くなってしまいました。わずか550円の万引のために尊い命が失われ、容疑者の男は無期懲役刑が確定しました。おそらく今も刑務所で服役しているでしょう。

私もこの事件の第一報を聞いた当初は「重傷ということなら、きっと助かるだろう」と思っていました。ところが、数時間後に亡くなったと聞いて、大変驚いたことを覚えています。

第一報は「意識あり」…助かると思われたが

いかりや長介さん率いるザ・ドリフターズのメンバーで、2022年に交通事故で亡くなった仲本工事(81=本名・仲本興喜=)さんも事故の第一報は「意識あり」でした。

「(10月)18日午前9時10分ごろ、横浜市西区浅間町5丁目の市道で、歩行中だったザ・ドリフターズのメンバー、仲本工事さんが、パート男性(73)運転のワゴン車にはねられた。仲本さんは救急搬送時、頭を打つなどして意識がもうろうとした状態で、病院で手術を受けたという」

これは『朝日新聞』の第一報ですが、記事には「命に別条はない」とは書いていません。意識も「もうろう」ですから、重傷より程度はひどいでしょうが、重体と記載するような、意識不明の状態ではなかったことがわかります。記事の見出しは「ドリフ仲本工事さん、車にはねられ重傷横浜の信号機のない交差点」でした。

私は、この記事を読んだとき「後遺症が残るかもしれないけれども、きっと助かるな」と思いました。決して軽いけがではありませんが、50代になってもなお、テレビ番組でバック宙を披露していた頑健な仲本さんですから、きっとまた元気な姿を見せてくれるだろう……。

ところが翌19日夜、仲本さんは急性硬膜下血腫で亡くなってしまいました。とくに頭部を打った場合は、意識があっても安心はできません。

警察庁は1946年以降、交通事故の被害に遭った人が24時間以内に死亡した場合に「死者」として集計していました。大ヒットした映画『踊る大捜査線』でも、北村総一朗さん演じる神田総一朗署長が、重篤な交通事故の被害者を「24時間生きていたことにしよう」と言い放つ場面があります。自分の警察署管内での交通事故死者を増やしたくないからです。

多くの国では交通事故発生から30日以内に死亡した人を死者にカウントしています。これでは国際比較ができないということから、1993年以降は24時間経過後30日以内に死亡した人も「30日死者」として、別個に統計を取っています。

2013年の統計によると、全国の交通事故死者(24時間以内)は4,373人、30日以内に亡くなった方は5,152人でした。ということは、24時間経過したときには生きていた方が、その後およそ1カ月以内に亡くなるケースが779人、実に約15%にも及ぶ計算になります。

その中には、24時間経過時には重体だった方だけではなく、重傷だった方も含まれていると思います。「命に別条がない」はずなのに、あとになって亡くなってしまったというケースは聞いたことがありませんが、重傷である場合は気を抜けない、ということです。

ちなみに重傷ではなく、まれに「重症」と報じられることがあります。食中毒などで搬送されたような場合が多いでしょうか。文字通り「傷」ではないので「重症」になります。火災に遭って煙を吸って運ばれた場合も、重症と発表されることがよくあります。やけどなどを負ってはいないが、一酸化炭素中毒を起こしているときに多いようです。

かつては「即死」と書かれた記事がよくあり、私も交通事故などの記事で何度も書きましたが、今は即死は極めてめずらしいそうです。なぜなら心肺停止状態でも病院に搬送し、医師が死亡を確認してからでないと、死亡と警察が認めないことが増えたからです。

三枝 玄太郎

※本記事は『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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