『噂の!東京マガジン』『アタック25』はなぜ地上波から消えたのか? 〈高齢者の切り捨て〉に走った広告業界がいまだに抱える「平成のトラウマ」
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月15日 11時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
多くの企業が大失敗に終わった「アクティブシニアマーケティング」。この苦い経験から「消費をしない」というレッテルを貼られた高齢者たちは、広告・マーケティング業界や企業から切り捨てられてしまうことに……。本稿では、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務めた経験もあるマーケティングアナリストの原田曜平氏による著書『「シニア」でくくるな! "壁"は年齢ではなくデジタル』(日経BP)から一部抜粋して、令和の「シニアマーケティング」の重要性について解説します。
戦争をくぐり抜けた世代は価値観が異なる
大ざっぱな高齢者マーケティングが失敗を招いたのであれば、細かく調査を行って、そこから需要やターゲット層を見極めればよかったのではと思うだろう。だが、高齢者の場合、それが実に難しい。2000年代に入ると、インターネット調査が主流となり、ネットにアクセスできる高齢者が少ない状況では、調査自体がままならないからだ。
平成中期となれば、2024年に比べてインターネットを利用している高齢者はごく少数派である。そうした環境もあって、調査によって見いだされるはずの〝売れる根拠〞がないまま、突き進んでしまった。これも敗退原因の一つだ。
さらに、もう一つ失敗の原因を挙げるとするならば、「時代が少し早かった」こともあるだろう。アクティブシニアマーケティングが活発化した平成中期、期待された団塊の世代はまだ現役であり、彼らがシニアになるまでには、10年を待たなければならなかった。
戦後生まれの「団塊の世代」とそれ以前の「戦中・戦前生まれの世代」とでは、価値観が全く異なる。
後者は、幼少期に戦争をくぐり抜けてきた世代であり、戦後に生まれ、中高生の時にザ・ビートルズを聴いて育ち、20代でマクドナルドのハンバーガーを食べてきた団塊の世代とは、生き方も考え方も全く異なる。
団塊の世代は、基本的に新しいものが好きであり、新発売や日本初、世界初の商品やサービスに飛びつきやすく、その点で消費意欲がワンランク上だ。
一方、戦中・戦前の世代は対照的なほど堅実だ。出費は控え、つつましく生活することを美徳とする、いってみれば日本の古くからの高齢者像を、そのまま引き継いだタイプだ。
平成の高齢者マーケティングは、蓋を開けてみれば、主役の大部分がそうした古風な高齢者だった。全体的に見れば、消費は活発でなく、当然「アクティブ」ではない。この読み違えも敗北の原因の一つだった。
中高年を〝切り捨てよ〟企業の誤った決断
平成のアクティブマーケティングの失敗は、マーケティング業界、広告業界、さらには企業にとってダメージとなり、トラウマとして以後のビジネスでも引きずることとなった。
ついてしまったイメージは「高齢者は消費しない」というレッテルだ。基本的にマーケティングの対象から外す――。それが多くの企業が下した決断だった。
その象徴的な出来事がある。2020年3月、ビデオリサーチが全国で本格的に個人視聴率の提供をスタートさせた。そのデータを基に、主要テレビ各局が地上波の広告枠を販売する際の指標として「コア視聴率」の採用を始めたことだ。
TV局が「コア視聴率」を採用することの意味
コア視聴率とは、テレビ局によって多少異なるが、「13〜49歳の個人視聴率」と定義されることが多い。テレビCMのスポンサーである企業にとって、コア視聴率の対象となる視聴者は商品やサービスを買ってくれる購買力のある層とされる。
つまり、主なテレビ局は13〜49歳をターゲットとして番組を制作し、テレビCMを販売する方針としたのだ。つまり、それ以外となる50歳以上の中高年を、言葉を選ばずに言えば〝切り捨てた〞ということだ。
50歳以上と書いたが、実質的には高齢者を切り捨てたと同義だ。これは、アクティブシニアマーケティングの失敗と無縁ではない。この失敗によって、「高齢者は消費をしない」という印象が色濃く残り、企業側がテレビ局に対して、「消費をしない高齢者にテレビCMを打っても意味があるのか」と疑問を呈するようになったと考えられる。
テレビ局はそうした圧力を跳ね返すことができず、コア視聴率の採用と番組の若返りを決行せざるを得なくなった。
祭り上げられ、捨てられた高齢者
その結果、地上波から、高齢者向けの番組が一掃された。2021年、TBSで1989年から放送されていた『噂の!東京マガジン』は、BS‐TBSへの移行を余儀なくされた。
同年、テレビ朝日でも、『パネルクイズ アタック25』が46年の歴史に幕を下ろし(2022年BSJapanextで復活)、22年春、27年間続いた『上沼恵美子のおしゃべりクッキング』も打ち切りとなるなど、高齢者の視聴が多かった番組が軒並みBS送りか、終焉(しゅうえん)を迎えている。
また、24年3月、TBSの『サンデーモーニング』は司会の関口宏を降板させ、後任に膳場貴子を起用するなど、番組は続いても出演者の若返りは待ったなしで推し進められている。
その他の番組も、対象とする視聴者は40代以下の比較的若い世代で、出演者は若手の俳優やミュージシャン、お笑い芸人などがメイン。高齢者にファンが多い、文化人や芸能人は徐々に姿を見なくなっているのが実態だ。
その代わり、そうした有名人はBSで番組を持つケースが多い。関口宏はBS‐TBSで2つの番組の司会を担当することになり、武田鉄矢が司会を務めるBSテレ東の『武田鉄矢の昭和は輝いていた』が人気を博するなど、BSは高齢者のチャンネルとして存在感を高めている。
こうした流れを見ても分かる通り、高齢者は広告業界、マーケティング業界、企業の間で翻弄され続けている。端的にいえば、「勝手にアクティブシニアに祭り上げられ、消費しないからといって、勝手に切り捨てられた」わけだ。これは、高齢者にとっても、企業側、マーケティングや広告の業界側にとっても、不幸と言わざるを得ない。
令和は、「団塊ジュニアが高齢者になる」
では、高齢者は広告やマーケティングの世界で、このまま放っておかれてよいのだろうか。当然の話だが、そんなことは断じてない。そう言い切れる理由をいくつか挙げていこう。
最初に、言うまでもなく、高齢者の全人口に占める割合は今後も増え続けるからだ。高齢者(65歳以上)の人口は、3623万人(23年9月15日時点の推計)で、総人口に占める割合は29.1%と過去最高を記録している。
75歳以上の後期高齢者の人口は、初めて2000万人を超えた。団塊の世代が22年から75歳を迎えていることが要因と考えられる。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、高齢者の割合は今後も上昇を続け、第2次ベビーブーム期(1971〜74年)に生まれた「団塊ジュニア世代」が65歳以上となる2040年には34.8%、2045年には36.3%になると見込まれている。すなわち、令和時代は世代論的観点からひと言で表現すれば、「団塊ジュニアが高齢者になる時代」だ。
今こそ、平成時代に敗北したトラウマから抜け出し、令和の時代の新たなシニアマーケティングに取り組むべき時を迎えている。
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原田 曜平
マーケティングアナリスト/芝浦工業大学デザイン工学部教授
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