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2030年、日本の「認知症患者」は523万人へ。フランスは抗認知症薬が2018年から「保険適用外」に。令和の認知症との向き合い方【元参議院産業医が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月19日 8時0分

2030年、日本の「認知症患者」は523万人へ。フランスは抗認知症薬が2018年から「保険適用外」に。令和の認知症との向き合い方【元参議院産業医が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

厚生労働省は2030年までに認知症患者は523万人になると推計しています。本記事では、参議院事務局産業医としての経験を持つ株式会社フェアワーク代表取締役会⻑・吉田健一医師が、産業医の目線から認知症との向き合い方について解説します。

カリスマ経営者の退任理由は「治療可能な認知症」!?2030年に認知症患者523万人、介護離職だけでない認知症の課題

厚生労働省研究班が5月8日に示した調査で、2030年までに認知症患者は推計523万人に達し、高齢者の14%を占めるという結果が公表されました。認知症の予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の患者数も30年に593万人になるともこの調査で言われています。

認知症を巡って、数年前のある大手企業の事例をご紹介します。この企業で高齢のカリスマ役員が退任した際、週刊誌に「言動が荒れている」「稚拙さが目立つ判断」などと報道されていました。ところが、この週刊誌の記事には、この役員が「ある病であった」との記載もあり、病名として「慢性硬膜下血腫」とはっきり書かれていました。

慢性硬膜下血腫は「治療可能な認知症」ともいわれています。脳外科医や精神科医・神経内科医など、脳神経系を専門とする医師であれば「言動が荒れてきた」「稚拙さが目立つ判断」などの症状から、この病気の影響があることはすぐに推測がつきます。

慢性硬膜下血腫の代表的な治療は、頭蓋骨に小さな穴を開けて血の塊を少しずつ抜いていく、という処置をします。それにより脳の圧力が正常に戻り、認知能力も以前の状態に回復する、というわけです。

実際、この大手企業のカリスマ役員も治療を経て「認知能力が以前のように戻った」と同週刊誌に記載されています。

この事例のように、高齢の役員や従業員の認知能力に変化があった際に、産業医がお役に立てるかどうかは状況によります。ですが、医療の観点から解釈して本人に助言したり、周囲や家族に説明できる専門家とのリレーションがあったりした方が、経営のリスクヘッジになる、という点で望ましいでしょう。

職場の認知症対策が求められる時代へ

これまで産業医の役割として、「職場の労働災害への対応」や、かつて成人病と呼ばれてた「生活習慣病対策」が主に求められていました。

一方で、少子高齢化とそれに伴う労働人口の減少により、日本の高齢者は今後「75歳くらいまでの就労」が標準となる時代がおとずれることが見通されています。さらに、昨今は人生100年時代を迎え「長く健康に働くこと」や「幸福に社会参加すること」の価値が見出されています。

こうした背景から職場の認知症対策について真剣に議論される日が、そう遠くない将来にやってくるのではないか?と感じています。

認知症患者数が増えることを見据えて「親世代の介護をしながら働く“ビジネスケアラー”の支援を手厚くする」という流れが、大企業中心にすでに始まっています。役員や従業員本人の認知症対策については、議論はまだまだこれからという段階だと思います。

根本的に進行を止める薬は現状、存在しない

長く健康に働き、社会参加し続けるためには、まず「認知症にならないこと」「もし認知症と判明した場合には、経過を緩やかにすること」を目指していくことになるでしょう。

日本国内では現在、抗認知症薬として4種類の薬剤が認可されており、いずれも保険対応になっています。残念ながら現在使用されている薬は認知症の進行防止薬であり、認知症の進行を根本的に止めることまではできず、記憶障害や行動障害を劇的に改善させるほどの効果もは期待できません。

一方、脳内に残存する神経細胞を活性化させ、記憶や思考・判断などの働きをある程度保つ可能性がありますので、日常生活に活気が出たり、イライラや不安を少なくすることによって、生活の質を上げる効果は期待できます。

冒頭ご紹介したように、認知症患者が推計523万人に達するということで、これらの薬を使う人も増えてくることでしょう。保険が効く薬ということは、保険財政の圧迫にもつながってしまいます。

フランスでは抗認知症薬は保険適用外に

実は、フランスでは2018年から抗認知症薬には公的保険が適用されなくなっています。理由は、現時点で完治が目指せるものでもないため、社会的な費用と便益を鑑みたときに「薬を使いたい人は自費で利用してもらい、保険財源は使えない」という整理がされています。

我が国は現在、認知症の治療薬に公的保険が使えますが、早晩、保険財政の圧迫要因になることは目に見えています。「認知症の薬は保険適用外」という諸外国の流れを受けて、いずれ日本もそうなっていくかもしれません。

認知症にならずに元気に稼ぐには〜生活習慣病予防の取り組みが認知症予防にもつながる

お伝えしたとおり、現状認知症を根本的に治療する薬はありません。これからも元気でいきいき働き続けるためには、まず「認知症にならない」ことが大事です。

では、「認知症にならない」ためにはどのような取り組みが有効なのでしょうか。たとえば、糖尿病と脳血管障害は、中年期(45~64歳)か高齢期(65歳以上)かにかかわらず認知症のリスクを高めるとされています。

一方で、高血圧や肥満、脂質異常症に関しては、中年期では認知症の危険性を高めることがわかっていますが、高齢期においてはっきりとしたことはわかっていません。

とはいえ、生活習慣病対策を念頭においた暮らし方が、そのまま認知症の予防にもつながるといえるでしょう。

認知症予防に効果的な3つのポイント

認知症予防にお勧めするのは、第一に禁煙です。禁煙によりリスクが高まる脳血管障害は、発症や再発を繰り返すうちに認知症になりやすくなることがわかっています。脳血管障害を発症した10人に1人は1年以内に認知症に移行します。過去に脳血管障害を発症したことのある人が再発すると、早晩10人に3人が認知症に移行する、といわれています。やはり、タバコは百害あって一利なし、なのです。

次に、定期的な運動です。運動習慣がある人は、認知症リスクを低減できます。運動をすることで、脳の血流量が増加し、神経細胞が増えると考えられています。

では定期的な運動とはどの程度かというと、週3回で計2時間以上の運動で良いのです。忙しいビジネスパーソンの場合、週3回で計2時間以上はハードルが高いかもしれませんが、スキマ時間などをやりくりして、運動習慣を身に着けたいものです。

第三は食事です。認知症予防につながる食材というのは科学的に証明されていませんが、生活習慣病予防を念頭に置いた食生活を送ることが近道でしょう。野菜や果物、魚などの抗酸化あるいは抗炎症作用をもつ食品や栄養素が、認知症発症予防に有効と考えられています。高血圧の方は認知症になりやすくなりますので、減塩を心がけましょう。

禁煙・運動・バランスのとれた食事。これは認知症に限らず健康生活習慣として推奨されているものです。元気に働き続け、社会参加をし続けるためにも、自分の健康に意識を向ける力=ヘルスリテラシーを高める取り組みを、読者の皆様には心がけていただきたいものです。

(参考:国立研究開発法人は国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」)

吉田 健一

産業医/精神科医

株式会社フェアワーク

代表取締役会⻑

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