相続対策の定番「毎年110万円の贈与」は時代遅れ…実は〈年間220万円〉まで非課税に?今年からはじまった「生前贈与」の“新常識”【税理士・公認会計士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月3日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
毎年110万円までの贈与が非課税であることを知っている人は多いでしょう。では、2024年から贈与税の課税方法が改正されていることはご存じでしょうか? 税理士法人グランサーズの共同代表で税理士・公認会計士の黒瀧泰介氏によると、この改定によって「年間220万円までの贈与を非課税にできる」そうです。その方法を詳しくみていきましょう。
これまでは「暦年贈与」1択だったが…
――2024年1月から、生前贈与制度が大きく変わったって聞いたんですけど、本当ですか?
黒瀧氏(以下、黒)「はい、大きく変わりました。
そもそも、贈与税の課税方法には
●暦年贈与
●相続時精算課税制度
の2つの制度があります。
2023年までは「暦年贈与」のほうが使いやすいといわれていたため、相続時精算課税制度を使っている人はほとんどいないという実態がありました。
しかし、今年の1月からは逆に暦年贈与の使い勝手が悪くなり、その一方で相続時精算課税制度が改良され使いやすくなったのです」
――なるほど! では、これからは相続時精算課税制度をどんどん使っていったほうがいいということですか?
黒「残念ながら、そう言い切ることはできません。『相続時精算課税』にはメリットもある一方で、デメリットや注意点もあります。
したがって、一概におすすめできるわけではありませんが、暦年贈与と相続時精算課税制度をうまく使い分けることによって、年間220万円まで非課税にできるようになったんです」
――へえ! そうなんですか!
黒「今回は暦年贈与と相続時精算課税の変更点と、年間220万円まで非課税にする方法をみていきましょう」
相続時精算課税が使われてこなかったワケ
黒「2023年までは、贈与税というと基本的には暦年課税で、相続時精算課税はほとんど使われていませんでした」
――なぜ使われていなかったのでしょうか?
黒「相続時精算課税は暦年贈与にある基礎控除がなく、節税効果が乏しかったためです。
仮に、1億円持っている父から毎年700万円、4年間贈与したあとに相続が発生した場合を例に考えてみましょう。
贈与の累計が特別控除の2,500万円を超えた場合、超えた部分に対して一律で20%の贈与税がかかります。
したがって、700万円×4=2,800万円のうち、2,800万円-2,500万円=300万円が贈与税の対象になり、300万円×20%=60万円の贈与税を支払うことになります。
そして2,500万円は贈与時は非課税ですが、相続税額を計算するときに生前贈与分もまとめて足し戻されるので、1億円に対して相続税が課税される、というわけです。贈与税として支払った60万円については、相続税から控除されます」
――ということは……節税効果がないじゃないですか!
黒「そうなんです。2023年まで、相続時精算課税制度には年110万円の基礎控除がなく、かつ少額の贈与であっても毎年申告が必要になるため、使い勝手がよくありませんでした。
さらに、2,500万円までの贈与税が非課税になるだけであって、相続時には計算し直さなければならず、対象財産はしっかり課税されるので節税効果が乏しいことから、暦年贈与を選択される人が多かったんです」
2024年からは、相続時精算課税も「110万円」まで非課税に
黒「しかし、2024年からは、相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除が設けられました。これにより、相続時精算課税でも年110万円までの贈与であれば非課税で、申告も不要になります。
相続時精算課税で相続税の課税対象として持ち戻されるのは、基礎控除「年間110万円」を控除したあとの残額の合計でOKとなります。
先ほどと同様に、1億円持っている父から年間700万円の贈与を4回受ける場合を考えてみましょう。
この場合、700万円から110万円の基礎控除を引いた590万円が、特別控除の対象になります。トータルでは590万円×4=2,360万円の全額が特別控除の対象となり、贈与税は全額非課税になります。
相続財産は7,200万円+2,360万円=9,560万円で、この金額に相続税が課税されます」
――基礎控除ができた分、相続財産を減らすことができるようになったってことですね。
黒「はい。年間110万円までの基礎控除の分は、贈与税も相続税もかからない、とても“おいしい制度”になりました。
さらに、相続時精算課税を選んだ場合は、暦年課税の「持ち戻しルール」は当てはまりません。したがって、相続前7年間に贈与があるときは、相続時精算課税制度を選択したほうが結果的に有利になる可能性が高いです。
暦年課税と比べて持ち戻し期間がないので使いやすく、今後は相続時精算課税制度を使ったほうが税金を抑えられるケースが増えそうです」
――相続時精算課税制度が改正され、基礎控除が新設されることにより、
●基礎控除年間110万円までは贈与税・相続税ともにかからない
●基礎控除分の申告は不要になる
などの利点が出てくるということですね。
基礎控除のいいとこ取り…「年間220万円」非課税にする方法
――2つの制度の違いや今年からの変更点がわかったところで、基礎控除の“いいとこ取り”をする方法を教えてください。
黒「実は、暦年贈与と相続時精算課税制度は、贈与者ごとに選択ができます。
これはつまり、『祖父からは暦年贈与でもらい、父からは相続時精算課税制度でもらう』といった使い分けができるということです。
祖父からは暦年贈与で年間110万円、父からは相続時精算課税制度で年間110万円の贈与をされるとしましょう。すると、どちらも基礎控除内ですので、合計220万円が非課税になります」
――なるほどなるほど。いままでは基礎控除は暦年贈与の年間110万円だったのに、今年からは倍の年間220万円が非課税になるんですね! ということは、複数人から相続時精算課税制度で贈与を受ければ、110万円×人数分非課税になるということですか!?
黒「残念ながら、それはできません。複数人から相続時精算課税制度を使って贈与を受けた場合には、110万円の基礎控除を、贈与を受けた金額で按分することになっています。
たとえば、同じ相続時精算課税制度で、父から700万円、母から300万円の贈与を受けたとします。その場合は7:3で按分して、父からの贈与のうちの77万円分と、母からの贈与のうちの33万円分が基礎控除として非課税となります」
――なるほど。基礎控除110万円を按分するんですね。
黒「同様に、暦年贈与についても、贈与する人が何人いたとしても、暦年贈与の基礎控除は合計で110万円です。したがって、何人から贈与を受けても、暦年贈与と相続時精算課税制度の2つの制度を合わせて最大220万円が基礎控除、つまり非課税枠となります」
――なるほど。非課税になるのは何人でも最大220万円ということですね。
相続時精算課税制度の「注意点」
――最後に、相続時精算課税制度で注意しなくてはいけないことを教えてください。
1.相続時精算課税制度を1度選択すると、暦年課税には戻れない
黒「1つ目は、相続時精算課税制度を1度選択すると、暦年課税には戻れないということです。
たとえば相続財産が多く、贈与時から7年以上生きた場合は、暦年贈与で贈与税を払って110万円以上の贈与をしたほうが、贈与税と相続税をトータルで考えたときにお得になることもあります。しかし、あとから暦年贈与にしとけばよかった、と思っても変更はできません。
――しっかり考えてから切り替えたほうがいいですね。
2.「相続時精算課税制度」で土地などを贈与した場合、「特例」を使えない
黒「もう1つの注意点は、相続時精算課税制度を選択して土地などを贈与した場合、相続税に関する「小規模宅地等の特例」を使うことができない、という点です。
この「小規模宅地等の特例」は、適用されれば相続税評価額が最大80%減になる、かなり節税効果の高い特例です。たとえ相続時精算課税制度を利用して贈与税がかからなかったとしても、小規模宅地等の特例が使えないことで、かえって相続税が高額になる可能性があります。
この選択は判断がなかなか難しいので、税理士などの専門家に相談することをおすすめします」
黒瀧 泰介
税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士
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