「肌の色による差別はなぜよくないのか」…明確な理由を説明できるようになる「フランスでの教え方」
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月12日 10時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
ルーツや国籍、言語が異なる子どもが多いフランスにおいて、人種差別の問題は学校の「公民道徳教育」で取り上げる大きなテーマです。一方で、日本での差別問題に対する意識はまだそれほど高くなく、授業においても不足している点がある…こう語るのは、日本在住のフランス人ジャーナリスト・西村カリン氏です。同氏の著書『フランス人記者、日本の学校に驚く』(大和書房)から一部抜粋して、フランスと日本の人種差別に対する捉え方や授業の違いについてご紹介します。
人種差別にピンとこない日本
フランスでは人種差別の問題も「公民道徳教育」で取り上げる大きなテーマだ。
2013年にアメリカでBLM(ブラック・ライブズ・マター)が話題になった。2012年のアフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけに始まった人種差別抗議運動のことだ。フランス・パリ郊外でも2023年6月、17歳の北アフリカ系の少年が警察官に射殺された事件をきっかけに、各地で警察に対する抗議運動が暴動へと発展した。
日本人には、こうした抗議運動が起こることの意味が今ひとつピンとこないのではないだろうか。ルーツや国籍や言語が異なる子どもが多いのが、フランスの学校の特徴の1つだ。一方、日本では人種差別を経験したことがない人は多い。有色人種にもいろいろあるが、ここでは黒人差別について触れていく。
わたしが昔、住んでいたブルゴーニュ地方の小学校では、黒人の子どもの割合は30人クラスで1人か2人だった。現在のパリ郊外の一部の小学校では黒人の子どもの割合が増え、地域によってはクラスの半分、あるいはそれ以上のところもある。
黒人と白人は肌の色だけでなく、口の形、耳の形、鼻の形など目立つ違いが多い。当時は、「これは鼻ですか? それともサングラスですか?」といったジョークを言う人もいた。テレビ番組でも”ユーモアリスト”と呼ばれる人たちはそのような言い方を好んで使った。
こうしたジョークで大人たちが笑っていたため、子どもたちも学校で同じことを言って笑った。差別的な発言だとは知らなかったのだ。成長するにつれて、それが黒人の人たちにとっていかにつらいか、なぜ言ってはダメなのかがわかってくる。
子どもの頃から日常的にこうした経験をすることは、日本人の子どもと大きく違う点だろう。今、日本に黒人の子どもがまったくいないことはないが、少ない。500人の学校に1人くらいではないだろうか。
差別とは何なのか。たとえば、違いを指摘するだけで差別なのか、そうでないのか。「黒人は肌が黒い」と言ったら差別なのか。それとも単純な事実を言っているだけと見なされるのか。その線引きは難しく、まして学校でそれを教えるのは本当に難しい。
フランスは植民地支配や奴隷制度の歴史があり、「白人のほうが頭がいい」「白人のほうがお金がある」「白人のほうが安定している」というイメージが今も残っている。右翼の政党はいまだ、白人と黒人では能力の違いがあると確信している。
でも、人種差別は憲法で禁止されているのだ。人種差別発言をすると、大人なら刑務所に行くこともある。
絵の具の「肌色」が意味すること
日本では肌の色や人種差別についてどんな授業をしているのか。
たとえば、こんな授業を見たことがある。世界にはいろいろな肌の色の人がいるため、日本では20年前に絵の具や色鉛筆の「肌色」が消えたことを取り上げていた。肌色を一色で表すのは差別であるため「肌色」をなくすことはよいことだと学ぶ。
子どもたちは自分のシートに「色に基づいた差別はよくない」「外国人は日本人と肌色が違うことを理解した」などと感想を書いている。確かに子どもたちは、色に基づいて差別するのはよくないことを理解したと思われる。ただ、この授業で一番問題だと感じたことがある。それは肌の色の違いがどこから来たかに触れていないこと。
フランスの学校ではまったく違うアプローチをする。まず肌の色の違いの科学的説明から始める。フランス人、外国人にかかわらず、すべての人の肌の色には違いがある。それはメラニンという物質の量によって変わる。紫外線と深くかかわるため、熱帯地域に住む人たちの肌は黒い傾向にあり、寒冷地に住む人たちの肌は白い傾向にある。もともとアフリカに住んでいた人たちは、年間の日照時間が長いことから、その環境に合わせて肌の色も黒くなった。
こうした説明をしたうえで、人間は肌の色の違いによって能力に違いがあるというのは科学的根拠がない話だと伝える。当然だが、DNAの優劣はなく、よって肌色に基づいて差別するのは完全な間違いで、許されないことだと伝える。
単純に「差別はよくない」ではなく、「なぜ差別は根拠がなく、よくないことなのか」を科学的エビデンスも含めて説明するのだ。こうした説明がないままに、子どもたちに「なぜ肌の色による差別はよくないんですか?」と聞いても、おそらく答えられないだろう。
「傷つくから」といった感情的な答えになるかもしれない。「差別はよくない」と学べば、差別しない子になるかもしれないが、「なぜよくないのか」はわからないままだ。となれば、ネットに蔓延する「陰謀論」を唱える人たちが寄って来て、「いやいや、黒人は〇〇なんだ」と言ったら、受け入れてしまう可能性もある。
肌の色の違いによって集団的な特徴があるわけではないのにもかかわらず、「黒人はあなたより能力が低いから平等ではない。あなたのほうが優遇される」とSNSでくり返し聞かされたら、信じてしまう。そのリスクをなくすためにも科学的な説明が必要だとわたしは考えている。
西村カリン ジャーナリスト
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