自衛隊独自の制度により「54歳」で定年退職…60歳・元航空自衛官が掴み取った「定年後」のキャリア【インタビュー】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月29日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
老後年金だけでは暮らせない時代となったいま、「定年後のキャリア」をどのように考えるべきか……金澤美冬氏の著書『おじさんの定年前の準備、定年後のスタート 今こそプロティアン・ライフキャリア実践!』(総合法令出版)より、現役世代の“生の声”をみていきましょう。
高校時代は50キロ自転車通学、通信教育で大学卒業…努力家の竹丸さん
航空自衛隊在職中、大学卒業・行政書士資格取得。退職後に切り開いた〝日本語教師〟の道―― 竹丸勇二さん(60歳/定年から6年)
<略歴>
1961年鹿児島県生まれ。高校卒業後、航空自衛隊に入隊。働きながら大学の通信教育を5年かけて卒業。航空自衛隊では、教育職、心理カウンセラー、編成部隊准曹士専任という役職に就いていた。
定年時、雇用延長は考えておらず、航空会社、損保会社、警備保障会社などの就職をすすめられたが全て断り、「早くなりたい」と考えていた日本語教師に。
退職後に大手日本語学校の専任講師になったが、前職での学生に対する教育法と大きなギャップがあり、新たな教育法を一から学び直す。
現在は、日本語教師の経験をさらに広げ、日本で就労する外国人の日本語教育、受入企業側の研修サービス、日本語教師に対する教育メソッドの研修を行う株式会社エルロンの執行役員。
また、国内外の日本語教師520名が集う日本語教師アイディア塾の塾長。今は組織を離れて「個」が自分の足で立つ時代、「仲間を大切にし、共に学び合い、強く、しなやかに生きていきたい」と語る。
<資格・取り組み>
航空自衛隊を定年退職する2年ほど前より、毎日約4時間の学習を行い行政書士の資格を取得。また、420時間の日本語教師養成講座を受け、告示されている学校で働くことができる資格を取得。
――竹丸さんは航空自衛隊ご出身で、外国人向け日本語教師を経て、現在は日本語研修サービスを行う会社の執行役員でいらっしゃいます。経緯を教えてください。
竹丸:はい。中学・高校では柔道をやっており、また高校が越境通学だったため毎日50キロを自転車で移動するなどしていました。
私自身、柔道を真剣に取り組んでいたわけではなかったのですが、うちの高校に陸上自衛隊の方や警察署の方も練習に来ていたんです。また柔道部が県下で1位になったりしていたことで、こういった方から「自衛隊員にならないか?」「警察官にならないか?」とたびたびお声がけをいただいていました。
しかし、当時の私はどちらにも興味が持てず、「何がしたいか」を考えた際、「空を飛んでみたいな」と思い、航空自衛隊に就職することを決めました(笑)。陸上自衛隊の方も警察署の方も驚かれていました。
自衛隊入隊後は、主に教育職に
入隊してからの夢は、一つは「パイロットになる」、もう一つは「自衛隊の法務官になる」というものです。
いずれも中央大学の通信教育から勉強を始めたのですが、職務との両立ということもありましたし、卒論で一度失敗しまして、4年で卒業することができず、5年かけて卒業しました。
――パイロットや法務官にはなれたのですか?
竹丸:それがなれなかったんです。下肢静脈瘤という病気が航空身体検査で発見され、一次試験は合格したものの、結局二次試験で落とされ採用されませんでした。それから15年ぐらいジェット機の整備を行っていました。
また当時、自衛隊は自殺率が高く鬱になる人も多かったため、メンタルヘルスをフォローする部署ができ、私はそこで隊員のカウンセリングを行うためのトレーニングを受けていたこともあります。
さらに、航空自衛隊が事故を起こすと社会からの信頼が揺らぎますので、事故防止のために隊員をよく見て、指導できるシステムを作ろうということになり、准曹士先任制度ができ、その第1期の准曹士先任になりました。
航空自衛隊の指揮官が隊員の服務に関して命令を出す前に私のところに来て「こういう命令を出そうと思うが、どうだろうか」という相談に対して助言をするという仕事でした。
階級によっては50代で…自衛隊独自の「定年制度」
――自衛隊は定年退職が早いと聞いたことがあります。
竹丸:階級によって異なりますが、私の場合は54歳です。自衛隊では定年になる10年前、「業務管理講習」という制度があり、隊員を一堂に集め2日間でいわゆるキャリアカウンセリングのようなことをしてくれます。
「あなたが今まで一番頑張ったと思える体験を話してください」「そのときにどんな能力が活かされたと思いますか」という棚卸しをするわけですが、その結果、「今こういう仕事が世の中にあります」とか「あなたの能力を活かせる仕事にこんなのがあります」といったことを見せてくれるというものです。
それを受けた隊員は「じゃあ、自分はこっちのほうに進もうかな」と動機付けをして、10年先のゴールに向かって自分ができる努力をしていくという流れです。
――良い制度ですね。民間企業では退職後のことまでフォローしてくれるケースは稀のように思います。
竹丸:そうですよね。しかし、自衛隊から退職後の仕事をいろいろと紹介してくださるものの、それに対し首を縦に振る人は少ないようです(苦笑)。「自衛隊の仕事は大変だし、もっと良い仕事を世話してくれ!」という人も多いようです。
毎日4時間の勉強+420時間の養成講座…竹丸さんが目指した「セカンドキャリア」
――この点、竹丸さんはどうお考えだったのですか? 定年退職される2年前に行政書士の資格を取られ、日本語教師育成講座を受講し、告示されている学校で働ける資格を取得されていますが。
竹丸:退職後、私は外国人の方向けの「日本語教師になりたい」と考えていました。
その理由は、まず妻が台湾出身で日本語に苦労したから。そして、妻自身、日本ではなく台湾で暮らしたかったようで、私に対して「台湾で日本語教師になれば良い」と言っていました。自衛官では半分以上を教育職に就いていたため、「人に何かを教える仕事は、私にとっても遠くないかもしれない」と思い、日本語教師を志していました。
また、行政書士の資格は「日本で働くことを目指す海外の方の在留資格の申請などで専門的なアドバイスができるのではないか」という動機で取りました。ただ、結構苦労して1度失敗し、2年目でやっと試験を通過しました。
――自衛隊での仕事もある中で、行政書士の資格を取るとなると相当な勉強量ではないかと思いますが、両立できましたか?
竹丸:行政書士は毎日4時間学習し、日本語教師のほうは420時間の養成講座を受講して取得しました。確かに大変ではありましたが、割と試験勉強慣れしているところと、特に行政書士のほうはやればやるほど合格が見えてくるのが嬉しく感じられ、それほど苦ではありませんでした。
自衛隊時代は“教える”、日本語教師は“教えない”
――日本語教師のほうは、外国語も喋れないといけないのではないですか?
竹丸:よく聞かれる質問ですが、そうではありません。外国人の方に向けた日本語教育には「直接法」「間接法」があります。直接法は日本語を日本語で教えていくものです。間接法は日本語を外国人の方の母国語で教えていくものです。
私が取り組んだのは直接法ですから、外国語が喋れなくても日本語を教えることができました。
――話が前後しますが、航空自衛隊退職後、すぐに日本語教師になられたのですか?
竹丸:定年退職したのが7月でしたが、その年の秋口には420時間の養成講座が終わり、すぐに学校を決めて面接をしていただき、採用試験を受けた後、日本語教師として再スタートしました。
ただ、航空自衛隊時代とのギャップはすごくありました。航空自衛隊では「これはこうだ」「こうしなさい」と「教育=命令」だったわけです。
しかし、私が入った学校は「教えない授業をする」という学校でした。確かに、学習者の前に立って話すことは慣れているし、冗談を言って笑わせることも得意だったのですが、3ヶ月くらいしたときに校長先生に呼ばれてこう言われました。
「竹丸先生、教えない授業をしてください」と。その学校の学習者は留学生が大半で、2年そこそこで日本語をマスターしなければいけません。その後は1人で生活し、疑問があったら自分自身が日本語で周りの日本人に失礼のないよう尋ねたりしないといけなくなる。自分の力で切り抜ける日本語力が必要なのです。
それで、普段から学習者が自ら考える「教えない授業」をしているというわけです。でも「『教えない授業』となると何を教えたら良いんですか?」と尋ねたくなりますよね。すると「それは教えられない」と言うわけです(笑)。これは本当に難しくて1年半くらい悩みました。
結果的に、学習者を受け身にせずに、学習者同士が考え抜き、自分たちで答えを見つけるという「協働学習」という学習スタイルに行き着きました。
教師が一方的に何かを教えるものではなく、学習者同士でグループを作り、提示された課題を皆で日本語で話し、協力しながら解決するというスタイルです。この学校では後に常勤になり、3年勤めさせていただきました。
準備は不安を消す…定年後の「あらゆる事態」を想定
――その後、その学校から株式会社エルロンという日本語研修サービスを提供する会社に転職されます。
竹丸:一昨年、企業にいる外国人向けの日本語研修サービスを行うため、石川陽子さんという女性がエルロンを立ち上げ、私も執行役員として加わり現在に至ります。
――定年退職をした後、しっかりと別の職業を得ているという意味では好例ですね。
竹丸:ただ、教育サービス職ではありますが、学習者の方々と接していると、むしろ自分のほうが教えてもらっている、磨かれていることに気づく毎日です。
学歴や職歴だけでなく、人柄や努力のされ方などを拝見していると本当に頭が下がる思いで、自分もさらに精進しなければと思います。
また、確かにエルロンまでたどり着いたことも良かったのですが、2年目に新型コロナウイルス感染拡大が起こり、1年目に築き上げたセミナーや研修事業が全て吹っ飛んだりもしました。
すごく残念でしたしショックでしたが、現在はまた違う取り組みを行うなど、まだまだ試行錯誤をしながらではありますが、一歩一歩前進している状況です。
金澤 美冬 おじさん未来研究所 理事長/プロティアン株式会社 代表 株式会社YEデジタル 社外取締役
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