「元気でいてくれればいい、好きに生きろ」50年前に家を出た年金月15万円の70歳独身ひとりっ子…疎遠となった父の死後、〈真実〉を知り呆然【FPが解説】<br />
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月15日 11時45分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
いつやってくるかはわからない親の死。日々の生活に追われてしまいがちですが、悔いの残らないようにしておきたいものです。本記事ではAさんの事例とともに、相続の事前準備について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。
疎遠の父が遺したもの
Aさんはおひとりさまで現在、70歳。きょうだいはなく、母は早くに亡くなり、父と2人きりで暮らしていましたが、折り合いが悪いことが重なり、就職して少ししてから家を出て生活してきました。特に行き来もせず必要なときに連絡をとるぐらいであり、父とは疎遠になっていました。
しかし、5年前、そんな父が突然亡くなりました。近所の人から連絡を受けて父の死を知ったAさんは、葬儀等バタバタと過ごしていたところ、金融機関からの知らせで父がアパート経営をしていたことが発覚します。しかも、まだローンが残っているというのです。
詳しく話を聞くと、建物の残債がまだ残っており、賃料(30万円)による収入よりもローンの支払い(37万円)のほうが多い状態でした。それでもAさんはアパートを継ぐことにしました。Aさんは公的年金を月15万円受け取れるため、贅沢しなければ日常生活を送ることができるはずでした。しかし、亡き父のアパートを継いだことにより、ローンの支払いのためアルバイトをすることに。さすがに65歳からのアルバイトは体力的にも辛いと感じていました。
ローン完済まであと5年。Aさんが70歳になるまでです。5年働けば……そう自分に言い聞かせていました。
父からの贈り物だと思ったから
Aさんは父が亡くなったとき、疎遠になっていたことに後悔していました。母が亡くなってから若気の至りということもあり、1人で暮らす自由を望み疎遠になってしまった父との関係。「元気でいてくれればいい、好きに生きろ」といって見送られましたが、どう返していいかわからず俯いてしまいました。その後は結局、仕事が忙しい時期もあり、お互い元気でいればと亡くなるまでの会話は時折、電話で「元気か」「元気だよ」の一言で終わっていました。
父が亡くなったとき、結婚していない、兄弟もいないAさんの身内は1人もいなくなってしまったことで、もっと親孝行をすればよかったと後悔し、父が残したアパートを引き継ぐことにしました。
父との思い出も薄いAさんにとって、アパートを持ち続けることで、父との繋がり、想いを引き継ぐことにしたのです。
もしかしたら、父は自分に贈り物をしたかったのでは……。
あと少しで完済、想定外の事態に
Aさんは、年金だけではローンが払えなかったので、清掃のアルバイトをしながら5年間、食いつないできました。あと少しというときに、持病の腰痛が悪化します。それでも仕事をしないと、ローンが払えないと頑張りますが、これでは負の贈り物じゃないかと弱気になります。
すでに他界している父に文句のひとつもいうことはできません。体調が悪いときには物事をいい方向に考えることができなくなります。そんなとき行政で士業の無料相談会があることを知り、行ってみることに。
「ローンの負担が多いのであれば、条件変更ができるか金融機関に相談してみてはいかがでしょうか。もしくは売却するのも一案です。債務超過であれば、任意売却という方法も。売却しても債務が残らないのであれば、通常売却することができます。お父様が亡くなっているので、いまとなってはわかりませんが、団体信用生命保険に加入していた場合は、保険金でローンを完済できるため、借金のない状態でアパートを引き継ぐことができましたよ。Aさんのことを考えてのことであれば、加入していたのではないでしょうか」相談会の担当者はさまざまなことを教えてくれました。
賃料内にローンの条件が変更できれば、Aさんにとってはありがたい話です。しかし、これまで父が遺してくれたのだから、父の想いを継ごうとして、頑張ってきましたが、選択肢が多すぎてどうすればベストなのかわからなくなってきました。
「いったい父はなにを考えていたのだろうか」Aさんは頭を抱えます。
父の遺品整理で見つけた日記
帰宅後、Aさんは父の生前の持ち物を確認します。父が亡くなった当時は、突然のことで荷物の整理も中途半端に、必要と思われるものを段ボールに詰めたままにしていたのです。荷物を整理しようとすると、父が思い起こされ、親孝行しなかったことを悔やんで、複雑な心境になってしまうため、後回しにし続けいままで放っておいてしまったのでした。
なにか残っていないかと改めて段ボールを開けてみることにしました。すると、日記帳のようなノートがあり、なにか記載されているようです。
明かされる真実
日記帳には以下の内容が記されていました。
退職金が出たので、知り合いに勧められアパート経営をしてみようということになった。1人でなにもすることがなかったので、アパートの管理(清掃)をしながら、いろんな意味で社会とのつながりになりそうだと決めた。 ただ、ローンもあり、団体信用生命保険に加入していないことから、もしかすると自分が亡くなったときに、息子に迷惑をかけるかもしれない。ただ、アパートは立地がいいところで、おそらく売却すると小さいながらも7,000万円相当になるといわれた。ローンが残ってしまって息子の負担になる可能性もある。 しかし残債が売却以上になることはないと聞いている。売却して差額は老後の足しにしてほしい。息子になにも残してやれなかったから、せめてアパートを引き継ぐなり、売却するなり、好きにしてほしい。真実を知り呆然とするAさん。もっと早くにわかっていれば……。
相続には事前コミュニケーションが不可欠
そもそも親子のコミュニケーションがとれていれば、腰痛を悪化させることもなく、無理して働く必要のなかったAさん。
相続により引き継ぐものが負の資産であれば、相続放棄することもできますが、資産の本当の価値を知っていれば宝の持ち腐れになることもなく、そもそも父の想いをわかっていればと悔やまれます。
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシア
FP
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