「全員参加」「ボトムアップこそ大事」は本当? 企業の将来像を示す「ビジョン」を社員に作らせようとするとうまくいかないワケ【起業家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月20日 11時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
全社員が同じ方向を向き、会社を持続的に成長させていくために欠かせない「ビジョン」。そんなビジョンも、ただ掲げているだけでは意味がありません。ビジョン策定の方法には様々なものがありますが、その多くは“機能しない”ビジョンを生み出しているのが実情です。そこで本記事では、世界で25万社以上が活用する起業家のための経営システム「EOS(the Entrepreneurial Operating System)」の専門家である久能克也氏が、ビジョン策定の問題点と具体的な方法について解説します。
ビジョンを社員に作らせる企業はなぜうまくいかないのか?
「社員の意見をもとにビジョンをつくろう!」
「ボトムアップで“全員参加型”のビジョンをつくろう!」
「社員みんなでビジョンをつくるんだ!」
近年では、そうした手法で会社のビジョンを作ろうとする企業が増えているようです。日本でもビジョンの重要性が認識されるようになった昨今、今では多くの企業がビジョンを掲げているのですが、一方で、うまくいっているケースは少ないように感じます。
経営者が自らビジョンを掲げ、それをどうにか社内に周知させようとするのですが、浸透させることもそれを日々の行動に落とし込むこともできていない……。耳が痛い経営者や幹部も多いのではないでしょうか。
そこで今度は、ビジョンを社員に作らせようと考えます。冒頭の言葉にもありますが、「社員の意見」「ボトムアップ」「全員参加」などは聞こえがよく、社員の“ウケ”もいいかもしれません。
ただ、果たしてそれで本当に、会社にとって最適なビジョンが作れるのでしょうか?
社員のエンゲージメントを高めるという意味では、そうした方法もアリでしょう。一方で、誤解を恐れずにいうと、いつ辞めるかわからない社員にビジョンを作らせることは経営者にとって大きなリスクであるといわざるを得ません。
もし社員の大半が入れ替わってしまった場合、そのビジョンは本当の意味で会社を導く指針になるといえるのでしょうか。あるいは、そのビジョンを心から受け入れ、「長期・中期・短期」の行動へと落とし込み、会社を発展させていくことができるのでしょうか。
やはり難しいのが実情でしょう。そこに、全員参加型のビジョン形成における“落とし穴”があるのです。
それならやっぱり社長が一人で作ればいいのでしょうか。いいえ、そうではありません。それでは従来の独りよがりのビジョンになりやすく、いわゆるトップダウン型の方針を社員に押しつけることになります。それはよくある「掲げてはいるが機能していないビジョン」に他なりません。
問題は「なぜビジョンを作るのか?」という点についての理解が不十分であること。加えて、ビジョンの創造と社内への浸透、さらには日々の業務に落とし込むための流れ、つまり方法論が意識されていないことが問題なのです。
私自身、多くの企業でビジョン形成の過程を見てきましたし、自分が経営した会社でもビジョンを見よう見まねで作ってきました。そのなかで、あらかじめ上記の点に配慮しておかなければ、機能するビジョンを作るのは難しいと実感しています。
「経営チーム」でビジョンを作る
「じゃあ、どうすればいいんだ……」
そのような声が聞こえてきそうです。私自身も、自社のビジョンを策定する際は具体的な方法がわからず、困りました。そこでヒントを求めて書籍やセミナーで勉強し、片っ端から試してみました。そのなかで「真に機能するビジョン」の作り方は、かなりの程度確立されていることがわかってきました。
とくに私が推奨する方法では、シンプルな考え方と実用的なツールをセットで用意することで、ビジョン策定及び共有、さらには日々の業務への落とし込みまで、強力にサポートすることができます。
その特徴は、安易にトップダウン(社長主導)やボトムアップ(社員主導)を選択するのではなく、「経営チーム」でビジョンを描いていくことにあります。経営チームとは、経営者と各部門長で構成されるチームです。社長に加え、結果責任を持つ部門長らが3〜7人ほど集まってチームを組み、ビジョンを策定していきます。
なぜ経営チームでアプローチする必要があるのかというと、最終的な意思決定権者である経営者に加え、一定の権限と責任を持ち、かつ現場についても熟知している複数の幹部社員を交えてビジョンを策定することで、トップダウンとボトムアップの“いいとこ取り”ができるためです。
彼らの言葉は重く、抱えている情報量も申し分ありません。そのようなメンバーでビジョンを作ることで、その会社は現実的でありながら野心的なビジョンを構築できるようになります。つまりトップダウンで不足しがちな「現実的であること」と、ボトムアップで不足しがちな「野心的であること」の両方をカバーできるというわけです。
なかには広告会社主導でビジョンを作ろうとする会社もあるようですが、いくらホワイトボードに付箋を貼って意見を出し合ったとしても、それが全社員にとって自分事と認識できなければ意味がありません。
だからこそビジョン作りは、社内の経営チームが主導することが大切です。私たちはその点を重視し、数々の企業で“機能する”ビジョン作りを実現しています。
ビジョンを正確な言葉で定義する
ビジョンは機能してこそ意味があります。機能するとはつまり、掲げているビジョンが社内に浸透していることに加え、長期・中期・短期の視点から業務に影響を与え、望ましい成果を生み出し続けているということです。
ビジョンが機能する状態をつくるには、その前提として、ビジョンの捉え方を明確にしておく必要があります。ビジョンをどのように捉えるのかによって、それが機能しているかどうかの判断もまた変わってくるためです。
たとえばビジョンを「(事業を通じて)どのような世界を作るのか?」という意味合いで使っているケースもあると思います。それもまた一つの考え方です。
しかし私たちは、用語の問題に過ぎないかも知れませんが、そのような考えを「コア・フォーカス(目的・使命・パッション)」という言葉でくくり、それらはあくまでも“ビジョンの一部”として捉えています。つまりビジョンを構成する一要素であるという発想です。
そのうえでビジョンとは何か。その組織が「どこへ向かっていて」「どうやってそこに到達するのか」を明確に描くこと。そしてそのビジョンが機能するためには、全員が100%同じ“1枚の絵”を共有することが必要です。
重要なのは、経営者や経営チームメンバーが本当にそこまで行きたいと思っていることです。目的地まで引っ張っていくのは経営者の仕事なので、まず社長がそのビジョンをきちんと腹落ちしていること。そのうえで経営チームメンバーも同様に自分事として捉えていることが重要です。
そうでなければ、いわゆる「新年の目標」のように、気付いたころには忘れてしまいます。繰り返しになりますが、ビジョンは社長と幹部、さらには全社員が自分事として捉え、持続的に行動へと落とし込まれなければ意味がないのです。
そこで重要なのが「ウォンツ」ベースの発想です。自分たちの内側から湧いてくるウォンツをもとに、経営チームが主導してビジョンを策定していくこと。一定の権限と責任があるメンバーとともに、社長を含めて策定すると機能するビジョンができあがります。
そしてその方法は、曖昧なものであってはいけません。方法論が明確であり、かつ確立されていてこそ再現性があります。加えてその方法論は、ビジョンの性質上、策定と共有を同時に実現できるものが望ましいといえます。
機能するビジョン策定に不可欠な「8つの質問」とは
私たちは、ビジョン策定と共有のためのツールとして「8つの質問」を用意しています。具体的には次のような内容です。
- コア・バリュー:我々は誰か?
- コア・フォーカス:我々の戦場はどこか?
- 10年目標:我々はどこへ向かっているのか?
- マーケティング戦略:どうやってそこへ行くのか?
- 3年イメージ:3年後の組織の姿は?
- 1年計画:1年後はどこまで進んでいるのか?
- 石:この90日間は何を最優先に達成するのか?
- 課題リスト:障害、課題は何か?
これらの質問に対する回答を「ビジョン・トラクションシート」に記入することで各項目が明確になり、かつ視覚化されることで共有も容易になります。
![](https://ggo.ismcdn.jp/mwimgs/9/2/800m/img_92401ea5eb69c7db2e16b1a040cca5df86355.jpg)
![](https://ggo.ismcdn.jp/mwimgs/d/e/800m/img_de5f716651b55a3850c8f655e323a98196674.jpg)
ただし、8つの質問の答えは経営チーム全員が合意しておく必要があります。トップダウンにありがちな独りよがりにならないように注意することが大切です。
経営チームの全員が合意し、組織全体がそれを共有することで「全社員が同じ方向に向かってオールを漕ぐ」状態をつくれます。つまり、速くかつ力強く進む“船”としての組織を生み出すことができるのです。ここにビジョンをつくる本当の意味があります。
見ていただくとわかるように、ビジョン・トラクションシートは「ビジョンページ」と「トラクションページ」に分けられています。つまり、1〜5番までで会社の方針を明確にし、そこからさらに具体的な行動へと落とし込んでいるのです。
本当に“機能する”ビジョンを手に入れた企業の事例
では、なぜこうした仕組みを用意する必要があるのでしょうか。その理由は「継続の難しさ」にあります。
事実、どんなビジネスでも大きなピンチ(困難)が訪れるときがあります。その際に、会社の方針を安易に変えてしまうのではなく、自分たちが本当にやるべきことに踏みとどまって前に進んでいくためには、確かなビジョンが欠かせません。
そこで「8つの質問」や「ビジョン・トラクションシート」によってどの会社でもきちんと機能するビジョンを策定・共有できる仕組みを提供しているのです。
それによってどのような変化が生み出されるのでしょうか。ビジョンに関連した成功事例を見てみましょう。
あるシステム開発会社の事例です。同社は、創業してからずっと右肩上がりで業績が伸びていたのですが、策定していたのは売上目標だけでした。しかし社員が20人、30人と増えてくると、社長は全体をまとめるのが難しいと感じられるようになったそうです。
そこでビジョンについて考えはじめたとき、私と出会いました。同社では、本稿で紹介した内容を踏まえて、ビジョン作りに取り組むことになります。その結果、次のような変化が見られました。
ビジョン策定を行ううえで押さえるべき「4つのポイント」
まず、ビジョン策定、つまり「8つの質問」に答える過程で、「作りたい世界」「こんな会社にしたい」「社員にはこんな風に働いてもらいたい」「こんなお客さんと仕事がしたい」など、普段から社内で話していたことと従来からあった売上目標が有機的にリンクするようになりました。
具体的な改善点としては、まず経営チームを結成することで、ただの優秀な社員から経営目線をもった本当の幹部へと変わりました。それまでにも幹部らしき人はいたのですが、経営チームとは命名していなかったのです。
意識が変わると、日々の行動も変わります。彼らと共に8つの質問に答えるなかで、社長一人では考えつかなかった大きく、しかもしっくりくるアイデアが浮かぶようになりました。たとえば、幹部は休みなく働くことが常態化していたのですが、「そのような状態が続くのが望ましいのか?」と考えるようになり、否、と答えが出せたのです。
やがて同社では幹部、つまり経営チームが率先して残業を減らすこと、また残業せざるを得ない根本的な原因を取り除くことに注力するようになりました。
そうした経緯を経て、顧客満足度も改善し、さらに新規顧客の獲得が加速したことに加え、社内だけでなく家族との関係も改善したといいます。このように正しいビジョンを作ることは、社内外に価値をもたらし、その影響は多方面に及びます。
以上を踏まえて、本稿のポイントをおさらいすると
- 全員参加でなく、「経営チーム」でビジョンを策定する
- ビジョンは作るのが目的ではなく、実現するのが目的である
- 実現できるビジョンは「8つの質問」に明確に答えることで策定できる
- 優れたビジョンは、経営だけでなく、経営者や従業員の生活や家族関係も向上させる
などが、ビジョン策定の要点であるとわかります。
これらのポイントを押さえて、ぜひあなたの会社でもよりよいビジョン作りを行ってみてください。本記事がその一助となれば幸いです。
久能 克也
株式会社オプティ 代表取締役
EOS JAPAN合同会社 代表
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