自己評価が低いのは実は「自分への期待」が高いから? 責任がある仕事から逃げてしまいがちな人に役立つ「課題分析」という武器【精神科医が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月26日 6時15分
繊細すぎたり敏感すぎたりする傾向を持つ「HSP(Highly Sensitive Person)」。心理学上の概念で疾患ではないため「治療」の対象にはなりませんが、そのような気質を持った人が少しでもストレスや悩みを軽減させるための工夫や解決策とは? 本記事では、精神科医の西脇俊二氏の著書『繊細な人をラクにする「悩み時間」の減らし方 』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集して、事例別に解決策を紹介。第2回目のテーマは「自己評価が低い人への処方箋」です。
リアルな実力を見積もって天井を低く設けがち
どちらかというと謙虚で控えめ――。自分の性格をそう捉えている方も、皆さんの中には多いと思います。その理由は、完璧主義のせいで、自分の欠点が目につきやすいからです。
謙虚さは一見良いことのようですが、損することも多々あります。たとえば、人から見たら十分上手にできていることを「いえいえ、私なんて全然ダメです」と卑下しすぎて、「イヤミ?」と捉えられてしまったり。
もっと大きな損もあります。自己評価が低すぎて、高い目標を設定できないことです。子供のころ、習い事で「頑張れば賞が取れるよ」と言われても、「私は競争なんてしたくない」と、尻込みしたことはありませんか? 10代のころ、本当は絵を褒められたのが嬉しかったのに、普通の大学だけを受験したことはなかったでしょうか。
もちろん「競争はイヤだ」という考え方も、尊重されるべきです。でも、本音のところはどうでしたか? 「どうせ、私なんかには無理だ」と思っていたのなら、それは明らかに「機会損失」です。自分の実力を低く見積もって目標を控えめにすると、結果も控えめになります。それは、先々の可能性を狭めることになりかねません。
習い事や大学なら、まだ若いですから、別の機会でやりなおしもきくでしょう。しかし、大人になっても相変わらず、同じクセがあるなら……? 仕事のチャンスを逃すかもしれませんし、意外なところでは、恋愛での失敗も増えます。
「ちょっと価値観が合わないけれど、せっかく誘ってくれたんだし」「今一つわかり合えていないけれど、やっとできた彼だし」と妥協的にパートナーを選び、最終的にひどい別れ方をして、恋愛そのものが怖くなってしまう―自己評価の低い人が陥りがちなシナリオです。もし心当たりがあるなら、自己評価を高める練習を始めましょう。
それには、「自分に期待しない」が効果的です。「逆じゃないの!?」と言われそうですが、これが一番の処方箋です。自己評価が低いのは、自分への期待が強すぎて、しょっちゅう自分にダメ出しをしてきたからです。期待を解除すれば自分をフェアに見られて、適度な自信が備わり、恐れも解除され、実力に見合ったチャレンジができるようになります。
ただ、前述の通り、これは習得までに時間がかかります。そこで、簡易な方法を一つ紹介します。「褒められた経験」を、一つでも多く思い出してみましょう。親、学校の先生、友人、同僚、先輩後輩、上司、誰から言われたことでも良いので、過去から現在まで、書き出してみましょう。……どうでしょうか? おそらく、素直に認められないものが大半でしょう。
「それくらいで褒められても」「まぐれだったんだけど」「買いかぶられてる」「これは見当違いだから」と、反論がたくさん出てくると思います。
お気づきでしょうか? それこそが、低すぎる自己評価のバイアスです。「それくらいで褒められても」は、期待値が高すぎて目が曇っている証です。
「まぐれ」「買いかぶり」「見当違い」も同じです。そのときたしかに、相手にはそう見えたのです。相手から見て素晴らしいことを、あなたはたしかにできていたのです。
バイアスが重症だと、「気の毒だと思って大げさに褒めてくれたんだ」「慰めるつもりで美点を捏造してくれたんだ」という発想も出やすくなります。しかし、それこそが捏造なので、無視してください。自分に対してどれくらい偏った判定を下してきたか、気づきましょう。
かつて自分で性急に却下してしまった成功体験と、もう一度向き合いましょう。きっと、知らなかった自分の可能性が、少しずつ見えてきます。
大きい仕事・責任ある仕事から逃げてしまう
先ほど「自己評価が低いと仕事のチャンスを逃してしまうかも」と書きました。これはすでに、経験のある方も多いのではないかと思います。
新規プロジェクトを任される、昇進を打診される、研修の指導役を頼まれる……など「大きい仕事」のオファーを受けたとき、「私ごときにはそぐわない大役だ!」と勝手に思って、断ってしまったことがありませんか? 次に同じようなことがあれば、今度は「私なんかに務まらない」と決めつけず、落ち着いて考えてみましょう。
まず、「自分が思う自分」の印象にとらわれないこと。相手が大役を頼んできたということは、相手は「できる」と思っているわけです。つまり自己評価よりも、他者からの評価のほうが高いのです。百歩ゆずって、本当に過大評価だったとしても、実は問題ありません。現時点で実力が備わっていなくとも、「役」に成長させてもらえばいいのです。相手はたぶん、それも予測しつつオファーしてきています。
役に就いてから実力を伸ばすことは、方法さえ知っていれば必ずできます。その方法は、第1回目で学んだ「スモールステップ」です。実力が出せないのは、実力がないからではなく、怖かったり不安だったりで尻込みしてしまうからです。そこをクリアするためには、1段を小さくするのが得策です。仕事が動き出す前の準備期間から、細かく分けるクセをつけておきましょう。
仕事の概要を予習するために資料を読むのがおっくうなときは、いきなり読もうとするのではなく、「資料をデスクに置く」「ノートを開く」「ペンを手に取る」「ノートにタイトルだけ書く」というふうに、細かいステップに分けて進めましょう。
仕事が動き出してからのイメージも描いておきましょう。役に立つのが、「課題分析」という方法です。これは我々医師が、発達障害の子供たちに行うアプローチです。繊細な人が「怖い」と感じることを、彼らは「わからない」と感じます。ですから、繊細な人よりもさらに細かい「小分け」が必要となります。
たとえば、ボールペンを分解する、という課題があるとします。そのとき、ただ「分解してみて」と言っても、発達障害の子供たちは困ってしまいます。「キャップを取って、ペン先側の銀色の部分を外して」でも、まだまだ段差が高すぎます。
「ボールペンを(右利きなら)左手に持つ」「右手でキャップを外す」「キャップをテーブルに置く」「右手でボールペンの先端の、銀色の部分を持つ」「それを右向きにひねる」「銀色の部分を外す」「銀色の部分をテーブルに置く」……と、これくらい細かい工程で進めるのです。そうすると彼らは、間違えずにきちんと分解できます。
「カレーを作る」というもう少し複雑なことも、同じ方法で進められます。細かく分解すると、全部で100近い工程になりますが、それを一つひとつカードにしてめくっていくと、独力で、きちんと完成にたどり着くことができます。このやり方を参考に、「手順シナリオ」を作ってみましょう。
仕事の目的、期間ごとの目標などの「大枠」からどんどん細分化していって、「初日の、最初の1時間にはこれをする」というふうに、予定を立てるのです。1時間刻みでも不安なタスクなら、15分刻みでも、5分刻みでも構いません。細分化すれば、怖さは減ります。怖さが軽減すると、どんなタスクでも無理ではない、と気づくでしょう。
細かな手順でしっかりとレールを敷けば、人間、たいていのことはできるのです。ボールペンの分解も、カレー作りも、新規プロジェクトも……宇宙に飛ばすロケットを作ることだってできます。「課題分析」という武器を携えて、新しい場所に打って出ましょう。
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