高級ホテルで勧誘された「香港ツアー」に参加した年収1,800万円の50代サラリーマン…2年後に税務署から「お尋ね」が届いたワケ【CFPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月5日 11時30分
(※写真はイメージです/PIXTA)
日本よりも利率のよい海外の金融商品を取り扱った投資を行い、ハイリターンを狙う。投資のひとつの手段として活用している人も多いかもしれません。しかし、投資によって利益を得たものの、あとからトラブルに巻き込まれてしまうというケースも発生しています。本記事ではAさんの事例とともに、オフショア投資などの海外の金融商品における注意点について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。
オフショア投資とは?
オフショア投資とは、一般的に投資に対して税金のかからない海外で運用される金融商品のことを指します。香港などに代表される「タックスヘイブン」と呼ばれる租税回避地域で投資を行なった場合、利益に対して税金がかからないとされておりますが、適切な手続きを怠ると、後々面倒なことになるため、注意が必要です。
オフショア投資は、日本の投資商品とどういった違いがあるのでしょうか? 海外オフショア保険に加入したAさんの事例を通じて見ていきましょう。
加入の経緯
Aさんがオフショア投資の存在を知ったのはいまから10数年以上前のこと。Aさんの年収は当時1,800万円程度でした。定年退職も近づき、将来の準備についていろいろと模索をしていたときに友人から勧められたセミナーがきっかけでした。Aさんが友人と一緒にセミナー会場に足を運ぶと、そこは都内の某高級ホテル。高級感漂う会場に50〜60人くらいの同年代と思われる参加者が席に座り、資料を眺めていました。
当時はまだ存在が珍しかったIFAによる「資産運用セミナー」。IFAとは独立系ファイナンシャルアドバイザーのことをいい、特定の金融機関に所属せずに金融商品を仲介することができます。
セミナー開始早々、講師は「海外の運用会社の金融商品も取り扱うことができます」「みなさんの知らない世界がまだまだあります」と話しはじめます。資産運用セミナーの内容は、いかに日本の保険で資産形成をすることが運用効率が悪いか、逆に海外の商品は日本に比べるといかに優れているかという内容のものでした。特に、香港などに代表される租税回避地での投資には利益にかかる税金がかからず、同じ金額を日本で預けているのなら、香港の保険会社に預けたほうが効果が高いと豪語します。
初めは半信半疑だったAさんも、日本の長引く低金利に辟易していたこともあり段々と興味を持ちはじめます。
1時間ほどのセミナーはあっという間に過ぎ、終了時にIFAはこう話します「セミナー終了後に『オフショアツアー』にご参加される方を募集します。現地を視察して、金融の最先端の雰囲気を肌で感じてみましょう」。
ツアーの内容は、1週間の香港の観光ツアーを兼ねて、海外の金融機関で口座開設を行ったうえでオフショア投資を始めることができるというものでした。
ツアー金額に一瞬ギョッとしたものの、ここは高級某ホテル。しかも50〜60人の参加者のうち半数以上は申込書に記入を始めています。セミナー参加者を見渡すと身なりのしっかりした人が多く、Aさんは「こんな人たちもやっているのなら、大丈夫だろう」と思い、申し込みを決めました。
香港オフショアツアー
Aさんは数ヵ月後にオフショアツアーに参加しました。当初の案内のとおり、香港の金融街をはじめ観光地をひととおり巡ったあと、香港のとある金融機関で手続きを行いました。ツアーはAさんが思っていたよりも新鮮で楽しく、現地で感じた香港の雰囲気や、異国の地で限られた人がこの投資に申し込めるといった特別感から気分は最高潮。思い切って2,000万円をオフショア投資に充てることに。
Aさんは外国語があまり堪能ではありませんでしたが、1グループに1人通訳が付き、外国語が喋れなくても問題ありませんでした。
申し込んだ商品は現地の積立型保険。しかも日本と比べ物にならないほど高金利です。10数年でほぼ倍となる条件のものでした。年利換算すると、およそ5%にもおよびます。
10年後に解約すると…
申し込みから10数年後、65歳で定年を迎えたAさんは加入した保険の解約を行います。
近年の円安の効果もあり、投資に充てた2,000万円が倍以上となって返ってきたことに驚きました。
「実際に手元に戻ってくるまでは半信半疑だったが、本当に戻ってきた。これは投資しておいて正解だったな」そう確信しました。
税務署から突然連絡がきて…
保険を解約してから2年後、Aさんのもとに税務署から連絡が入ることとなります。
恐る恐るAさんが話を聞くと、オフショア保険に関する申告漏れの指摘とのこと。
「オフショア投資は税金がかからないんじゃなかったのか!」Aさんは困惑するも後の祭り。申告漏れの指摘となってしまうのでした。
申告漏れと指摘された原因
「国税庁:海外投資を行っている者の調査状況」によると、海外投資による申告漏れの件数は1,587件、金額にすると1件あたり3,320万円となっています。1件あたりの金額が3,000万円を超えていることからも、投資家が海外投資にあてる金額の大きさが伺えます。
海外投資に対する税金に対しては年々厳しくなっています。現在は海外資産の合計額が5,000万円を超える方は「国外財産調書」を税務署へ提出しなければなりません。
海外資産が5,000万円以下の場合でもなにもしなくてもよい、というわけではありません。原則、日本へ資産を移した際は確定申告を行う必要があります。
オフショア投資で得た利益に対して税金がかからないのは現地の話であり、日本に送金された場合は一般的に課税の対象となります。特に、海外からの送金は税務署に筒抜けのため、しっかり確定申告を行いましょう。
Aさんの場合、オフショア投資で得た利益に対して確定申告を行なっていなかったために税務調査が行われ、結果として追徴課税されることとなってしまいました。
オフショア投資の注意点
・現地では課税されないが、日本に持ち帰ると課税対象となる
・海外からの送金は税務署に筒抜けなので、「黙っていればバレない」はNG
・5,000万円超は「国外財産調書」を提出
注意喚起:自分で手続き、解約等できるようにしておく
日本では考えられないような好条件の商品もあるオフショア投資ですが、その仕組みは複雑です。すべてを理解して投資をしている方は多くないかもしれません。契約書は外国語で記載されており、約款の内容を理解するためには高度な語学力が求められることもそうした状況となる原因のひとつでしょう。その労力を省くためにIFAといた独立系ファイナンシャルアドバイザーを経由して投資をしている方がほとんどですが、IFA経由以外の金融会社への連絡手段も把握しておくことも必要です。IFA経由でのみ連絡を行う場合、契約から解約もしくは万が一のことがあったときの保険金の請求などスムーズに行えない可能性もあるからです。
Aさんも解約のときは一苦労でした。契約した当時のIFA業者と連絡が取れず、ほかのIFA業者へ移管したのちに解約手続きを行ったという経緯がありました。
日本の法律外の商品であることを理解する
オフショア投資に代表される海外の金融機関は、日本に支社等を持たず、営業を許可されていないものがほとんどです。そのため投資家はIFAを通じて契約を行いますが、営業を許可されていない金融機関の場合、日本の法律(投資家保護等)がおよばないことがあります。
また、IFAがしっかりと金融商品仲介登録がなされているか確認をすることも必要です。
伊藤貴徳 伊藤FPオフィス 代表
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