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こんなはずじゃなかった! 平成半ばに勃発した「アクティブシニア」バブル…〈業界総出〉で乗り出した「アクティブシニアマーケティング」が“大失敗”に終わったワケ<br />

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月10日 11時0分

こんなはずじゃなかった! 平成半ばに勃発した「アクティブシニア」バブル…〈業界総出〉で乗り出した「アクティブシニアマーケティング」が“大失敗”に終わったワケ&lt;br /&gt;

(※写真はイメージです/PIXTA)

2000年代前半、日本のマーケティング業界では「アクティブシニア」というキーワードが席巻。今後急増するであろう積極的な消費をするシニア層を狙い、広告代理店は数多くの広告・キャンペーンを打ち出していました。しかし、そこには誰もが見逃していた“落とし穴”があって……? 本稿では、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務めた経験もあるマーケティングアナリストの原田曜平氏による著書『「シニア」でくくるな! "壁"は年齢ではなくデジタル』(日経BP)から一部抜粋して、当時の「アクティブシニアマーケティング」が大失敗した原因について解説します。

平成アクティブシニアバブル勃発

2000年代前半、平成も半ばに差し掛かろうとしていた時代、日本のマーケティング業界は、あるキーワードが席巻し、バブル状態になっていた。言わずと知れた「アクティブシニア」だ。

アクティブシニアとは、現代的な定義でいうと、仕事や趣味、あるいは消費活動や地域貢献活動に積極的な、文字通り高齢になっても活発なシニア層のこと。だが、その時代は、主に「消費」を意欲的に行うシニア層を指した言葉だった。

日本が高齢社会になるということは、それに伴ってアクティブシニアも一気に増えることを意味する。企業が商品やサービスのターゲットにすれば、莫大な利益が転がり込んでくる……。そんな見立てによって、多くの企業で〝アクティブシニア信仰〞がまん延していた。

仕掛けたのは主に広告代理店だ。当時、筆者である原田は大手広告代理店に勤務し、同僚と共に得意先に広告やキャンペーンを企画する忙しい毎日を送っていた。そうした中、自分を含め多くの企画書にも躍っていた言葉がアクティブシニアだったのだ。

社会や企業が環境問題を重視する姿勢が顕在化してきた時代でもあったため、「エコ」という言葉ももてはやされ始めたころだ。だが、アクティブシニアは同等か、それ以上に、広告パーソンが企画を売り込む際に使える最強かつ鉄板のテーマとなった。

「高額商品が飛ぶように売れる」「本命は豪華客船クルーズ」「海外旅行に頻繁に行くのは当たり前」――。

関係者の間ではそんな高齢者像がまことしやかにささやかれ、企業側もその提案を受け入れ、すべての業界がアクティブシニアの熱に浮かされた。

「団塊の世代が高齢者に」が発端

アクティブシニアバブルの着火点は何か。発端の一因となったのが、団塊の世代(1947〜49年に生まれた人々)の存在だ。

平成とは、消費やマーケティングの観点で見た場合、ひと言でいえば、「若かった団塊の世代が前期高齢者(65歳以上、75歳未満)になるまでの歴史」だ。平成元年(89年)、団塊の世代はまだ40〜42歳だった。

それが平成中期の15年になると、その彼ら、彼女らも54〜56歳になる。すなわち、あと10年もすれば高齢者になるカウントダウンが始まった時期であり、これが2000年代前半に当たる。

「近い将来、団塊の世代が高齢者になる」。この事実が、新たな市場を模索する多くのビジネスパーソンや経営者の心を揺さぶった。そこで、企業を巻き込み、広告業界、マーケティング業界で起こったのが、アクティブシニアの大合唱だったのだ。

「これからは高齢者マーケティングの時代」「市場をけん引するのは、消費意欲旺盛なアクティブシニア」。関係者の間では、そんな言葉が勇ましく飛び交った。

くしくも、時代は少子化が加速し、2005年には日本の総人口が戦後初めて前年を下回るなど、人口減少社会の幕開けに業界関係者は震撼(しんかん)していた。

そんな中、唯一の望みであり、拡大が見込める高齢者市場が脚光を浴び、マーケティングや広告業界はこぞって参入し、初めて本格的にシニア攻略戦を繰り広げるようになったのだ。

読み違えた、アクティブシニアマーケティング

結果、どうだったのか。結論から言うと、業界関係者が描いた青写真通りにはまったくいかなかった。確かに高齢者の人口ボリュームは増え続けた。だが、そうして増加していった高齢者を全体的に見ると、必ずしも「アクティブ」にならなかった。

一部の層を除き、豪華客船に乗ってクルーズなどしないし、海外旅行にも思ったほど頻繁に行かなかった。期待していたほど消費が爆発しなかったのである。

大きな誤算だった。笛吹けども踊らずの状況が続く中、マーケティングや広告の費用対効果は悲惨な状況で、マーケターも広告パーソンも、そして多くの資金をつぎ込んだ企業も、大半のゲーム参加者が肩透かしを食らった。アクティブシニアマーケティングは完敗したのだ。

読み違いはどうして起きたのか。理由の一つが、多くの企業が高齢者をひとくくりにしてしまったことだ。

一般的に65歳以上を高齢者(シニア)という。広告業界では、通常、M1=男性20〜34歳、M2=男性35〜49歳、M3=男性50歳以上、F1=女性20〜34歳、F2=女性35〜49歳、F3=女性50歳以上などとターゲットを分類する。

さらに、より細かく、年齢や性別、居住地、家族構成、職業、年収、価値観、ライフスタイルなどをまるで実在する人物のように設定して、商品やサービスのペルソナマーケティングを行うこともある。つまり、セグメントを行い、マーケティング戦略に生かしているわけだ。

しかし、当時のアクティブシニアマーケティングはターゲットを「高齢者」として一緒くたにしてしまった。本来であれば下の世代と同様にセグメントし、ターゲットとなる世代を見極め、必要に応じて細かくペルソナを設定すべきところだ。

しかし、誰にとっても、本格的な高齢者マーケティングは未経験かつ未知数だった。

唯一分かっていたのは、高齢者が増え続け、あと10年もすれば団塊の世代という巨大な固まりが乗っかり、市場が膨張するという未来図だけだっだ。それを唯一のよりどころとして、アクティブシニアという希望的観測に突き動かされ、わき目もふらずまい進した。

結局、そうした大ざっぱな高齢者マーケティングが失敗を招いた。

原田 曜平

マーケティングアナリスト/芝浦工業大学デザイン工学部教授

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