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「ステージに立ち続ける」「まずは自分自身を生きる」…森山未來と藤竜也に聞く、年を重ねるということ

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月7日 12時15分

「ステージに立ち続ける」「まずは自分自身を生きる」…森山未來と藤竜也に聞く、年を重ねるということ

(C)2023 クレイテプス 

俳優の森山未來さんが主演し、藤竜也さんと親子役で初共演を果たした映画『大いなる不在』(近浦啓監督)が7月12日(金)に公開されます。日本公開に先んじて第48回トロント国際映画祭ワールドプレミアを飾り、第71回サン・セバスティアン国際映画祭では日本人で初めて藤さんが最優秀俳優賞を受賞。第67回サンフランシスコ国際映画祭では最高賞グローバル・ビジョンアワードを受賞するなど、国際的にも評価が高く、早くも話題になっています。森山さんと藤さんにお話を伺いました。

藤竜也「私も毎日老いと向き合っている」

■映画『大いなる不在』ストーリー 幼い頃に自分と母を捨てた父が事件を起こして警察に捕まった。連絡を受けた卓(たかし)が妻の夕希(真木よう子さん)と久しぶりに九州に住む父の元を訪ねると、父・陽二は認知症で別人のようであり、父が再婚した義母の直美(原日出子さん)は行方不明になっていた。父と義母の生活を調べ始めた卓は、父の家に残されていたメモや直美が残した手帳を手掛かりに手探りで「父」という謎を探っていく……というストーリー。

――オファーを受けての感想からお聞かせください。

森山未來さん(以下、森山):主人公の卓(たかし)は父とは長い間、離れた環境で暮していたのですが、父が認知症になったことをきっかけに出会うことになります。そういう意味でも、距離感が非常に難しいですし、再会した父はかなり重度の認知症なので、何が事実かが彼の発言からは分からない。ここはサスペンス要素にもつながっているのですが……というふうに言ってしまえば分かるのですが、脚本の構造も時系列が入り組んでいるので、最初台本を読んだときはどこまで自分が理解できているのだろうか? と難しい部分もありました。

でも、近浦監督といろいろ会話をしていく中で紐解かれていきました。ただ、最初オファーがきたときは失礼ながら近浦監督のことをちゃんと存じ上げていなくて、この人はどこから映画の製作費を調達して、どんな映画の製作をしているのか? というのが見えなかったんです。近浦監督にも話したのですが、最初は「胡散臭いな」と思っていました(笑)。

実際に近浦監督とお会いして「クリエイティビティだけではなく、ビジネスの両方を担保することが本当の意味でのインディペンデント映画なんだ」ということをおっしゃっていて、その考え方に惹かれました。そして彼のプロジェクトに参加してみたいと思いました。

――藤さんは近浦啓監督の作品に出演されるのが、今回で3度目ですね。

藤竜也さん(以下、藤):(オファーがきて)嬉しかったです。私が演じた陽二という役は、老いと向き合うという意味では私もその一員です。“老い”の最先端で私も毎日老いと向き合っています。そういう意味では役柄については非常につかみやすかったです。

今回の作品は監督の実体験がかなり入っているということで、ゆかりのある場所を見学させていただいたり、監督のお父上が住んでいた家をロケで使わせていただいたりしました。お父上が読まれていた書物も残っていたので、演じる人間としては大変なインスピレーションをいただきました。実際にこの物語があったであろうというものが、(ロケ現場である)うちにいると降りてくるんですね。そういう意味ではスムースでした。

また、森山さんが演じる卓の微妙な陰影のあるパフォーマンスが、陽二の躁鬱状態のコンビネーションと混ざりあって、きっとうまくいくだろうなと思いました。

 

森山未來「『愛』についての物語…なのかもしれない」

――それぞれの役を演じて見えてきた“風景”のようなものはありますか?

森山:僕は、認知症の方とちゃんと関わったことがないので、いろいろと調べていく中で、一冊の本を読みました。小澤勲さんの『認知症とは何か』(岩波書店)という本なのですが、印象的なワードとして、「認知症の方と関わるためには俳優のまるで俳優のように、その認知症の方が作り出す世界、虚構の世界に寄り添うこと。これが肝要である」というようなことが書いてあって、役柄的にドンピシャすぎて……。

卓は陽二の何が真実で何が嘘かも分からない世界に最初は翻弄されていきますが、(陽二の妻である)直美さんが残した手帳が卓にとっては台本のようになっていき、その手帳を手がかりとして、段々と陽二を理解していくーー。陽二の息子である卓として、そして俳優業を営んでいる者として、卓は陽二という人をどんなふうに受容し、寄り添っていくのかということが脚本を読んだ時点では想像できなかったので、そんなふうに着地できたのはよかったなと思いました。

――陽二という人間を演じて見えた風景について、藤さんはいかがですか?

藤:いや、もう人間ですよ。それは私の半年後かもしれないし……。映画というのは、“仕掛け”があるのですが、例えば「ここできっと観客は涙腺が緩むんじゃないか」とか「ここで笑うのではないか」というのが台本を読めばだいたい分かるんです。でも、この作品に関しては全く分からなかった。“伏線”や“仕掛”というものが何もない。それなのに、見終わった後に「あの魂の揺るぎは何だったのだろうか?」と思って不思議でしょうがなかったです。

僕は自分の映画はほとんど見ないのですが、今回は3回見たんです。そして毎回違う揺らぎ方、揺すられ方をされて、これは何だったのかはいまだによく分からないです。

森山:普段、僕は全く使わない言葉ですし、あまり言いたくもないのですが、なんというかこの作品は「愛」についての物語なのかなと……。そんな言葉がふっと出てきてしまう感じがあるんですよね。それが何なのか、あまり説明したくないのですが、思考だったり、論理だったり、それまで物理学者として生きてきたガチガチのロジック人間だった陽二が認知症によって全てを剥ぎ取られた後に、陽二という人間から出た慟哭というか、氷山の一角のようなものがパッと出たものだったんだろうなと。それが最初から最後まで通底して描かれているんだなと感じました。

藤:そうかもしれないね。「説明できないこの揺らされ方って何?」というのを味わってほしい。私も説明できないのですが、揺れるんです。

森山未來と藤竜也に聞く、年を重ねるということ

――藤さんにお聞きしたいのですが、先ほど毎日「老い」に向き合っているとおっしゃっていましたが、老いについて思うことはありますか?

藤:若い頃は、体を追い込むくらいのトレーニングをしてきたのですが、年とともに少しずつゆっくりというか、歩きに変わってきました。昔は泳いだり、スカッシュやったりいろいろなことをやってきたのだけれど、最近はちょっと歩くと足が痛くなってきて……。ストレッチを少しでもやらないと全部の筋肉が硬直してくのがわかるんです。でもね、それはしょうがないなと思っています。そういうもんだからね。

でも、生きることが表現者として全部プラスになっているんだなとは思います。自分の時間、家での時間、妻との時間、子供との時間、友人との時間をきちんと生きることが、僕にとっては演技者として、表現者としてすべてがプラスになるんだと思うし、勉強なんだなと。だから、まずは自分自身を生きて、その次に俳優が来るわけで……。 これは僕の場合は、ですけれど。

そして最後に「解放」というのがあるんだね。すべての人に平等に解放というのが訪れるわけだけれど、やっぱり生物も植物も全部含めて上手く作られているなあと思います。

――森山さんは年を重ねることをどんなふうに捉えていますか?

森山:大野一雄さんという100歳を超えても踊っていた舞踏家がいるのですが、そういう存在が勇気づけてくれるものってありますよね。技術的に何ができるとかではなく、ステージに立ち続ける、舞台に立ち続ける、踊りを考え続けることというか……。

身体を使う、踊るということで、できることとできないことのどちらもが日々生まれてくるわけです。そういった御大がいらっしゃる中で、表現というものは死ぬまで続く、つまりは「続けていくこと」が重要になってくるのではないかとも思います。

<プロフィール> 森山未來(もりやま・みらい) 1984年、兵庫県生まれ。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。2013年に文化庁文化交流使として、イスラエルに1年間滞在、Inbal Pinto&Avshalom Pollak Dance Companyを拠点にヨーロッパ諸国にて活動。「関係値から立ち上がる身体的表現」を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開している。 藤竜也(ふじ・たつや) 1941年8月27日、父の任地である中国・北京生まれ。神奈川県横浜市で育ち、日本大学芸術学部在学中にスカウトされ日活に入社。『望郷の海』(62)でスクリーンデビューを果たす。その後、渡哲也主演の『嵐を呼ぶ男』(66/舛田利雄監督)で弟役を演じて存在感を示し、「日活ニューアクション」の中でも異彩を放つ「野良猫ロック」シリーズ(70~71/長谷部安春監督・藤田敏八監督)ではメインキャストとして活躍した。大島渚監督『愛のコリーダ』(76)、『愛の亡霊』(78)では海外でもセンセーショナルな話題と共に高い評価を得た。近年は『龍三と七人の子分たち』(15/北野武監督)、『初恋 お父さん、チビがいなくなりました』(19/小林聖太郎監督) 、『それいけ!ゲートボールさくら組』(23/野田孝則監督)、『高野豆腐店の春』(23/三原光尋監督)などの映画に出演している。

THE GOLD60編集部

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