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父から継いだ「18億円の法人所有不動産」を現金化したい…手残りが「6億円」増えた驚きの理由。“不動産売買”以外の選択肢【不動産鑑定士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月12日 7時45分

父から継いだ「18億円の法人所有不動産」を現金化したい…手残りが「6億円」増えた驚きの理由。“不動産売買”以外の選択肢【不動産鑑定士が解説】

企業の合併や買収の際に使われるイメージがある「M&A」。しかし昨今、法人所有の不動産を譲渡するひとつの手段として「不動産M&A」が注目を集めていることをご存じでしょうか。なかには、不動産M&Aを活用することで単なる不動産売買と比較し、税負担・手残りに大きな差が出るケースも。本稿では法人所有の不動産の売買に悩むA氏の事例から、不動産M&Aを活用する場合と宅建業法に則り売買する場合の2つを、フジ総合グループ・株式会社フジ総合鑑定の大阪事務所所長の住江悠不動産鑑定士が比較・解説します。

「不動産M&A」とは?

「不動産M&A」とは、広義には不動産を所有する会社を対象にしたM&Aのことをいいます。なお本稿では、範囲を絞り、不動産のみを所有する資産管理会社(不動産賃貸業)のM&Aについて解説していきます。

一般的なM&Aの目的は、「会社または事業全体の譲渡」です。一方、不動産M&Aは「不動産の譲渡」を目的としています。譲渡の対象は不動産そのものではなく、株式譲渡の形で不動産を所有している会社ごと移転するのです。「不動産M&A」は「不動産売買」に比べ、売却後の手残りに大きな期待が見込め、またM&Aの税制優遇措置も活用できるため、不動産を譲渡するひとつの方法としていま注目されています。

では、具体的な事例をもとに「不動産M&A」と「不動産売買」の手残り額の違いについて比較していきましょう。

法人所有の不動産の売買に悩むA氏

A氏は、A氏の父親が設立した資産管理会社を承継し、不動産賃貸業を営んでいます。A氏には承継者がいないことから、法人所有の不動産を売却して現金化したいと考えています。A氏の会社の貸借対照表は以下のとおりです。なお、今回の事例では金額や税率を簡易化しています。

前提条件

・会社の株主はA氏1人のみ

・不動産の時価は18億円

・会社の株式の取得原価は3億円

・会社の株式の譲渡価額は19億5,000万円

・そのほかの資産は簿価で処分、換金できたと仮定

・不動産を売却し会社を清算した年にA氏には配当所得以外の所得はないと仮定

宅建業法に基づいて不動産売買する場合(一般的な不動産売買)

まず、宅建業法に基づいて不動産を売買し、後に会社を清算する流れを考えてみます。

会社の清算に伴い不動産を売却すると、その売却益に対して約35%の法人税が課されます。A氏は、帳簿上10億円の不動産を時価18億円で売却しました。売却益は8億円となるため、法人税の負担額は2億8,000万円となります。

会社を清算したあと、もしプラスの残余財産があれば、みなし配当として株主に分配され、株主には所得税が課されます。A氏の会社には16億7,000万円の資産が残っているため、そこから株式の取得原価3億円を差し引いた13億7,000万円が配当所得となり、そこに所得税が課されます。

総合課税である配当所得は、残額が大きいほど所得税の負担が増える累進課税のため、13億7,000万円の配当所得に対して最高税率約55%(住民税含む)の課税が適用されます。しかし、配当金を受け取るのは株主であるA氏ひとりのため、A氏は約5%の配当控除を受けることが可能です。

このように、A氏が負担する所得税等は6億6,102万4,000円となり、手残り金額は10億897万6,000円となります

不動産M&Aを活用する場合

不動産M&Aの場合は、株式譲渡によって不動産を所有している会社ごと売買します。不動産の名義は会社にとどまるため、買い手側には不動産の取得に要する不動産取得税や登録免許税の課税はありません。

一方、株主であるA氏には、株式譲渡益に対する約20%の譲渡所得税が課されます。A氏の会社の株式譲渡益は、株式の譲渡価額19億5,000万円から取得原価3億円を差し引いた16億5,000万円となるため、売り手側の譲渡税額は3億3,000万円となります

A氏の税負担はこの譲渡税のみとなり、株式の譲渡価額19億5,000万円に対する手残り額は16億2,000万円となります。以上により、「不動産売却」と「不動産M&A」では、6億1,102万4,000円もの差額が生じる結果となりました

このように、会社清算による「不動産売却」と株式譲渡による「不動産M&A」では、後者の方がはるかに税の負担が少ないことがわかります。  

※不動産M&Aでは、買い主が将来不動産を売却した場合、売却益にかかる法人税はその者が負担します。つまり、その不動産の「含み益」は買い主に引き継がれてしまうため、M&A業界ではこの含み益に対する法人税相当額を「売り主の負担」とすることがしばしば行われています。しかしこれは慣行的なものであり、必ずしも売り主が負担する必要がないことから、当事例では考慮せずに計算をしています。

特例税制「経営資源集約化」の利用も

不動産売買は、不動産の売却益に対して法人税がかかり、また分配する配当金にも所得税がかかります。一方、不動産M&Aは、不動産の株式譲渡益に対して譲渡課税が課されるのみとなるため、不動産売買と不動産M&Aでは税負担に大きな差がでることがわかります。

また、いまなら買い手側は「経営資源集約化税制」という税制特例を活用することが可能です。この制度は、事業承継税制における一定の要件を満たしたうえで計画に沿ってM&Aを実施した場合、投資額の70%以下を準備金として積み立てでき、その全額を損金算入できるというものです。

M&A実行後に発生する簿外債務等のリスクに備えるための制度ですが、仮に譲渡の対象が資産管理会社(不動産賃貸業)であれば、簿外債務や訴訟などのリスクを取得する可能性は極めて小さいといえるため、不動産M&Aは買い手側にとっても非常に大きいメリットのある制度といえるでしょう。

不動産M&Aは、一般的なM&Aで必要とされる高度な知識や交渉力、適切な手続きに加え、不動産の適正な評価や適切な株価の算定を行う必要があるため、税理士や不動産鑑定士などの専門家による多面的な視点が欠かせません。不動産の売却をご検討の方は、不動産M&Aも視野に入れ、専門家に相談することをおすすめします。

住江 悠

フジ総合グループ 大阪事務所 所長

不動産鑑定士

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