あぶなかった…65歳の共働き夫婦、給与所得のおかげで「年金は繰下げ受給」と余裕→大急ぎで年金事務所に駆け込んだワケ【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月12日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
人生100年時代といわれる現代、将来を見据えて「働いているあいだは年金はいらない」と考え、年金の繰下げ受給を選択する人も少なくありません。しかし、ここで正確な情報を押さえておかないと、本来もらえるはずの年金がもらえなくなることも。ある夫婦の事例をもとに、年金制度の注意点をみていきましょう。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の井内義典CFPが解説します。
働けるうちは年金はいらない…バリバリ働く65歳共働き夫婦
修二さん・律子さん夫婦(仮名)は、ともに65歳です。夫婦共働きで、60歳以降給与は大幅に下がってしまったものの、同じ会社で引き続き働いています。なお、いまの会社では、70歳まで勤務することが可能です。
2人とも元気で「働ける限り働きたい」と考えており、年金については「年金はまだ必要ない。『繰下げ受給』で年金を増やして受け取りたい」と思っています。
また、知り合いから「早くに年金の手続きをすると年金が減って損になる」と聞いていたことから、65歳を過ぎたいまも手続きをしていませんでした。
しかし、「繰下げ受給する予定だし、1度年金について詳しい話を聞いておくか」と考えた修二さんは、夫婦でCFPのもとを訪ねました。
すると、CFPは「すぐに年金事務所に行って、年金の手続きをしてください」といいます。
修二さんは、「まだ年金はいらないのに、なんでいま手続きをしないといけないのか」と思いましたが、これには理由があるようです。
生年月日によっては「特別支給の老齢厚生年金」が受給可能
実は、老齢年金には65歳以降受給できる「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」のほかに、「特別支給の老齢厚生年金(以下、「特老厚」)」があります。これは、生年月日によって支給の有無や支給開始年齢が異なりますが、修二さんと律子さんはともに支給対象となっています。
ただし、同い年であっても男性と女性で支給開始年齢が異なり、修二さんは64歳で支給、律子さんは61歳で支給されることになっています。
65歳になっても年金の手続きを行っていなかった修二さんと律子さんは、当然2人とも特老厚の請求もしていませんでした。
注意!特老厚に「繰下げ制度」はない
先述のように、修二さんも律子さんも「年金は遅く手続きをしたほうが増える」と、リタイア後に「年金の繰下げ受給制度」を利用する予定でした。
この年金の繰下げ受給とは、1ヵ月受給開始を遅らせるごとに年金が0.7%増額される制度です。仮に受給開始を70歳にすれば42%増額、75歳にすれば84%増額されることになります。
ただし、この繰下げ受給制度で増額されるのは「老齢基礎年金」や「老齢厚生年金」だけです。特老厚は65歳までの有期年金で、老齢基礎年金、老齢厚生年金とは別物ですから、繰下げ受給制度はありません。
そのため、65歳より前に特老厚の請求をしても、老齢基礎年金や老齢厚生年金には影響はありません。
特老厚には「時効」がある…早めの請求を
なお、この「特老厚」にはほかの年金と同じく、5年の時効があるため注意が必要です。受給権が発生してから5年以内に手続きをすれば遡って受給できますが、5年を過ぎると過ぎた分の年金は受け取れない場合があります。
幸いなことに、修二さん夫妻は時効が過ぎていなかったため、修二さんは64歳から65歳までの1年分の特老厚が、律子さんは61歳から65歳までの4年分の特老厚を受け取ることができます。
律子さんは時効となる66歳にかなり近づいていたタイミングでの請求となり、2人は急いで年金事務所に向かいました。
特老厚の受給額はそれぞれ、修二さんが月13万円、律子さんが月5万円でした。そのため、修二さんはこれを1年分の156万円、律子さんは4年分の240万円がそれぞれ一括で支給されることになります。
65歳以降の老齢基礎年金・老齢厚生年金については、2人の計画どおり繰下げ受給とする予定です。
断片的でなく「正確な情報」の把握を
こうして、無事400万円近くの「特老厚」を一括で受け取ることができた修二さんと律子さん。まさかの臨時収入に「突然こんな……本当にいいんでしょうか」と恐縮。使い道については、「いまは使う必要もなさそうだし、貯蓄しておこう」と、退職したあとの生活資金に回すことにしたそうです。
「年金を多く受け取ろうとあえて手続きをせずにいたのに、危うく受け取れるものが受け取れなくなるところでした」
「『年金は早く手続きするとよくない』『働いたら年金が受け取れない』など、知り合いから聞いた断片的な情報で判断していたけど、よくないですね。このタイミングで確認しておいてよかった」と苦笑いです。
今回みてきたように、特老厚と65歳以降の老齢基礎年金・老齢厚生年金は異なるものです。自分自身が受給できる年金やその手続きについてあらかじめ確認し、必要な手続きは早めに行っておきましょう。
井内 義典
株式会社よこはまライフプランニング代表取締役
特定社会保険労務士/CFPⓇ認定者
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