長年連れ添った配偶者に確実に財産を残したい…その悩みを解決するため〈生前〉にしておくべき「たった一つのこと」【終活のプロが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月19日 10時15分
近年子どもをもたない夫婦「おふたりさま」が増えてきていますが、そのどちらかが亡くなって相続が発生した場合、配偶者の兄弟姉妹(父母)と何をどう分けるかについて話し合う、遺産分割協議が必要になります。「夫婦で築いてきた財産なのに、相手の兄弟と話し合わないといけないなんて……」と思ったあなたに向け、本記事では、松尾拓也氏の著書『「おふたりさまの老後」は準備が10割』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集し、その話し合いを回避する解決策「遺言書作成」について詳しく解説します。
Q. 残された配偶者にすべての財産を渡すためにはどうすればいいですか?
A.「遺言書」を書くことで、配偶者に100%財産を残すことができます(例外あり)。
おふたりさまのどちらかが亡くなって相続が発生すると、配偶者の兄弟姉妹(父母)と、何をどう分けるかについて話し合う、遺産分割協議をしなければなりません。
「夫婦で築いてきた財産なのに、相手の兄弟と話し合わないといけないなんて……」と思ったあなた。その話し合いを回避する、シンプルな解決策があります。それが、「遺言書」です。
おふたりさまの場合、故人による法的に有効な遺言書があれば、遺産についての話し合いをせずに相続手続きを進めることができます。法的に有効な遺言書があれば、原則、遺言書に従って相続されるからです。
遺言書を作成しておくことで、遺産分割についての話し合いが不要になるだけでなく、遺産相続の手続きそのものがスムーズになるのです。ただし、遺言書を書いても、配偶者に100%遺産を渡せないケースもあるので、注意してください。
Q. 遺言書さえあれば、配偶者は本当にすべての遺産を受け取れますか?
A. おふたりさまの場合、兄弟姉妹には「遺留分」がないので、親亡きあとであれば、配偶者に100%財産を渡すことができます。
法的に効力のある遺言書があれば、相続人は遺言通りに遺産を受け取れる……はずですが、そういうわけにはいかないケースがあります。それが「遺留分侵害額の請求」です。
遺留分とは、一定の相続人が受け取る権利を主張できる相続分のこと。もっといえば、遺言を無視して遺産を受け取る権利のことです。たとえば、配偶者のように遺産が入ることを期待できる関係の人が、遺言書によって何も相続できないとなってしまったら、人生設計が大きく崩れてしまいます。
そのため、一定の関係性をもつ相続人は遺産を最低限受け取れるよう、遺留分という「最低限の取り分」が定められています。遺言書がこの遺留分を侵害していると、その分の相続財産を受け取った相続人に対して「私の遺留分を返してください」と請求することができるわけです。
遺留分は、ほとんどの場合法定相続分の2分の1と決められています。たとえば故人に2人の息子がいて、「財産はすべて長男に渡す」という遺言書があったとしても、次男には遺留分があるため、法定相続分の2分の1を受け取る権利があります(父母など直系尊属だけが相続人の場合、遺留分は法定相続分の3分の1)。
おふたりさまの場合は、遺留分を請求される心配が(ほとんど)ない
ただし、遺留分を受け取る権利があるのは、法定相続人のうち「配偶者」と「直系卑属(子や孫)」、「直系尊属(親や祖父母)」です。そのため、ある程度の年代に達したおふたりさまの相続の場合、配偶者以外の法定相続人は「傍系血族(兄弟姉妹)」しかいない場合が多く、その場合は遺留分がありません(図表1)。
そのため、法的に有効な遺言書があれば、配偶者に100%遺産を残すことができます。なお、おふたりさまであっても、再婚で相手や自分に子どもがいる場合は、遺留分の請求によって遺言通りの相続にならない可能性があります。
Q. ふたりとも亡くなった場合、遺言を実行してくれる人は誰ですか?
A. 遺言書に「遺言執行者」を指定しておきましょう。
遺言書が実際に活用されるのは、本人が亡くなった後のこと。すでに本人がこの世にいないだけに、遺言書に書いてあるだけでは、その内容を実現することはできません。そこで、遺言書には遺言の内容を実現してくれる人を指定する仕組みがあり、その役割の人を「遺言執行者」と呼びます。
◆本人に代わって遺言の内容を実現してくれるのが、遺言執行者
「遺言執行者」は、遺言の中で指定することができます。遺言執行者は、次の業務を行います。
【遺言執行者の業務】
●遺言執行者になったことを相続人に通知する
●遺言の内容を相続人に通知する
●被相続人の相続財産調査を行い、相続財産目録を作成し、相続人に交付する
●遺言書の内容を実行し、完了後相続人に報告する
遺言執行者は、不動産や預貯金、有価証券の相続や遺贈手続きといった通常の相続手続き以外に、子どもを認知する「遺言認知」や、虐待や重大な侮辱をした相続人から相続の権利を取り上げる「相続廃除」の手続きも行うことができます。
遺言認知や相続廃除は被相続人が生前に行うことも可能ですが、複雑な事情が絡むことなので、生前に行うことが難しい場合、遺言書によって自分の死後に実行することができます。
松尾拓也 行政書士/ファイナンシャルプランナー
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