年収550万円の32歳サラリーマン、趣味のドローンが「まさかの金脈」に化けたワケ【経営コンサルタントが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月23日 11時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
起業と聞くと「特別なスキルや才能、資産がなければ成功しない」と考える人は少なくありません。しかし、日本では1日におよそ400社近くの法人が設立されるなど、起業は思っている以上に身近な存在です(東京商工リサーチ:2022年「全国新設法人動向」調査より)。いまの会社に満足しながらも、趣味のドローンで副業をはじめた佐藤さん(32歳)の事例をみていきましょう。経営コンサルタントの鈴木健二郎氏が解説します。
現状に不満はないが…年収550万円・佐藤さんの「悩み」
佐藤隆さん32歳(仮名)。地元の上場企業に勤務する彼は、毎日同じような業務を淡々とこなす日々が続いていた。
朝9時前に出社し、19時前には帰宅。月の残業時間は20時間以内ながら、年収は550万円ほど。待遇に不満はなく、仕事にも誇りを持っていたが、日々のルーチンワークにどこか物足りなさを感じていた。
そんなある日のこと。昼休み、いつものように社員食堂でランチをとりながら、同僚たちと話をしていたときだった。
同僚のうちの1人がなにげなく、「佐藤さん、最近新しい趣味とかないの?」と聞く。
「うーん、特にこれといってないかな。仕事が終わったら、家でゆっくりするのが一番だよ」
佐藤さんはそう答えたが、その答えに自分自身が少し驚いた。昔は新しいことに挑戦するのが好きだったはずなのに、いつの間にかその情熱が薄れてしまったことに気づいたのだ。
その夜、家に帰った佐藤さんは、久しぶりにドローンを取り出してみた。慣れた手つきでベランダからドローンを飛ばし、街の夜景を撮影してみる。
佐藤さんは、ドローンが捉えた夜景の美しさに心が震えた。かつて感じた興奮と満足感がじわじわと戻ってくる。
この日の出来事が人生を大きく変えることになるとは、まだ彼は夢にも思っていなかった。
趣味のドローンをビジネスに…佐藤さんに訪れた「転機」
後日、この感動を友人に伝えた佐藤さんは、その友人から「もしよかったら結婚式のオープニングで使う映像を作ってくれないか」と思わぬ依頼が入った。
大勢の前で披露するような作品をつくった経験のない佐藤さんは、恐る恐るドローンを使った空撮映像を作成したが、高空の壮大な景色から、式場のなかまで鮮明に映し出すその作品は、参列者から絶賛の声が上がった。
自分だけで楽しむ趣味だと思っていたが、こんなに多くの人に喜ばれるとは……この経験は、彼とドローンが秘める可能性を改めて考えさせられる契機となった。
ちょうどそのころ、佐藤さんの会社では「副業解禁」の動きがあり、彼はこれを絶好のチャンスと感じた。
「ドローンを副業にしよう」そう考えた佐藤さん、まずは地元のイベントや小規模なプロジェクトを対象に、ドローンによる撮影サービスを提供しようと決意した。彼はさっそく週末を活用し、ビジネスとしてのドローン撮影に力を入れるようになった。
佐藤さんに立ちはだかった「技術」と「法律」の壁
しかし、彼の副業は順風満帆とはいかなかった。佐藤さんが直面したのは、「技術の壁」と「法律の壁」だ。
これまでは趣味で小さな機体を限られた範囲で飛ばしていたため、特にどこかに許可を得る必要はなかったが、副業を始めるにあたって新たにひと回り大きなドローンを購入した佐藤さん。国土交通省から飛行許可を取得しなければならなくなった。
また、ただ申請すればいいかというとそうではない。都市部や人が多く集まる場所での飛行には、厳しい基準が適用される。特にイベントの空撮では、参加者の安全を確保するための細かい手続きが求められた。
非常に煩雑な手続きに苦戦し、何度も書類の不備を指摘され、そのたびに手続きをやり直さなければならなかった。
ある日、地元の音楽フェスティバルの空撮を依頼された佐藤さんは、許可を得るために必要な書類を提出した。
「これで大丈夫」と撮影の準備を進めていた佐藤さんだったが、開催日直前になって追加の安全基準が適用されることが判明。すべての計画を見直さなければならなくなった。結局、フェスティバルの運営者が「もう間に合わない」と判断し、空撮は中止に。この経験は彼にとって最初の大きな挫折となった。
また、技術的なトラブルも続出した。ある撮影現場では、予期せぬ風の影響でドローンが操作不能に。どうにか被害を最小限にし、事故には至らなかったが、以降は風速や天候の変化に対する対策を徹底する必要があると痛感した。
ドローンって、なにができるの(笑)?…顧客獲得にも苦戦
さらに、ドローン撮影はまだ人々にとって身近ではなく、顧客を獲得するのは容易ではなかった。佐藤さんは地元の商店や中小企業をターゲットに営業をかけたが、どこも「ドローン撮影って、具体的になにができるの?」という嘲笑交じりの反応ばかりだった。
ある地元企業を訪問した際も、担当者から「うちにはそんな大げさな撮影は必要ないよ(笑)」と一蹴されてしまう。こうした厳しい現実に直面するたびに、不安に苛まれた。
「ビジネスにするには早かったのだろうか」「やはり趣味のままにしておくべきだったのかもしれない」……。成功への道のりは遠く、彼の情熱が試される日々が続いた。それでも、佐藤さんは諦めずに克服する方法を模索し続けた。
「SNS」での広報活動が、飛躍のきっかけに
ドローンの認知度を上げ、顧客を獲得するにはどうしたらいいのだろう……。新規顧客獲得の方法を思いあぐねていたある日、佐藤さんはSNSを活用するアイデアを思いついた。
「まずは身近なところから」とそれまでは主に自らの足で営業活動を行っていた佐藤さんだったが、YouTubeやInstagramに専用アカウントを開設し、自身の撮影した美しい映像を積極的に発信することにしたのだ。
すると、彼の映像は徐々に注目を集め、フォロワー数も増えていった。その結果、彼の撮影技術が評価され、一度は断られた地元企業や個人からも少しずつ撮影依頼が舞い込むようになった。
また、彼はドローンに関する法律についても徹底的にインプットし、安全基準を満たすための手続きにも精通。トラブルを防ぎ、顧客の信頼を獲得した。
さらに、不動産物件のプロモーションや農業の監視サービスなど、ドローンを使った新しいサービスを開発し、ニッチ市場の開拓にも成功。しだいに収入は本業に匹敵するほどに伸び、副業としてのドローン撮影は着実に成果を上げていった。
ついに、佐藤さんは思い切って本業であった上場企業の退職を決断した。副業から始めたドローンビジネスは、本業として事業拡大に向けまい進することとなった。
いまもなお、彼の事業は成長を続けている。大手広告代理店や映画製作会社からもオファーが届くようになり、彼は自宅に制作スタジオを設立すべく、鋭意準備中だそうだ。
彼の「無形資産」を支えた「情熱」と「挑戦」
佐藤さんの物語は、趣味や特技といった自分だけの「無形資産」を生かすことで、新しいビジネスチャンスを見出せることを示している。また、技術的な課題や法律的な障害に直面しても、乗り越えるための学びと工夫を施すことが重要であると教えてくれる。
さらに、彼はSNSを活用して自身のスキルを広めることで、広範な顧客基盤を築き上げることに成功した。
佐藤さんの成功のカギは、自分の情熱を信じ、困難に直面しても諦めず、常に前進し続けたことにある。
特別なスキルや資産がなくても、自分の得意分野や興味を活かして事業を興すことができる。彼の物語は「無形資産」を活かした起業に挑戦する勇気を与えてくれるはずだ。
鈴木 健二郎
株式会社テックコンシリエ
代表取締役
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