70代の独身長男、父の遺産ひとり占めも〈不動産活用〉できずに大失敗…尻拭いは甥姪?「そんなの許さない」80代姉の激怒の果てにたどり着いた、意外な着地点
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月14日 11時45分
![70代の独身長男、父の遺産ひとり占めも〈不動産活用〉できずに大失敗…尻拭いは甥姪?「そんなの許さない」80代姉の激怒の果てにたどり着いた、意外な着地点](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/goldonline/goldonline_61854_0-small.jpg)
(※写真はイメージです/PIXTA)
資産家の父親の遺産をほとんど1人で相続した独身男性は、勢い勇んで不動産経営に乗り出すも、失速。高齢となった姉は、弟の現状が自分の子どもたちの将来に影を落とすとして怒りが止まりません。解決方法はあるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。
15年の月日を経て、再び浮上した相続問題
今回の相談者は、不動産経営をしている70代の山田さんです。15年前、先代である父親の相続をお手伝いしたご縁で、現在保有している資産と、今後の相続の心配事について相談に乗ってほしいと、筆者の事務所を訪れました。
山田さんの父親は農家出身で、自宅のほかに貸家や駐車場、畑、山林など、多くの土地を所有し、その家賃収入で生活していました。
父親の相続人は、今回の相談者の山田さんと、2人の姉の3人でした。姉2人は遠方に嫁いで実家を離れていたため、長男で実家住まいの山田さんが先祖代々の不動産を相続し、責任をもって経営すると強く主張したことで、遠方に暮らす姉2人は引き下がり、遺留分よりかなり少ない代償金を受け取るにとどまりました。
山田さんの父親の財産の大部分は不動産で、納税資金が乏しかったことから、駐車場を1カ所売却して納税資金をねん出し、姉2人の代償金は山林を売却して充当しました。
勇んで不動産経営に乗り出すも、ヘタれてしまった末っ子長男
当時、60代~70代だった山田さんのきょうだいですが、すでに長女は80代、二女と山田さんは70代になっています。
実は山田さんは独身で、お子さんもいません。そのため、山田さんに万一のことがあった場合、遠方に嫁いだ2人姉か、もし姉が先立っていれば、山田さんの甥姪である姉の子どもたち合計5人が、山田さんの遺産を相続することになります。
「実は、父からの不動産の賃貸業を引き継いだものの、正直問題だらけで…」
話を聞くと、貸駐車場は滞納や放置車があるものの強く交渉できず、貸家も隣家の空き家から樹木の枝が伸び、大量の落ち葉などで困っているそうですが、対応の方法が分からず、賃借人は山田さんの顔を見るたび文句をいうため、山田さんは相当追い詰められているといいます。
相続してから15年。築古となった貸家のなかには空き家もあり、ずっと空き地のまま放置している土地もあります。
「私も年を取って、これから先どうしたらいいのか…」
「相続税は1億円です」税理士の言葉におののいたが…
当時の相続内容をまとめたものは下記のとおりです。
【15年前の家族の状況】
被相続人:父
相続人:長女60代、二女50代、長男(依頼人)50代
財産の構成:自宅、貸家、駐車場、貸宅地、空き地、生産緑地、農地、現預金、保険
山田さんの父親は、よく言えば自由人でしたが、子どもたちにはあまり関心を持っていなかったようだったといいます。先に母親が亡くなり、本来であれば子どもたちへの相続を考慮すべきところ、父親も一切の相続対策に着手しないまま、突然亡くなってしまったのです。
資産には負債はありませんでしたが、納税に使えるほどの現金はなく、近所の税理士に相談したところ、「相続税額1億円超」といわれて慌てふためき、筆者のところに山田さんきょうだいから問い合わせがあったのでした。
当初相談した税理士は、農地の扱いや相続に不慣れだったようで、あとから筆者の事務所で調査したところ、不動産にいくつも減額要素が見つかり、その結果、当初見積もられていた1億円以上という納税額から大きく下げることがでたのです。最終的に、納税資金として駐車場を1ヵ所、姉2人への代償金として山林を1ヵ所売却するだけですんだのでした。
父から相続した土地、有効活用できず「税金を取られるだけ」
山田さんは、15年の間に自分の趣味への出費や、自宅のリフォームなどで預貯金を使ってしまい、ほとんど残っていません。不動産のみで相続税を試算したところ、相続財産がおよそ1億8,000万円、相続税額が2,700万円超となっており、相続時にはいずれか財産を手放すことになります。
筆者と提携先の税理士が、山田さんに持参してもらった固定資産税の納税通知書を確認したところ、年間の固定資産税額は120万円。そのうち収入があるのは貸家6軒で月額30万円、駐車場が月額3万円で年額396万円。家賃収入の30%が固定資産税の支払いでなくなっています。貸家の修繕費、その他の土地の草刈りの費用もあり、家賃収入の手残りはわずかです。
なかでも空き地の固定資産税は年間70万円と大きく響いています。この空き地は、父親が別の土地の代替え地として取得したものの、当時から一度も活用したことがなく、ずっと空き地です。山田さんが相続してからの15年だけでも、固定資産税や草刈り代などの維持費はすでに1,000万円以上もかかっていますが、土地の収入がないため、すべて持ち出しです。つまり、正真正銘の「負動産」なのです。
「私たちの子どもに被害が及ぶのですよ!」姉2人の怒り
山田さんと面会した夜、山田さんの姉を名乗る女性から連絡があり、急遽、山田さんを交えて面会することになりました。
1週間後、打ち合わせが行われました。
「父が亡くなったとき、弟は〈俺が跡継ぎだ!〉と騒いで大変だったんですよ」
「でも、私たちも実家を離れていますし、やり取りにうんざりしてしまって〈もう弟に任せよう〉と…」
しかし山田さんは、せっかく相続した資産を生かしきれず、15年の間成り行きに任せた結果、次回の相続に問題を持ち越す可能性が高くなってしまいました。
「生活拠点から遠く離れた場所に、ボロボロの空き家や、使い道のない空き地を残されても困るのです。いまのうちにどうにかしてもらわないと…」
「あの子、独身じゃないですか。もし認知症になったら、本人はともかく、不動産はどうなります? 我々の子どもたちに迷惑が及ぶのですよ。そんなの絶対許せないわ」
姉2人から思いのたけをぶちまけられ、山田さんは小さくなってしまいました。
不要な土地を売却し、収益物件化を狙う
話し合いの結果、現状のままでは維持がむずかしいことから、空き地や駐車場、山林を売却して、維持する手間がかからない区分マンション等の収益物件とするなどして、資産を組み替えることになりました。
将来の認知症リスクを考慮し、速やかに取り組むのが得策だと判断したのです。今後の甥姪たちへの相続も考慮しながら、いま山田さんは、資産組み換えに全力で取り組んでいる最中です。
課題解決を図りながら、資産を持ち変えることで、相続税を減らし、収入を増やすことができます。承継した資産をそのままの形で持ち続けるのではなく、姿を変えながら付加価値をつけ、有益な資産として次世代に渡すことが、これからの資産承継の形だといえます。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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