「42年間お世話になりました」涙を堪え無念の60歳夫、定年直前の会社の裏切りで〈中間層〉から〈貧困層〉へ脱落…糟糠の妻にも見捨てられる“年金12万円”の悲惨な老後 【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月17日 11時45分
![「42年間お世話になりました」涙を堪え無念の60歳夫、定年直前の会社の裏切りで〈中間層〉から〈貧困層〉へ脱落…糟糠の妻にも見捨てられる“年金12万円”の悲惨な老後 【CFPの助言】](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/goldonline/goldonline_61881_0-small.jpg)
(※写真はイメージです/PIXTA)
1970年代に日本は「一億総中流」という意識が浸透するほど、中間層の割合が多かったのです。しかし現在は、経済低迷によって中間層から低所得者へと転落する人が増えています。今後、低所得者が全体の7割以上を占めるとの予想もあります。本記事では、稲田さん(仮名)の事例とともに、不確実性の時代におけるマネープランの考え方について、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。
長く勤めてきた会社の裏切り
稲田宏さん(仮名/60歳)は地方にある中小企業に長年勤務してきました。高校を卒業してから、ずっとひとつの会社に勤務しており、大卒ではない社員としては異例の出世で総務・経理担当の部長職についていました。
稲田さんが働く会社は、先代社長のころからワンマン経営でした。多くの社員が社長に意見することもできない恐怖政治が続き、息子が新社長になったいまもそれが変わることはありません。むしろ新社長は会社を私物化しているような側面さえあるような状態でした。
稲田さんはそんな会社でも「仕事が辛いのは当たり前だ」「自分は会社員だから」と考えて、長年自分の意見を押し殺しながら勤めてきました。挫けそうになっても耐えられたのは、高校時代からの付き合いである妻が、パートで家計を助けながら家で支えてきてくれたことも大きかったようです。
稲田さんは新社長が就任したあと、新社長から提出される領収書に疑念を抱いていました。新社長は自分のお気に入りのスナックでいつも多額のお金を使っていたり、リゾートホテルのツインルームに泊まるなどどう考えても私的なものと考えられる旅行の領収書を提出することも。
稲田さんは総務・経理として、社長へ領収書の詳細を頻繁に確認していましたが、そうした行動によって社長から疎まれる存在になっていました。
脱落への転機
そんな状況が続くなか、ある日会社の経理システムが変更されることに。稲田さんが使い慣れていたシステムと比べて、大幅に使い勝手が違ったものになったのです。より便利なシステムへと移行したのだと頭では理解しながらも、デジタルに弱い稲田さんにとっては働きにくい環境になりました。
部下を指導する立場にも関わらず、稲田さん自身がシステムを理解していないため、比較的早くシステムに慣れた若手社員に追い抜かされていきます。稲田さんは、自分が会社のなかでお荷物のような存在になっていくのを感じていました。
稲田さんの仕事ぶりを見ていた新社長は、稲田さんに異動を命じます。異動先は社長のお気に入りのスナックのママが社長を務める美容サロン会社でした。経理業務と、清掃や備品の補充業務などの仕事が主な業務内容だといいます。年収は380万円へと下がるため異動を断り続けていた稲田さんでしたが、近ごろの職場における自分の立ち位置もあって断ることが難しくなり、ついに異動を承諾してしまいました。
しかし、慣れない職場で仕事を覚えるのも大変で、以前よりも低い賃金で働かなければならない状況に段々居辛さを感じます。そして、稲田さんは長年会社に尽くしてきたにもかかわらず、退職する決断をすることになりました。
退職の当日、「42年間お世話になりました」と挨拶をした際には最後がこれか、と思わず涙がこぼれそうになるのを必死でこらえました。
公的年金の受給開始までは5年もあり、3人の子供たちも独立したばかり。退職金はもともとない企業でしたので離職は関係ないですが、老後資金の用意もほとんどなく、住宅ローンもあと5年残っている状態。稲田さんはどうしようもない息苦しさを感じます。自主退職であったため失業給付もすぐには受け取れず、仕方なく単発のバイトを掛け持ちしながら生活することになりました。
さらなる追い打ち
単発のバイトで稼げる収入では、いくら休みなく働いても年収240万円ほどにしかなりません。すぐに健康保険の保険料や住民税、住宅ローンの支払いに悩まされることに……。フルタイムで雇ってくれるところもなく、単発のバイトを組み合わせながら生活していましたが、安めば収入が減ってしまうため体調不良でも無理して出勤する過酷な毎日。
ある日、バイトでへとへととなっていた帰路の途中。妻から「帰ったら、大事な話があります」とLINEがありました。嫌な予感がしましたが、なんとか家に着きました。扉を開けると妻が居間の椅子に神妙な面持ちで腰かけていました。稲田さんが向かいに座ると、妻は口を開きます。
「離婚しましょう。お互い高卒というわりにはいい暮らしをさせてもらったことに感謝しています。でも、子供たちも自立してくれたし、もういまの状態のようなあなたと一緒にいる理由はないの。ここの支払い(住宅ローン)、きっちり頼みますね」
妻はサラリーマンとして最後に惨めな思いをした夫を情けなく思ってしまったようです。いろいろと話し合いましたが、結局離婚することとなった稲田さん。人生の伴侶を失い、年金分割により削り取られた年金額(月12万円の受給)で今後も不安な老後を送ることになりました。
会社都合扱いの退職にできた可能性も
今回のケースは、会社の体質や社長の人事に問題があったことはいうまでもありません。本来でしたら賃金の低下が想定されるような人事異動に対しては拒否することができます。
また、この状況ですから最悪会社と交渉することで会社都合扱いの退職にできた可能性もありました。その場合であれば失業給付も7日の待期期間が終わってから早期に受け取ることができたので、少し余裕を持って次の職探しもできたことでしょう。
そして、「嫌でも我慢するのが仕事」という価値観が今回は裏目に出てしまったといえます。この会社のように中小企業では雇用に関する法令を軽視し違反している企業も多数あり、今回のような無茶な人事異動を命じる経営者も少なくはありません。
経営者からいわれると逆らえないという方も多いのですが、自分の生活を守るためにはやはり自分で自身の権利を主張する必要があります。流されて異動に応じてしまった稲田さんにも責任はあるといわざるを得ません。本記事で取り上げたような会社の横暴に対して、社会保険労務士や弁護士に相談し、専門家とともに戦うことも選択肢のひとつだったでしょう。
会社員は自営業者などと比較すると安定しているというイメージもありますが、組織に依存すれば稲田さんのようになってしまうリスクは避けられません。経営者に不要と判断されて本人の意思で辞めるように仕向けられることもあります。
不確実性の現代社会においては、今回のケースのように会社を離れなければならないときに、他社に行っても戦力になれたり、自分で事業を始めて収入を得ることができるような能力や人脈を形成したり、ひとつの会社に依存せず、いざとなればいつでも会社を辞めても問題ない状況をつくっておくことが本当の安定といえるでしょう。これは、若者に限らず稲田さんのような世代の人にもいえることです。
定年前後に会社都合で辞める人たち
今回は長年勤めてきた会社に裏切られてしまい、中間所得層から転落して貧困に陥ってしまった稲田さんの事例をお伝えしました。
令和4年雇用動向調査結果の概況(厚生労働省調査)によりますと、55歳~59歳では会社都合による退職が10.7%、出向やその他の理由によるものが10.3%、60歳~64歳では会社都合は 6.7%、出向やその他の理由によるものが3.8%と、同年代の離職理由ではどちらかといえば退職者のうち10%~20%が会社都合となっており、職場の人間関係による離職も55歳~59歳では12.1 %、60歳~64歳では18%といずれも高い割合となっています。
「長く真面目に勤務していれば、会社が給料を払ってくれる」
このように思われている方も多いのですが、現実は一概にそうともいえないということは、このデータから読み取れることでしょう。
自分の人生を、信頼できない誰かに完全に委ねてしまうような状態はなるべく避けるべきでしょう。たとえ会社員であっても、自分で自分の人生をコントロールできる力を身につけることが、真の経済的安定といえるのではないでしょうか。そうした安定を手に入れるためにも、収入が一時的に途絶えても問題ない資産を確保すること、自分の望む生活を実現できる収入を得られるようなスキルやキャリアを形成することが大変重要です。
もしかすると稲田さんの妻は夫に老後を委ねるのをやめ、パート勤務ながらも経済的に自立する準備を少しずつしてきたのかもしれません。
小川 洋平
FP相談ねっと
CFP
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