韓国へ遊びに行っただけなのに…「税務調査」が韓流好きの60代女性のもとへやってきた、まさかの理由【税理士の実体験】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月9日 11時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
7月から税務署の新事務年度となって、今年度の税務調査が始まっています。円安が進む昨今、海外の通貨を保有している際には税務上の処理において、特に注意すべきことがあって……。本記事では、税務調査の実例とともに、税務調査官による外貨の為替差損益による税務上の注意点について鄭英哲税理士が解説します。
韓国への渡航から数年、税務調査がやってきた!
筆者はもともと消費者金融に勤めていました。現在は公認会計士・税理士・証券アナリスト・宅建士・ファイナンシャルプランナーとして活動しています。ここでは、筆者が税理士としてこれまでに法人・個人併せて、20回ほど担当した税務調査のなかでの実体験を紹介していきます。
この案件は筆者が税理士登録をしたばかりで、最初に担当した税務調査でした。ある日、友人から1本の連絡が。
「自分の義母に税務調査が入ったから、対応してもらえないかな」その友人の義母は60代のAさん。税務調査が入った経緯は以下のとおりです。
韓流ドラマ好きのAさんは数年前に、日本の銀行から韓国の銀行へ何度かにわけ、約1,500万円をウォンに替えて送金しました。そして、韓国に観光で渡航した際、現地の銀行で引き出して使っていたとのことです。その後、何度か渡航の際に引き出し、残りのお金を日本に送金。その際、円安により「為替利益」が発生していたのですが、その為替利益を申告していなかったというのが税務調査の理由でした。
税務調査の対象として最も多いのは、法人や個人事業主で、ほとんどの場合は売上隠し、または経費の否認に着目されることが多いです。今回のように、2国間のお金の往復で発生した「為替利益」だけに着目されたのはこれが最初で最後です。
このとき、税務署は海外送金についても目を光らせていることに筆者も驚きました。ちなみにですが、「為替利益」は所得の1つである「雑所得」に該当します。なおこの場合、給与や不動産賃貸の利益があれば、これらの所得と合算されて累進課税の対象となります。
さて、今回の税務調査の難しい点は、以下の2つです。
・何度かにわけて韓国に送金した:それぞれ為替レートが異なる
・現地でいくらか使っている:どのレートで替えたウォンを使ったか跡付けできない
結果的に、客観的な「為替利益」が計算できないという点でした。もちろんこちらとしては、
1.「有利」な為替レートでウォンにしたお金を現地で使い、「不利」な為替レートでウォンにしたお金を日本に送金したという流れに持っていきたい。
2.逆に税務署は「不利」な為替レートでウォンにしたお金を現地で使い、「有利」な為替レートでウォンにしたお金を日本に送金したという流れに持っていきたいかもしれない。
といった考えがありました。税務調査の前にシミュレーションした結果、1・2それぞれで計算した「為替利益」のうち、こちら側に少しでも有利な金額で決まればいいと思っていました。
税務調査の結果
さて、税務調査はAさんの自宅で行われました。
税務調査では初めの面談で、税務職員から雑談を装いながら多くの質問をされます。これは、申告内容と整合性を取るための質問です。Aさんへの質問は、
・ここ最近韓国に何回渡航したかパスポートを見せてくれ
・一度渡航したら現地でいくらくらい使うか
・現地から現金でいくらくらい日本に運んだか
といった内容でした。段々と警察の事情聴取みたいなってきたので、この辺で筆者が質問を止めました。とはいえ、大量の証憑類が必要な案件ではないので、調査自体は1日で終わりました。
その後、担当職員から電話が来て、次に自宅に訪問するときには税務署が計算した「為替利益」を提示したいと思う旨を伝えられました。
そして、当日。Aさんは別室に移動してもらい、担当職員からどの程度の「為替利益」になるか提示されました。もうひとつ付け加えられたのは、これで納得してもらえれば、この件についてはこれ以上突っつかないという点。
結果的には、こちらに有利な金額だったので、Aさんにも了承してもらい、50万円程度の納税で完結しました。お金を2国間で往復しただけで税務調査の対象になったという事例でした。皆さんも海外渡航時の外貨の為替利益にはご注意ください。
鄭 英哲
株式会社アートリエールコンサルティング
税理士/公認会計士/証券アナリスト/CFP/宅地建物取引士
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