老後の幸福度を左右するのは「デジタルの壁」!? 日本の高齢者は“世界一”賢くてお金持ちと言えるワケ【原田曜平×和田秀樹】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月29日 6時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
1990年代半ばまでは、日本の中学生の「数学力」が世界でトップレベルだったことをご存じでしょうか。その世代が後期高齢者となったことで、現在「賢くお金持ちな高齢者」という層が非常に厚くなっています。そこで本稿では、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務めた経験もあるマーケティングアナリストの原田曜平氏による著書『「シニア」でくくるな! "壁"は年齢ではなくデジタル』(日経BP)から一部抜粋して、原田氏と精神科医の和田秀樹氏による「日本の高齢者」についての対談をご紹介します。
日本の高齢者は世界一賢くて金持ち
原田:今回、私がこの本をつくろうと思ったのは、本書の中でも述べている通り、平成時代の中期、マーケティングの世界で「アクティブシニア」というキーワードが叫ばれ、大流行したことがきっかけです。
蓋を開けてみると全くそんなことはなく、思っていたように盛り上がらなかったのです。高齢者の人口が多くなり、その人たちがみんなアクティブになると思い込んでいたのが敗因です。
そこで同じ轍を踏まないために大事だと考えたのが、きちんと実態を調べること。当然のことですが、高齢者の中にはアクティブな人もそうでない人もいます。
調査をしてそこをしっかり見極めることが肝心であり、その上で、どの層を狙うのか分析して実践することが重要だと思ったのです。
和田:その調査は、今だからこそ非常に意義があると思います。というのも、歴史的背景から見ると、現在の日本の高齢者は〝世界で一番頭がいい〞と言えるからです。
1990年代半ば、数学力で日本の中学生がトップの座を明け渡し、代わりに躍り出たのが韓国や台湾でした。
そのため、今の40歳前後より下の世代は韓国や台湾のほうが勉強はできるといえます。現役世代の主力の頭がいいわけですから、彼らがITで世界をリードするのは当然の帰結です。
その意味で、日本が高度経済成長からバブル期まで繁栄できたのも、一般労働者の頭が良かったからです。
特に、それが顕著に表れたのが今の団塊の世代です。若い時分に史上空前の受験戦争を経験し、同い年260万人のうちその多くが大学受験をしています。大学の定員は今よりずっと少なかったので、大学進学組は秀才ぞろいです。かつ、大学に行けなかった人も頭が良い。
その団塊の世代が後期高齢者になり、その下の高齢者も長年数学力で世界のトップを維持してきた世代ですから、今の高齢者の知的レベルは世界で一番高いといえるわけです。
加えて、団塊の世代は終身雇用、年功序列でしっかりとお金を貯めてきた高齢者です。これほど賢く、お金を持っている高齢者が固まりでいる国は、他に見当たりません。今こそ、原田さんの調査と分析を参考にして、高齢者マーケティングを仕掛けるときだと私は思います。
「デジタルの壁」が老後の幸福度を左右するといえる理由
原田:和田さんの2022年出版の著書『80歳の壁』も、80歳直前でそれを意識せざるを得ない団塊の世代に、よく売れたのではないでしょうか。
和田:その通りです。私はこれまで何冊も高齢者向けの本を書いてきています。古くは1996年に出版した『老人を殺すな!』(現・KKロングセラーズ)という本で、私が浴風会という高齢者専門の総合病院に在籍し、そこで判明したことを記しました。
血圧、血糖値が高めの人のほうが元気であるなどの事実で、高齢者と若者の医療は違うはずだと訴えました。けれども、ほとんど反響はありませんでした。
しかし、風向きが変わってきたのが近年です。2021年、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)という本を出すと、これが40万部以上のヒットを記録したのです。それに続いたのが、『80歳の壁』の大ヒットです。私に言わせれば、「機は熟した」ということ。
つまり、高学歴で知的で本もよく読む団塊の世代が後期高齢者になり、ようやく読者対象になったことが大きいと思っています。
そんな80歳の壁を前にした団塊の世代やそれ以降の世代も含めて高齢者全体が相当知的になっており、今と15年前の高齢者とでは、だいぶ事情が違ってきているというのが私の実感です。
原田:私たちが行った今回の調査ではいくつか大きな発見があったのですが、そのうちの一つが、和田さんが提唱する〝80歳の壁〞が確かに存在したことです。
80歳を超えると、PCやスマホなどデジタルが使える率ががくんと下がります。その他にも色々な指標が一気にマイナスになるのが80代でした。
一方で、例外もありました。それが、80歳になろうが、デジタルを使いこなせている人は、健康であり、可処分所得も高いなど、色々なプラスの指標が正の相関を示していたことです。
すなわち、年齢にかかわらず、デジタル高齢者はハッピーであり、〝デジタルの壁〞こそが、健康や可処分所得、満足度、幸せか否かを隔てる重要なファクターである、と分かったことが、この本で伝えたい一番の発見だと考えています。
デジタルによって拡大しつづける「買い物格差」
和田:私も同感です。デジタルの壁は高齢者の生活の質を分ける大きな問題だと思います。
というのも、私自身が『80歳の壁』を出したとき、それを痛感したからです。
一つ前の『70歳が老化の分かれ道』では、「マスコミが騒いでいるほど高齢者による自動車事故は多くない。だから、免許は返納するな。返したら外出する機会がなくなり要介護一直線だ」と書いたら、それがすごく受けた。
高齢者の場合、特に地方では郊外型の書店に自家用車で行って本を買う場合が多く、その人たちにとって免許の返納は自分の足が奪われる死活問題だから、共感を得られたわけです。50冊買って友達に配ったというエピソードも聞いています。
ところが、『80歳の壁』では、違った現実を目の当たりにします。この本も同じように郊外型書店で売れると思ったら、初期の段階で直面したのは予想外の現象でした。
Amazonで飛ぶように売れたのです。それは、私にとっては一番の驚きであると同時に、いよいよ後期高齢者もEC(電子商取引)を使い始めたことを実感させられる出来事だったのです。
原田:今回の調査では、高齢者全体のAmazonの利用率は約3割、楽天市場は約2割でした。
しかし、PCやスマホの所有者だとその割合が一気に増え、PCを持っている人ではAmazon利用率は約7割と跳ね上がります。デジタル高齢者かどうかで、買い物格差が露骨に出ているといえます。
原田 曜平
マーケティングアナリスト/芝浦工業大学デザイン工学部教授
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