年収1,600万円だった天涯孤独の50代独身女性、時代に抗い出世コースを爆走も…年収120万円へと落ちたワケ。ポツリとこぼした“冗談”に「ごめん、なにも笑えない」【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月8日 11時45分
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(※画像はイメージです/PIXTA)
未婚のまま独身を貫く「おひとりさま女性」。安定した高収入や自立といった、華やかなイメージで語られがちですが、彼女たちのライフプランにはいくつか注意点があるようで……。本記事ではMさんの事例とともに、おひとりさま女性に潜む落とし穴について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
年収が高い「おひとりさま女性」
生涯独身を貫く「おひとりさま」が増加しています。おひとりさまとは、未婚、離別、死別などによって一人暮らしをする人を意味する言葉です。
2020年国勢調査によると50歳時未婚率は、男性28.3%、女性17.8%でした。これは1920年から始まった国勢調査の歴史上、もっと高い割合です。1920年の50歳時未婚率は男性2.2%、女性1.8%だったので、この100年で生涯独身の人が激増したといえます。
興味深いのは現代日本において男女ともに未婚率は、年収と相関がある点です。就業構造基本調査によると、男性は年収が高くなるほど未婚率が下がり、女性は年収が高くなるほど未婚率が上がることがわかります。つまり年収が高い男性は結婚し、年収が高い女性は結婚しない傾向がある、ということです。この理由は説明しなくとも多くの人が想像できると思います。かつての日本では女性の地位が低く、男性に扶養されて生活することが一般的でした。結婚は生活のためという考え方があったのです。
しかし女性が自立し高収入を得るようになると、少なくとも生活という目的のために結婚する必要はありません。一方で年収の低い女性は、現代でも生活のために結婚を選択するのかもしれません。そうなると当然、年収が平均以上ある男性を選ぶことになります。年収の低い男性は女性から選ばれず、結婚する機会を失っていると想像できます。
女性のおひとりさまは「自立」という言葉で語られがちです。高学歴、高収入、職業のなかでの地位も高く、趣味にも励む自立した女性というイメージを多くの人が抱いていると思います。
「おひとりさま女性」のライフプランに潜在するリスク
高収入のおひとりさま女性は、年齢が若い時期はライフプランになにも問題がありません。貯蓄と資産運用をし、生命保険などで生活防衛をしていれば、少なくとも金銭面のハードルを感じることはないはずです。しかし中年世代に差しかかるころからお金の問題に気づき始めるケースも。おひとりさま女性のお金の問題は、以下のふたつが挙げられます。
・住宅の問題 ・老後の問題住宅の問題とは、持ち家を買うかどうかの選択のことです。持ち家を買うとき、多くは住宅ローンを借ります。住宅ローンは一定の年齢しか借りられないため、平均的な年収の会社員は40代後半がタイムリミットでしょう。比較的若い年齢で購入の決断に迫られるのです。
おひとりさま女性が住宅ローンを抱えるということは、生涯未婚という人生設計を確定させやすいという側面は否めません。大きな債務を抱えると結婚に限らず、転職、転居などの人生の選択肢が狭まるのです。
また、おひとりさまは老後に大きな問題を抱えます。老後は自分自身の老齢年金しか収入がありません。そのため若いころの資産形成が重要になります。資産形成に失敗し老後資金を準備できなかったら、おひとりさまの老後は貧困に陥ってしまいます。多くは老後も健康の心配をしながら働き続けることに。
住宅が賃貸である場合は家賃の支払いが難しくなります。住宅ローンを完済してしまった持ち家があればベストなのですが、そのためには若いころに住宅購入をしておく必要があるのです。
おひとりさまのライフプランの注意点
おひとりさまのライフプランは次の点に注意するべきです。
・持ち家を早めに手に入れる ・資産形成に真剣に取り組む ・毎月の収入を不安定にさせない高収入のエリートでもこの課題は避けられません。しかし、これらの課題を忘れてしまっている人も少なくありません。おひとりさまは失敗できないチェックポイントがいくつもあるのです。老後の資産形成に失敗したある女性の事例を紹介しながら、高収入のおひとりさまに必要なマネープランニングを考えていきます。
出世コースを爆走…おひとりさまとして生きると決めたワケ
<事例>
Mさん 51歳女性
現在個人事業主
起業前は会社員退職時の年収1,300万円
現在の年収 120万円
自宅は分譲マンション(9,000万円で購入)
月の返済 約20万円
残債 5,500万円
Mさんは現在51歳。2年前まで都内の大手企業に勤務していました。バブル期の余韻がまだ残る1995年に新卒で就職。当時は就職氷河期と呼ばれた時代です。多くの大学生が就職活動に苦労するなか、学生時代から交友関係を通して人脈を広げていたMさんは、さほど苦労することなく大手金融機関に就職できました。
当時、女性社員は「OL」と呼ばれる一般職が多く、総合職としてキャリアを積み上げていこうと考える女性は非常に不利な戦いを強いられていました。一般職に頼むべき仕事を同僚から平気で依頼されることも多く、配置転換や昇進も蚊帳の外。女性は結婚するのが当たり前で、30歳程度を目安に退職するものと思われていたからです。
そんな時代にあって、Mさんは野心家でした。40代でこの会社で役員になろうと決めていたのです。生意気という印象を与えるほど常に強気な姿勢で仕事に臨み、会議では激しい口論になることもしばしば。そんなMさんを早くから評価してくれていたのは、当時の社長でした。
Mさんはあまり恵まれた生育環境ではありませんでした。両親の離婚と母親のうつ病のため小学生時代から養護施設で育ちました。自宅に帰り母親と過ごすのは土日だけ。しかし病状が重く不安定な母親は精神科への入院を繰り返していて、数ヵ月間自宅に戻れないこともめずらしくありませんでした。
奨学金を借りて大学に進学したばかりのころ、母親は自殺で亡くなりました。45歳でした。親族とは疎遠のためMさんはそこから天涯孤独なのです。そんな生い立ちのせいか、Mさんは大学生のときから「強い存在」に強烈な憧れを抱くようになります。肩書のある高収入の大人の男性を選んで付き合い、同世代の大学生やお金のない男性を毛嫌いしたのです。
容姿に恵まれたMさんの周りには、医師、弁護士、経営者などの肩書を持つ人ばかり集まり、数名がMさんの学費まで贈与してくれたほどです。Mさんにとって高収入で肩書のある男性は、お金だけではなく強い権力の象徴でした。男性達は大学生のMさんに得意げにお金儲けの知識をひけらかし、自分の人脈を紹介するなどし、Mさんは自分が富裕層の世界にいるような特権意識を覚えました。
就職活動も男性達の力を得て、難なく成功したというわけです。奨学金は使わずに済んだため、資産運用に回していました。その運用も証券会社の役員をする中年男性から教わったものです。
就職したMさんには、同期入社の男性社員が子供にしか見えません。上司に対してもあからさまに見下したような目で見ていました。営業部に配属されたMさんは入社早々から大きな契約を挙げるように。それも大学時代に付き合いのあった男性達のコネによるものでしたが、次々と成約する案件の多さ、契約金額の大きさに役員たちは驚き、一目置くようになりました。
しかし営業成績がいくら優秀でも、同期入社の男性が自分よりも早くに昇進するという現実を目の当たりにします。自分はいつまでも「気の強い女の子」「仕事を頑張っているけなげな女の子」扱いです。
Mさんは臆することなく社長になぜ自分は昇進できないのかと直談判しました。この会社で成功したいと思っていると訴えると、普段から目をかけてくれていた当時の社長はしっかり話を聞いてくれて、Mさんも男性社員と同じように昇進のルートに乗れるようになりました。
30代前半で地方支社の支社長として全国を回り、40歳で本社勤務に戻ってきました。それまで交際する男性もいましたが、全員、会社経営などをしている裕福な既婚者でした。結婚の話になるのは面倒だったのでMさんにとっても好都合だったのです。
42歳でマンションを購入。勤務先に近い約1億円の物件です。20年間運用していた奨学金と貯蓄の合計2,800万円を自己資金にしました。ローン元金は7,200万円です。35年返済で毎月の返済額は約20万円。年収が1,600万円となっていたMさんにとっても、決して楽な支払いではありませんが、自分はもっと年収が上がっていくという確信があったのです。
社長交代を機にライフプランに暗雲
しかし45歳になって、順調だった昇進街道に暗雲が立ち込めます。
新しく社長となった元専務が、Mさんを問題視するようになったのです。優等生タイプで苦労人の新社長は58歳。日ごろのMさんの言動がきつく、若い社員がメンタルを病み休職するケースが増えていることを問題にしました。Mさんは会議でも若いころと変わらず激しい口論を好んでいました。しかし新社長はそれを非常に嫌い、「同僚をリスペクトしていない」と厳しく指摘するように。
「大きな声を出し、相手の話を最後まで聞かずに自分の意見をごり押しすることがパワハラだという自覚はあるのか」とも。
「男性だから営業成績がよくて当たり前、というのはジェンダーハラスメントと呼ぶのだ」と、Mさんの男性社員に対する相変わらずの敵対心もハラスメントと捉えたようでした。
「なにと戦っているのかわからないが、大きな棍棒で他人を殴るのはやめなさい」そう言う新社長の言葉にカチンときましたが、Mさん自身も思い当たる部分もなくはありません。
新卒から23年が過ぎ、気が付けばMさんは「仕事ができる有能な女性管理職」ではなく、「パワハラ上司」「コンプライアンスをアップデートできない老害」でしかなくなっていたようです。
そして、決定的な問題が発生します。
決定的な人生の岐路
Mさんのハラスメントについてホットラインに相談した男性社員が、このままでは会社とMさん個人を訴え、裁判沙汰になりかねないという事件が起きたのです。Mさんが男性社員を同僚の目の前で大声を出して叱責し、「だからお前は女性にモテない」などと罵倒した様子が録音されていたため、会社は全面的に非を認めることに。
降格、配置転換となり地方支社に異動になったMさん。それでも年収は1,300万円を超えていたのですが、置かれた状況にプライドが許せなくなりました。「社長は女の私に嫉妬している」という強い怒りに囚われ続けたせいか、Mさんの体調は次第に悪化。母親がうつ病の末に亡くなったのと同じ45歳にして、自分も心療内科に通うことに複雑な気持ちになりました。
次第にMさんは会社を辞めることを考えるように。そして48歳となったときに退職。誰からも慰留されることはありませんでした。
同業で起業し、これまでの顧客を引き抜いて会社に仕返ししてやろうと考えたのですが……。起業は思いどおりにはいきません。引き抜こうとかつての取引先に連絡しましたが、冷たく断られることがほとんどです。若いころのように有力者の男性が自分を可愛がってくれて支援してくれるようなこともありません。プライドが邪魔をしてかつての同僚に相談することも無理です。
現在、Mさんは51歳。年収は120万円。当然ながら住宅ローンの返済を収入から行うことは不可能です。退職金と預貯金を取り崩して生活していますが、すでに預金残高は1,000万円を切っています。あと1年程度しか持たないことは明らか。不安にかられたMさんはFPに相談したのですが……。
「マッチングアプリで婚活でもしようか」
FPからの指摘は厳しいものでした。Mさんが考えているとおり、このままでは預貯金は1年程度しか持ちません。心療内科に通うほど集中力に難がある現状では、Mさんが本来持つポテンシャルを発揮できず、漫然と毎日を過ごすだけでしょう。
体調面からも自営業として頑張れる状態ではありません。就職し固定給を得るしかありませんが、年齢的に厳しいのが現状です。年収は最低でも700万円ないと生活を維持できません。老後資金もこれから増やしていかなければ、独身の老後は悲惨なものになります。FPが考える解決策としては次のようなものでした。
・マンションが値上がりしているため売却する ・都心の物件であるため、アンダーローンとなるかもしれない ・就職をし、年収が下がった分は兼業をして補っていく ・失敗が許されないので投資のリスクは背負えない ・75歳まで働くことそれを聞いてMさんはため息をつきます「マッチングアプリで婚活でもしようか……」。
申し訳ないですが、冗談にさえ聞こえません。おひとりさまの人生設計はリスクと隣り合わせであることを痛感します。
攻めるばかりではない…守りの姿勢も一層重要に
おひとりさまのライフプランには、ダブルインカム世帯よりもはるかに慎重な生き方が必要になります。
Mさんのように優秀な女性であっても、あまりにも我を主張しすぎ、安定した会社員の立場を捨ててしまうなどあってはならないことです。特に住宅ローンのように大きな債務を背負ってしまうと、会社から解雇されない限り、どのような状況でも会社にしがみつく覚悟が必要になるでしょう。
もちろん会社のなかで閑職に追い込まれることがないよう、コンプライアンスを守り、人間関係を大切しなければなりません。いつまでも自分が主役のままでなにかと戦い、勝つことばかり考えていてはいずれ自分の立場を失います。
資産運用についても、おひとりさまの場合、許容できるリスクは極めて限定的です。老後資金が半減するなどの事故が起きてしまうと、文字通り命取りになってしまいます。資産運用のポートフォリオは極めて安全性を重視したものにする必要があります。目先の欲に惑わされ、リスク性の高い金融商品を購入することは避けるべきです。
住宅を早い段階で手に入れるべきなのは先述したとおりですが、住宅ローンは健康でなければ借りられず、仕事をし続ける健康がなければ返済していけないものです。もし働けなくなったら返済ができず家計破綻するのは確実です。このリスクについては保険や貯蓄などを活用した対策を立案しておく必要があります。
おひとりさまと聞くと少々気楽なイメージもありますが、実際のところは石橋を叩いて渡るような慎重さと人生設計が求められます。我を主張しすぎるような生き方は、ファイナンシャルの面では危険でしかありません。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表
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